2012/11/30更新
経産省前テントひろば代表 淵上太郎
「テントひろば」は、昨年9月11日、福島原発事故緊急会議に集まる人々を中心に初めての経産省包囲行動が成ったその日に建てられ、今年9月11日で1年となった。
地震と津波による東電福島第1原発の大事故は、福島県民を中心に筆舌に尽くしがたい深刻な被災をもたらした。原発が決して安全ではなく、事故後の東電や政府行政の対応も極めて不十分なものでしかなかった。だからこそ多くの人々が脱原発、反原発の要求を掲げて運動に立ち上がった。もちろん、福島原発事故は収束していない。原発の安全性や事故の検証、原因の究明や責任の追求、損害の賠償など深刻な問題で未解決なまま、故郷に帰りたいという切ない願いを逆用して、除染で復興といった本末転倒な政策がまかり通ろうとしている。
経産省前テントは当初、持続的・継続的な脱原発、反原発運動の一つの政治的な拠点としてのテントという直観は働いていたものの、こんな形で1年を超えて建っていることは、誰も予測できなかったことである。しかし昨年の秋、「原発いらない福島の女たち」を中心に福島の女たちが、このテントに事実上合流することになった。福島の女たちも、一緒に座り込みをさせて欲しい、ということだった。原発事故によって怒りが日常化し、それをどのように日本の具体的な政治に叩きつけようかと構える福島の女たちに、テントはそういう場所として受け入れられたのだろうと思う。
福島の女たち約100名が昨年10月27日から3日間だがテントに合流し、それを支える全国の女たちが結集した。翌30日からは、今度は全国の女たちが11月5日まで1週間、残った福島の女たちと共に闘いを継承した。11月5日の夜、テント前でささやかな交流会も行われたが、だれもが「再会」を誓っての一時的なお別れの宴であった。福島の女たちとの再開は以外と早く実現し、11月1日から椎名千恵子さんをはじめとする「未来を孕むとつきとおかのテントひろば行動」が始まり、「とつきとおか」たつ同じ9月11日以降、「原発いらない女たちのテントひろば〜福島とともに」を生み出した。福島の女たちとの交流は、むしろわれわれがはげまされ、経産省前テントの役割を次第に自覚させるものともなったのである。
昨年11月11日には土砂降りの雨の中、福島原発事故緊急会議の人々を中心に再度の経産省包囲行動」が成功したが、テントの存在も一定の貢献になった。明けて正月には「餅つき大会」を挙行し、更には5月5日に稼働原発が全て無くなるという流れのなかで、本当にこれを闘って実現するべく、瀬戸内寂聴さん、澤地久枝さん、鎌田慧さん、落合恵子さんなどの参加をいただきながら、4月17日から延べ100人の人々によって5月5日まで約20日間、「再稼働反対」のハンガーストライキを敢行した。これは、福井・大飯原発の再稼働に反対して若狭の中嶌哲演住職が福井県庁で3月24日からハンストに入り、福島の女たちがこれに連帯するリレーハンストに入ったのであるが、今度はわれわれがハンストに合流するといった形になったものである。
5月5日、わが国の稼働原発はゼロとなった。全国の脱原発運動が闘って得たものであった。われわれは、原発ゼロの日を子どもたちへ、ということで、その歓びを素直に表す祝日として迎えた。
だが7月1日、大飯原発3・4号機の再稼働が強行された。テントひろばも、全国的な資金援助のもとで、3度にわたって福井・大飯の現地にかけつけ、抗議の声を挙げた。われわれのことだけでなく、大飯の原発近くに建てられた「再稼働反対監視テント」に結集した若者たちの身体をはった「36時間にわたる阻止闘争」も特筆しておかねばならないことである。
福島原発事故は何も解決していない。6万人を超える人々が県外に避難している現実がある。福島第1原発1・4号機には未だに人が立ち入れず、現状を維持するのが精一杯である。それでも再稼働を言うか!? 何が復興なのか!? また、多くの人々は、今でも「(再稼働した)大飯原発を止めろ」と言っている。もともと6月末までは止まっていたのだから、止められないはずはない、ということだ。
経産省に突き刺さった小さな棘は、全国の人々の共感と支援のもとで成長してきたが、再稼働反対の運動はまだまだ続く。「命より金だ、経済だ、電気だ」という原発再稼働の動きがある限り、テントも続く。テントの存在を巡って、右翼等の執拗な妨害・脅迫、そして未だに一般市民国民より一段上の立場にいると誤解している経産省官僚などとの攻防は厳しさを加えるかもしれない。しかし、大飯原発に見られるように、再稼働ありきの立場から、伊方や泊、志賀、川内原発の再稼働を目論む輩がいるかぎり、われわれが自らの意志でこのテントを引き払うことはない。
経産省前テントひろばは1周年を迎え、改めて「3・11福島原発大事故」の原点に還りつつ、脱原発、反原発の持続的な闘いの共同のひろばとしての役割を果たしていきたいと決意している。