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2012/10/4更新

尖閣国有化  反日デモ

在中国日本人教師 現地レポート

私を窮地に追い込んだ野田首相 守ってくれる日本語学科学生・教師

 野田政権による尖閣諸島国有化で一気に燃え広がった反日デモ。9月18日は、柳条湖事件の記念日。否が応でも愛国心が高まるその日の直前に「国有化」を宣言するという外交音痴ぶりを発揮した野田政権だが、中国政府は「売られたケンカ」として反撃の手を緩める気配はない。今後経済制裁も含めて、対立はエスカレートしそうだ。

 反日感情が高まる中国で暮らす日本人は、これをどう受け止め、どう過ごしているのか? 中国江西省の南昌市にある江西財経大学で日本語教師として働く田中弘美さんに、電話で現地の様子を聞いた。田中弘美さんは、中国滞在3年目。(文責・編集部)

突然周囲が緊張ムード

9月16日、突然、往来で日本語を話すことができなくなった。私が勤める大学は、中国内陸部の地方都市=南昌市郊外にある。江西省の中心都市とはいえ、普段はのどかな地方都市だが、9月15日からの数日で一気に緊張が高まり、街の雰囲気が一変した。大学当局は、私の身を案じて18日の授業を休講にし、「記念日が過ぎるまでは、キャンパス外に出ないこと。授業前には学生が資料室まで迎えに行くようにする。先生は私たちが守ります」と伝えてきた。

私と学生たちは北門のところで待ち合わせ、キャンパス構内にある野菜市場に買い出しに行き、宿舎にもどった。全く普段通りだったが、上海領事館からの再三の注意喚起もあったので、日本語を話す時はヒソヒソ声で「ちょっと、卵も買いたいんだけど」とか「そうですね。先生、この際2週間分ぐらい買いだめしたらどうですか」など、しょぼいのなんの。宿舎の部屋に戻ったときの解放感たらなかった。

午後、宿舎管理人のミズ劉が電気屋さんとともに現れた。薄型テレビ設置後のメンテナンスのためだ。彼女は中国語と身振り手振りで、「何でもない、問題ないよ。もし変な奴がここに押しかけてきたら、私とミズ呉(もうひとりの管理人)が、絶対に阻止するから。ボコボコにやってやる!」とビシバシ叩く仕草。私を励ますためにそう言ってくれるのが、本当に心に沁みた。彼女は、東北大災害のときも、仏様に拝んでくれた人だ。

夜、財大の大学院に進学した教え子が、「何か買うものはありますか。野菜や果物は何が欲しいですか?」と電話してきてくれた。こんな困ったときの助けは、どれほどありがたいか。感謝を述べると、彼女は「先生は私の先生ですから。心配しないで。私は授業がないとき暇ですから」と、大学院に入ったばかりであれこれしなければならないことがてんこ盛りのはずなのに、こう言ってくれるのだ。思わず、グッときた。

往来を歩きながら日本語で話せなくなる日が、このように突然やってきたのだ。全て、日本の奥深く安泰な場所で、好戦的なアイディアを考えた石原都知事と、それを人気取りだと思って、税金使って「国有化」なんてことをしてしまった野田総理のオカゲである。

「日本人教師を守る対策会議」

15日の午後、日本語学科主任教師から、大学側の対応について次のような説明があった。学長が「日本人教師を全力をあげて守りなさい」と指示し、外国語学部は共産党書記、学部長、日本語学科教師 4人が「日本人教師を守る対策会議」を開いて当面の対策を決めたという。具体的には、@授業のある日は、宿舎のある蛟橋キャンパスから講義棟の麦盧キャンパスまで特別車で送迎する。A車には日本語学科の中国人教師が交代で付き添う。B買い物も中国人教師が代行する。C宿舎に当面学生は遊びに来させない。

そして、主任教師は「こんなことになって申し訳ありません。希望を失わないで頑張りましょう」と言ってくれた。 だけど大学が悪いんじゃない。まして、先生たちのせいでは決してない。政治が私たち庶民の命運を握っているのだ。

普段日本では、こうした緊迫感はあまり感じない。しかし、本当はそうなんだ。政治によって私たちの生活は命までも簡単に押しつぶされてしまう。石原も野田も、そんなことに関心はまるでない。自分のしたいこと、自分の人気、自分の保身…。私たちは政治家に引きずり回される奴隷ではないんだ!

 もの悲しく響くサイレン

9月18日は、柳条湖事件(関東軍による満州侵略のきっかけを作った事件)の記念日だ。南昌市では、毎年この日にサイレンを鳴らす。ときに高く、ときに低く、とても物悲しい音だ。胸に痛く響く。反日ムードがピークに達する可能性があるため、この日の私の授業は休講になった。

19日と20日はVIP待遇で、手配された特別車で送迎されつつ、授業をした。野田内閣が「尖閣国有化宣言」をしてしまった先週、教室は実にショボかった。学生たちは、ガックリして声も出ない。直接私には言わないが、日本政府の決定に唖然としていた感があったし、これからどうなっていくのか、不安そうな様子が見て取れた。

日本語学科の学生たちは、自分で選んできた子もいるが、員数合わせのために大学によって配置された子もいる。それでも勉強を続けるうちに、日本や日本人に興味や親しみを覚え、学部を変われる2年次にも、ほとんどの学生が日本語学科に継続して在籍する。毎年そうだ。

今週の私の課題は、打ちひしがれた学生たちを励ますことだ。そしてひとりの日本人として、この反日デモをどう思っているか、少しは言わねばならない。政治的発言はするなと言われているが、こうした事態に沈黙するのはあまりにも無責任だ。

彼女ら・彼らは、事実の詳細をかなり把握していた。日系企業、日本車、店舗、日本人への攻撃と破壊、略奪・暴行について、私が例を挙げ、「絶対に許せない蛮行です」と言うと、みんな顔を歪めて、「恥ずべき行動です」と頷く。

ついこの間、日本に留学した子もいる。こんな時期に留学して、どんなに不安だろう。しかし、「中国に居る日本人より、日本に居る中国人の方が、安全でしょう。卵やラーメンやペットボトルをぶつけられた、という話は聞いていないからね〜」と、皮肉っぽく慰めると、皆苦笑していた。

今や日本語を専攻していることも、非常に言いづらい状況である。私は学生に向かって、「今はどん底だから、これからは良くなる。政治家も、これ以上馬鹿なことなんかできないだろう。淡々と勉強を続け、友好のチャンスを待とう」と締めくくった。

これまで勉強を全人生としてきた学生たちは、言われるまでもなく精一杯、日本語学習に取り組むだろう。彼女ら・彼らにできることはそれだけだ。貧乏で、純粋で、素直な日本語学科の学生たちが、翻弄され、打ちのめされることのない賢明な政治を願っている。

安全圏から強硬発言する石原都知事と尻馬に乗る野田首相

中国の大学に日本語教師として赴任した直後、2010年には、日本の領海を侵犯した中国漁船が、逃走時に海上保安庁の巡視船に衝突を繰り返し、船長が逮捕されるという事件が起きた。このとき南昌市でもデモが呼びかけられたが、極めて小規模だった。

今回の反日デモは、規模も強度も全く違う。また、紛争の原因を作ったのは、日本政府であることも明白だ。日本政府の国有化宣言を、中国はケンカを売られたと受け取っている。戦争を仕掛けられた、というくらいの受け止め方だ。しかも9・18という愛国心が高まる直前にやるというのは、野田首相がいかに歴史認識に乏しいかを見せつけている。とても恥ずかしいことだ。

さらに、日本の奥深くで、のうのうと旨いものを食べて、自分の言いたい放題、ゴミみたいな言葉を吐きちらしているのが、石原慎太郎という政治家だ。その石原の尻馬に乗って窮地に追い込まれているのが、野田首相だろう。石原慎太郎と野田首相は、広州市のデモで写真を踏みつけられていた。人の顔が踏まれるのは、いくら写真とはいえ見て気分のいいものではないが、あの2人に関してはしょうがないと思う。

 デモを煽る中国政府

中国のメディアは、反日デモについて「節度を守った立派なデモ」と、賞賛記事を掲載している。投石や略奪行為 についても、「国民の怒りが激しく、いくら警察といえども抑えることはできない。それほど国民の怒りは強い」との論調だ。

今回の反日デモに対して、中国政府の対応は非常に寛大だ。投石に対しても、見て見ぬふりをして、容認の姿勢を露わにしている。そういう意味で、政府に方向づけられた反日デモだといえる。18日の記念日には、政府当局が大学に「学生はデモに参加させないように」と命令したようだ。中国政府は、「売られたケンカ」として反日デモをコントロールしながら、国を挙げて反撃を続けるだろう。すでに経済制裁は始まっているようだ。日系企業からの中国進出申請について、審査中のものは許可するものの、新規申請は受け付けないと決定された。

中国は、身内で下手に出ている間は鷹揚に対応するが、敵として張り合うとなると、大国意識が出てくる。昔から中国は「世界の中心」という意識があり、それを日本が崩したと感じているようだ。一方野田政権は、国有化宣言を、いまさら取り消すわけにもいかないだろうが、こんなリスクを冒してまで国有化する必要がどこにあったのか?全く理解できない。石原都知事の尻馬に乗って国有化を宣言したものの、野田内閣も民主党も人気が上がるわけでもなく、どうしようもないお調子者だ。

 政府の主張を鵜呑みする市民、冷静な学生

今は、日本語学科の存続自体が微妙な立場に置かれている。学生たちも非常に肩身の狭い思いをしている。こうした事態を学生たちはどう観ているのだろうか? 先日、大学院に進学した学生から電話がかかってきた。外国語を学ぶ学生たちの寮の雰囲気を聞くと、「略奪行為まで至ったあのデモは本当に恥ずかしい」「中日両国にとって損失でしかない」と冷静に事態を観ているが、そうした学生は少数だ。テレビしか観ない一般の中国人は、日本も同じだが、政府が望むがままの反応をしている。

中国にとって魚釣島問題は、領土問題ではなく歴史認識問題となっている。過去の侵略された屈辱の歴史を想起させるテーマとなっているのである。これまでも日本政府は、2005年の小泉首相による靖国公式参拝など、侵略の歴史を思い出させる挑発的行為を行ってきた。その度に、彼らはそれらを昨日のことのように思い出すのである。

中国では、歴史教育が行きわたっているので、若い人も含めて、今回のような事件が起こると、愛国心に火がつきやすい。中国にとってアジアの国である日本から侵略を受けたショックは大きく、それだけに身内からの仕打ちとして憎悪が増幅されているようだ。日本の侵略は、屈辱の100年を象徴する厄災であり、英国やフランスへの怒りより強いと感じている。こうした中国の歴史教育に比べて、日本の歴史教育の不足は決定的だ。

日本はまた未来に禍根を残す選択をするのだろうか?

国家間の経済・教育・文化交流は、平和な環境の下でこそ発展する。交流の促進によって、その国の人々のフトコロも心も豊かになる。そのために、戦後多くの政治家たちは粉骨砕身の努力をしてきた。

1972年9月の田中角栄・周恩来による「日中共同声明」に至るまでの道のりは、決して平坦ではなかった。1958年、岸信介が総理大臣になると、中国敵視政策を展開したのに対し、周恩来が「@中国人民を敵視しない、A2つの中国を作らない、B関係正常化を妨害しない」と、大人の提案をして何とかおさめた。この年は、「長崎国旗事件」が起きた年でもある。日本人暴徒が長崎で中国国旗を引きずり下ろした事件だ。

同じく親台湾派の佐藤栄作政権下では、松村謙三、古井喜実などが、「党内から『屈辱外交』『土下座外交』と罵声を浴びせられ、中国側からも『佐藤の弁護人』『佐藤と結託』という言葉を投げつけられながら」粘り強い交渉を続けた。1972年の日中国交正常化は、未来を見据える両国の政治家の英知が実現させたものだ。

それから40年経った今、日本の政治家の中でも際立った言動を弄している石原慎太郎は、岸信介、佐藤栄作などにつながる親台湾派だという。彼は14日の記者会見で、中国の海洋監視船が尖閣諸島周辺に侵入したことについて、「気が狂ってるんじゃないかと思う」と語った。さらに「俺のものは俺のもの、おまえのものは俺のものとやられたら、世界中たまったものじゃない」「人の家に土足でずかずか踏み込んできたら、追っ払えばいい。…民族の伝統や文化を抹殺されて、あの国の属国になることがよっぽど嫌だね」。

日本国民は、この老政治家の口汚い言葉を、理性的に制止することもできないのだろうか。この文言は、中国をはじめ世界中にまき散らかされているというのに。

 「国有化」主張する誇り高きヒトタチへ

中国に来てから、何度となくかつての侵略についての見解を求められ、一日本人として謝罪もしてきた。腹の底では、「何度謝れば気が済むんだ」と思うこともあるが、結局それだけのことを日本はしてしまったんだと思うほかない。

「日本人は、中国人みたいに乱暴なことはしませんよ」という声を日本国内で聞く。今だけの状況を見れば、そうかも知れない。しかし、「満州事変」から1945年の敗戦に至るまで、日本人は中国人の国土も権利も誇りをも、文字どおり蹂躙した。1894〜95年の日清戦争もある。近代日中関係において、先に悪いことをしたのは日本なのだ。

最後に「誇り高き」尖閣諸島国有化路線のヒトタチへ、この言葉を送りたい。

─「誇り」をなくさないでいる人は、他の人の「誇り」を奪ったら、じぶんの「誇り」が失われることを知っている。  ─糸井重里

領土のことだけを言ってんじゃないんだよ。

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