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2012/10/23更新

今、大阪で何が起きているのか

『ハシモト』的手法を暴く」シンポジウム(東京)

中身のない多数の意見ではなく民意を良質にして政治を動かそう

大阪を舞台に繰り広げられている、人権侵害と言葉の暴力に満ちた「ハシモト」的政治手法の本質を暴き、差別や偏見による扇動とどう効果的に闘うかを考えるシンポジウムが、9月22日、東京都内で行われた。「橋下は、民主主義に対する幻滅を最大の養分として成長した怪物」と山口二郎氏は分析した。(ライター・清水直子


主催したのは、「公人による性差別をなくす会」。石原都知事の女性差別発言(「ババァ発言」)に対して、裁判で発言の撤回と謝罪を求めて活動した女性たちが中心になり、09年4月に発足した(石原都知事が、2001年10月に、「文明がもたらしたもっとも悪しき有害なものはババァ」「女性が生殖能力を失っても生きているってのは、無駄で罪です」と、惑星科学者の松井孝典氏の「おばあさん仮説」が出所であるとして発言。しかし、後に松井氏は、「石原氏の発言は、自分の理論と真逆の内容である」と述べた)。

パネリストは、国際人権情報の拠点を目指して活動しているアジア太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)所長の白石理さんと、女性のための相談事業などに取り組む「女性のための街かど相談室 ここ・からサロン」共同代表の中野冬美さんという大阪から迎えたお2人と、政治学者で北海道大学教授の山口二郎さん。コーディネーターは、元「石原都知事の女性差別発言裁判」代理人でもあり、男女差別賃金裁判や性暴力被害者のための代理人を多数勤める弁護士の中野麻美さんが務めた。

石原暴言を引き継ぐハシモト発言

冒頭、中野麻美さんは、「石原都知事の女性差別発言裁判の総括がこの集会の出発点である」として、石原都知事の女性差別発言が、橋下徹大阪市長の各種暴言に引き継がれている、と指摘した。

白石さんが所長を務めるアジア太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)は、08年2月に橋下氏が大阪府知事(当時)に就任すると、大阪府からの補助金の廃止対象とされ、翌09年に補助金が廃止された。これに続き、大阪市からの補助金も廃止。「府民に対して研究成果が十分還元されておらず、府としては法人運営に関与する必要性は少ない」という理由だったという。他にも、人権、平和、男女共同参画に取り組む団体への補助金が廃止・減額されている。

白石理さんは、「橋下さんは、役に立たないものに行政がお金を出す必要はない、と言った。しかし、人権・平和・男女共同参画に取り組む団体や博物館がなくなって、果たしてその必要を誰が埋めるのか」として、「金儲け」の対象にならない事業を切り捨てる姿勢を「行政とビジネスを同列にとらえている」と批判した。

中野冬美さんは、今年4月に大阪市改革プロジェクトチームによって提示されたクレオ大阪(大阪市立男女共同参画センター)5館全館廃止(最終的にはクレオ中央1館は存続)の動きについて、「男女共同参画センターの役割は終わったと言うが、日本のジェンダー・エンパワーメント指数(女性の経済・政治の参画度合いを示す)は『先進国』中最悪。この状態で、男女共同参画センターの役割が終わったと言える首長がいることことが、役割が終わっていないことを示している。センターは施策の実現の場でもある。廃止は施策の実現を放棄することになる」と指摘した。

山口二郎さんは、石原都知事や橋下市長が支持を集める背景について、こう説明する。

「彼らはなぜ人気があるかといえば、建前と化した人権や戦後民主主義に悪態をついているから。子どもの頃、学校で人権や民主主義はいいものだと当たり前のように押しつけられたことに対する反発が、広範囲にある。世の中全体が貧しくなると、人権の名の下に差別された人を救済する仕組みが、利益団体に付与された特権のように見えてしまう。人権というと特定の騒がしい奴らに怪しい利権を与えているだけではないか、という民主主義不信を、行政が作ってしまった。それを行政の長が遠慮なく叩くので、拍手喝采するという構図がある。しかし、『先進国』で日本ほど人権が軽んじられている国はない」。

建前と化した人権・民主主義を徹底的に叩く手法

山口さんは、堀田善衛のエッセー「出エジプト記」(『天上大風』所収)から、「民主主義とは、それ自体に、これが民主主義か?という幻滅の感を、あらかじめビルト・インされたform of govermentなのであった」という一節を引いて、「橋下さんは、まさに民主主義に対する幻滅を最大の養分としてここまで成長した怪物。自民党政治が嫌になり、民主党に政権交代しても、ヒーローを待つという気分で民主主義を見ていると、常に幻滅し、幻滅するたびにもっとひどいものを引っ張り出すことの繰り返し。ヒーローを求めず、幻滅するのが当たり前という覚悟でいこう」と呼びかけた。

「最近、領土問題をきっかけに、ナショナリズムが橋下さんを支持するポピュリズムとワンセットになるという戦後最悪の政治状況になっている」(山口さん)というなかで、事態を打開するにはどうしたらよいのか。

中野冬美さんは、「橋下さんは、マジョリティの意見を体現しているだけで、『千と千尋の神隠し』に出てくる『顔なし』のようなもの。人々の欲望を食い、形のあるものになっているが、中身はない。『顔なし』に対抗するには、一人ひとりが『顔あり』になるしかない」と言う。

山口さんは、「19世紀前半にアメリカの民主政治を観察したフランスの政治思想家、トクヴィルは、衆愚政治ではない民主政治はどうしたら可能かということを研究し、出した答えは、中間団体の存在だった。アメリカでは、教会、地域コミュニティなど、人々が自発的に集まり、対話をし、公共的問題について議論をする場がある。生の絞りたての民意は、ポピュリズムやナショナリズムに走る可能性がある。民意を練り、発酵させて質の良いものにして民主政治を動かすという取り組みを広げることには、可能性がある」と語る。

この解決の方向性は、湯浅誠さんらが呼びかけて、大阪で始まった、おまかせ民主主義から脱し、社会参加するために何かしたいという人を応援するAIBO(Action Incubation Box Osaka)の目指すところとも重なるようだ。

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