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2012/8/31更新

生活保護バッシングに抗して

餓死・孤独死を防ぎ 拡大する貧困問題の解決を!

日弁連主催 生活保護シンポ 報告

野田内閣は8月17日、2013年度予算の概算要求基準を閣議決定し、生活保護費削減の方向を明確にした。生活保護の利用率は人口の1.6%、捕捉率は2割程度と先進国中極めて低いなかで、安易な利用抑制はさらなる自殺、餓死、孤立死を招くのではないか。この疑

問に答えるようなシンポジウムが、8月1日、東京・星陵会館で「生活保護バッシングの陰で頻発する餓死・孤立死事件〜2012年秋とりまとめ予定の『生活支援戦略』策定上の課題を考える」と題して開催された。主催は、日本弁護士連合会。 (ライター・清水直子

増え続ける餓死・孤独死

芸能人の家族が生活保護を受給していたことをきっかけにした生活保護バッシングを背景に、給付抑制の方向で制度改悪が行われようとしている。厚生労働省が今年秋にとりまとめる「生活支援戦略」の「中間まとめ」には、すでに給付水準の切り下げや扶養義務強化が盛り込まれた。

一方で、今年に入り、生活保護を適切に利用できなかったことによる餓死や孤立死が相次いでいる。1月、北海道札幌市で、42歳の姉が病死、40歳の知的障がいを持つ妹が凍死しているのが発見された。姉が3回、生活保護の相談に行ったが、認められなかった。2月には、さいたま市で、60代の夫婦と30代の息子が餓死状態で発見された。住民登録はなかった。また、立川市でも同月、45歳の母親と4歳の知的障がい男児の遺体が発見されている。

餓死・孤立死を防ぎ、拡大する貧困問題を解決するため、社会保障・生活保護制度はどうあるべきか?

冒頭、国の取り組み状況の報告として、厚労省社会・地域援護局地域福祉課長・矢田宏人氏が「孤立死防止のための国の取組内容」を、また、同省社会・援護局保護課長・古川夏樹氏が「『生活支援戦略』取りまとめに向けた検討状況」と題して発言した。

矢田氏は、孤立死の特徴として「高齢者世帯や障がい単身世帯だけでなく、30代、40代の家族が同居している世帯も、世帯全員が死亡する事案が発生している」として、従来の枠を超えた総合な取り組みが必要と説明した。

具体的に、@自治体の福祉担当部局に情報の一元化を要請する、A高齢者団体、障がい者団体、民生委員などに福祉部局との連携強化を依頼する、B個人情報提供が制限されない場合について、個人情報をライフライン事業者に通知する、C地域作りを推進し、自治体の孤立死対策に国庫補助を実施する、などの対策を行っていくという。

古川氏は、「生活支援戦略」について、「厳しい経済的状況で、生活困窮者の問題が深刻化している」なか、「生活困窮者が経済的困窮と社会的孤立から脱却するとともに、親から子への『貧困の連鎖』を防止する」ことなどを基本目標にしている、と説明した。

しかし、「生活保護の見直し」として、「保護期間を定めて『早期の集中的な』就労・自立支援を行う方針を策定」、「保護基準についても、一般低所得世帯の消費実態との比較検証」を行うこと、さらに、保護受給者について「現在資産・収入に関する事項に限られている自治体の調査権限を拡大(就労活動等の調査、過去の受給者も対象)を検討」し、「扶養義務者には、保護費の返還を求める」こと、「不正受給の罰則の強化」も検討する。「中間まとめ」には、就労指導など、生活保護からの脱却インセンティブの強化も随所に盛り込まれている。

餓死・孤立死を防ぎ、生活保護制度再検討するにあたって、地域作りや、保護受給者への就労・自立指導の強化は、まだ理解できるにしても、調査の強化、扶養義務強化、不正受給の罰則強化は妥当か?疑問が残る。

背景にある重層的排除

続いて、日本女子大教授・岩田正美さんが、「生活困窮者支援を考える」と題して基調講演を行った。     

岩田さんは、「経済的困窮者は、主要な社会活動からも排除されて」おり、「生活保護ぎりぎりの生活困窮者が広がっている」点を指摘。「経済的・非経済的問題がからみあい、解決の糸口をつかみにくくなっている。孤立死のケースをみても、高齢者、障がい者というカテゴリーの外または狭間にあるか、カテゴリーが重複している」という。

現在の生活保護利用者の状況には、@収入減、貯金減により経済的に困窮した高齢者がコンスタントに増加している、A稼働年齢層である40代、50代に保護基準すれすれの人が一定数おり、景気変動や傷病によって浮き沈みしている、B20歳代の母子世帯は、婚姻関係の変動によって貧困に陥る、といった特徴がある。つまり、生活困窮といっても、年齢も要因も異なり、一律に就労自立を強調する対策が有効なのか?と岩田さんは疑問を呈した。

既存の福祉制度によって問題のカテゴリーが細分化されると、カテゴリーから排除される人が出るので、新たなカテゴリーを作って対応することの繰り返しするほかない。脱却後、なだらかに援助が継続する制度設計が大切で、生活保護だけでなく、より広い複合的アプローチが必要、と述べた。

拮抗する2つの流れ

第2部は、「なぜ餓死・孤立死が相次ぐのか?」がテーマ。吉永純・花園大教授が、「保護制度をめぐる情勢について」基調講演を行った。

吉永さんは、「日本の貧困率は16%、2千万人が貧困状態にあると、政府自身が発表している。しかし、貧困の広がりをどうやって、どこまで解決するかの具体的政策が見えない。また、@生活保護を活用して市民生活を守る流れと、A財政的観点から抑制しようとする流れが拮抗している」と解説した。

さらに、「芸能タレント母親の生保受給事件をきっかけに生保バッシングが起こり、自民党議員から、『生活保護受給を恥と感じなくなったのは問題だ』との批判がなされた。自民党は、保護費10%切り下げ、有期制の導入、受給者だけのクーポン制導入など、利用者の辱めを強める政策を主張し、政権奪還の道具にしている」と指摘した。

第3部、パネルディスカッションは、日弁連貧困問題対策本部の尾藤廣喜弁護士を司会者に、岩田正美さん、雨宮処凜さん、自立生活サポートセンター「もやい」理事長・稲葉剛さんが意見交換した。

札幌市で姉妹が遺体で発見された事件について、雨宮さんは、「姉は3回、生活保護の相談に行っており、2回目では、役人がパンの缶詰を与えている。食料がないことが分かっているのに、申請させなかった。適切に運用されていれば、2人が亡くなることはなかった」と発言。

稲葉さんは、2月に立川市で母子家庭親子が亡くなった事件と、3月に都営住宅で96歳の母親と介護をしていた63歳の娘が亡くなった事件について、「2月の事件では障害福祉課など4つの課が関わっていたが、横の連携がなかった。また、家庭訪問していたのは、おむつの宅配業者で、ケースワーク的機能が失われていた。アウトソーシングにより福祉機能が衰えている。3月の事件については、娘さんは63歳で、65歳以下なので老老介護のカテゴリーに入らず、対応から漏れた。従来の高齢者や障がい者をカテゴリー分けしてハイリスクな対象として管理するやり方では、対応できなくなった」。

岩田さんも、「行政機構の効率化の陰で、現場に足を運ばなくなったことが、貧困問題解決にマイナスになっている」と指摘する。

生活保障と生活保護制度について、岩田さんは、「年金もなく皆保険もなかった貧しい時代に、憲法25条の『生存権』を保障するオールマイティな生活保護制度を作った。そのため、この制度が社会保障を一身に背負う格好になった」と語る。その後皆保険が実現し、年金、雇用保険が整っても、社会保障と生活保護を組み合わせるという改変をしないできた。岩田さんは、「生活保護を解体し社会保障全体のなかに盛り込んでいってもよいのではないか」と言う。年金だけでは生活できなくても、家賃分の住宅保障があれば、生活保護を利用しなくてすむ人も多いからだ。

「生保制度が、多くを背負いすぎ、バッシングされたり、スティグマを持たされたりしている。基礎年金で受け取る半分は税金だが、生活保護のようにバッシングはされない。皆が税金を払い、見返りを受ける社会に向けて意識と制度を変えないと、生活保護はますます難しい立場に置かれる」(岩田さん)。

……………………

生活保護の給付を抑制しても貧困問題は解決しないし、同制度だけで貧困問題に対応できないのも明らかだ。岩田さんが指摘するように、必要に応じて、年金、最低賃金、住宅保障などと、生活費、医療費を保障する制度を組み合わせ、一定水準を下回らないような制度を作る方法もある。まだ間に合う。少なくとも、生活保護バッシングをしている場合ではないはずだ。

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