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2012/9/14更新

激動 中東情勢 アラブ民衆蜂起後の新たな流動化が示すもの

中東民主化運動が、NATO軍空爆が実施されたリビア内乱あたりから変質させられている。現在シリアのアサド政権が、冷酷な独裁者として国際世論から批判を浴びているが、そのプロパガンダはかつてのフセイン批判を彷彿させる。両者とも褒められた指導者ではないが、欧米政権や湾岸諸独裁者には、彼らを批判する権利も道義もない。

映画監督・足立正生氏に激動する中東情勢のポイントを聞いた。「シリア内乱は、オイルマネーを使って、武装民兵集団を傭兵として総動員し、作り出されたもの。民主化の名の下に宗教的・民族的少数者が虐殺されている」と指摘する。(編集部)

民衆は、新たな世界をめざす

映画監督 足立 正生    

トルコ政府の転換促したガザ支援船団襲撃

事の始まりは、100万を越すトルコ民衆が、イスラエルの軍事封鎖に抗議して「ガザ民衆を救え!」と、医薬品や食料を募って支援船団でガザに向かった時かもしれない。

イスラエル軍は、その船団を公海上で急襲して9人を殺戮した。米国・イスラエルと軍事同盟を組んでいたトルコ政府はこれに怒り、イスラエルを公然批判。ガザ封鎖を支持している米国は、それを抑えることができなかった。

国家間の政治的な枠組みが、「ガザを救え!」と叫ぶ民衆によって塗り替えられ始めた瞬間だ。

現在の国際政治は、国家間の利益同盟を基盤に動いているが、もともと民主主義とは民衆の意思と希望を実現するためのものであり、国際政治は、民衆の意思に沿って世界の融和と平和を支えるシステムのはずだ。

ところが、イスラエルを擁護する欧米諸政権の実態は、現代政治を民衆の意思とは無縁の、グローバル資本の利益に追従するものに貶めていることが、この時まさに民衆の眼に明らかになったのだ。国家と民衆の意思がはがれ、相反し続けている現実への抗議の蠕動が地表に現れた瞬間だった。

一昨年のアラブ民衆蜂起は、民意を徹底弾圧する独裁政権に向けた抗議運動として開始された。親欧米路線ゆえに存続してきたアラブ独裁政権や封建王政に対して、民衆が「生きる権利を!」と要求し、チュニジアやエジプトで次々と独裁政権を倒した。

アラブ民衆蜂起は、中東から欧米の格差社会システムに対する「NO!」を突きつける若者の叛乱へと波及し、グローバリゼーションが強いる困窮社会の変革要求に結びついていった。 まさに、第2次世界大戦後から今日まで、姿を変えながら続いてきた現代資本主義体制を根底から変革する要求の開始であった。

 古い国際政治の瓦解

非欧米路線をとるイランの台頭を恐れた欧米・イスラエルは、「イランの核開発の脅威」を喧伝して、経済封鎖を発動してきた。そして現在は、シリアに対する敵対政策へと拡大している。この軍事行動を伴った敵対政策は、欧米・イスラエルとアラブ独裁王政諸国の一致した思惑によるもので、反米路線をとり続けるアサド政権打倒の行動だ。

資源独占と市場支配を保持しようとする欧米の野望は、アフガン・イラク攻撃で見られた如く、両国を焼け野原にし、国家体制のみならず社会基盤の復興すら実現できない事態を作り出している。

NATO軍は、リビア・カダフィ独裁政権の解体で、形だけの民主化を押し売りして石油ガス資源を収奪したが、世界支配の野望を捨てきれない欧米諸国は、一方的にイスラエルを支持し、同時にアラブ社会の分断を謀る二重基準を押しつけ、イスラエルの占領に反対する闘争を支援し続けるシリア総攻撃となった。しかし、国連で中国とロシアが拒否権を使ってシリア攻撃の国際政治上の合法性を封じたために、欧米はその策動の方向を転換し、民衆蜂起を換骨奪胎した「反独裁蜂起」に移行、専念している。

エジプトの転換と非同盟諸国会議

だが、これと真逆の新たな動きも始まっている。その第1の例は、民衆蜂起で誕生したエジプト・ムスリム同胞団系のムルシ政権だ。同政権は、親米一辺倒だった前ムバラク政権の外交路線と決別し、中庸イスラム主義を軸に全方位外交を展開し始めた。今後の中東政治地図を塗り替える転換といえるだろう。

先ず中国を訪問して経済関係強化を図り、次いでイランを訪問して、「善隣関係強化」を打ち出した。30年にわたって欧米の中近東支配の一角を担ってきたエジプトが、非欧米路線を明確にしたのだ。

エジプトの方向転換は、一方的なイラン制裁への世界的な異議申し立てへと結びついている。イランの核開発が「中近東の軍事バランスを壊す可能性を持つ」と危機感を煽り、イスラエルが「明日にはイラン攻撃を開始する!」とまで恫喝を続けてきた事態に対して、8月末、テヘランで開かれた非同盟諸国会議に100カ国以上が参集し、「イランの平和利用の核開発は非核路線と反しない」と決議。核の独占を目論む欧米の経済封鎖を、「二重基準で根拠がない」と、否定し去った。

第2の例は、シリア独裁政権の打倒を目指した国際連携の実態が暴露され始めたことだ。欧米諸国の意向に沿った湾岸王政諸国がシリア攻撃の軍資金を出し、軍事訓練は欧米の軍事顧問団が担うというリビア解体方式の国際連携の実態が、公然の事実となった。

当初は、報道機関の全てを動員して「民衆蜂起の高揚」を喧伝し続けていたし、日本のNHKや朝日新聞も無批判にそのキャンペーンの一翼を担ってきた。だが、民衆蜂起が自国に広がるのを恐れてバハレーンの蜂起を圧殺した湾岸王政諸国が、「民主化支援」を口実に、今度は「アサド独裁政権の打倒」を画策し、反政府諸団体を集めて「シリア国民評議会」を名乗らせ、「解放戦争」を行っている実態が暴露され始めた。

オイルマネーを使って、アルカイダをはじめとする中東地域の武装民兵集団を傭兵として総動員し、シリア全土で武装攻撃を開始して「内戦状態」を作り出しているのが実態だ。「民主化勢力」は、独善的な反政府団体間の野合であるために内紛をくり返し、「解放戦争」は、強盗集団の襲撃による民衆虐殺が実態で、シリアの無秩序化を生み出しているに過ぎない。この事態を「内戦状態だ」と喧伝する情報操作は、今やアラブ民衆にとっては週刊誌のゴシップネタ以下であり、「シリア暴動・政権崩壊は近い」との偽情報をCIAと共同して主導した『アルジャジーラ』も、ボイコットされて久しい。

民衆を虐殺するのは、シリア独裁政権だけではなく、湾岸諸国の王政独裁の方がより悪質であることをアラブ民衆は知っていて、妥協しないのである。米国の中東政策=「中東の民主化と自由市場化計画案」は、アフガン・イラク戦争以降、アラブ民衆の反米意識を強固にしたが、今や、アラブの民衆蜂起を歪めて親米路線に誘導しようとする湾岸の独裁王政が、批判と変革のターゲットとなるだろう。

つまり、グローバル資本の番頭と化した親欧米政権が国際政治の力学で野望実現のために押し切ろうとする支配システムは、民衆の意思に忠実な勢力の台頭で瓦解し始めているし、情報戦争も陰謀だけでは続けられなくなっている、と言えるだろう。

日本民衆の意志は一つになれるのか

「反独裁」を掲げたアラブの民衆蜂起は「新たな市民運動」へと発展し、次にスペイン、ギリシャ、イギリスの、金融資本のギャンブルに振り回され格差社会で困窮する民衆の叛乱へと共鳴を拡大した。民衆の意思を収奪する欧米の政権および経済主義の国際共同は、ことごとく反撃を食らい始めている。

日本では、アラブの民衆 蜂起と時を同じくして、東北大震災と原発崩壊の事態が起こった。歴代政権と産業界が「原発安全神話」で民衆を欺いてきた、長年の犯罪実態が明らかにされている。

それでも、民衆の意思を歪めたり盗んできた政官産学が癒着した複合支配体制は、被災者の救済補償や被曝防護を棚上げしたまま一年を過ごした。日本は今や、生活に窮する民衆の現実を放置するばかりか、消費増税と福祉切り縮めも断行する官僚独裁の国家になり果てている。全国で巻き起こっている脱原発の市民運動は、原発推進を図る首相官邸前を取り囲んで改変することを求めているのみならず、官僚独裁政治の崩壊を求め始めている。それは、アラブの民衆蜂起の象徴となったタハリール広場の民衆の怒りの塊と共通するものだ。

だとすれば、日米安保同盟を国家利益の第一条件としたために、全土を米軍基地に覆われた沖縄の異常と悲惨を民衆に押し付けてきた歴代政権の統治政策の犯罪もまた同時に問われなければならない。「地域開発」の名目で原発を過疎地に押しつけ、沖縄の悲惨を見て見ぬ振りしてきた日本の現状を変える要求である。その現実を容認してきた私たちは、その贖罪のためにも、この脱原発の運動と沖縄の基地撤廃の運動を一つのものとして担うことが問われている。

それが、今、中東に端を発して、世界中で民衆が意志を発信し始めていることと呼応して、世代を次いで社会を変えていく唯一の道だといえるだろう。

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