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2012/8/30更新

前泊博盛さん(沖縄国際大学教授)講演会

問われているのは日本の民主主義

[前泊博盛さん略歴]

前「琉球新報」論説委員長。現在、沖縄国際大学大学院教授。研究分野は、基地・軍事経済が与える地域経済への影響、経済安全保障、島嶼の経済・産業発展政策。著書に、『もっと知りたい!本当の沖縄』(岩波書店)、『沖縄と米軍基地』(角川書店)など多数。

いよいよ米軍は、沖縄への垂直離着陸機オスプレイMV22配備を強行する。オスプレイ配備は、米軍世界戦略にとってどのような意味を持つのか? をテーマに、琉球大教授・前泊博盛さんが、茨木市で講演をおこなった(7月28日)。題して「アメリカの世界戦略と沖縄基地問題」(主催・北摂反戦民主政治連盟)。

「沖縄は、米軍世界戦略にとって存在意義は失われている」(前泊氏)、にもかかわらず、基地返還が進まない理由とは? また、オスプレイ配備が浮き彫りにする日本の「民主主義」とは果たして何なのか? 歴史をひもとき、米政府・軍の公文書を紹介しながら実証的に説明した。要約を紹介しする。(文責・編集部)

アメリカの世界戦略と沖縄基地

日本全土が訓練空域に

オスプレイ配備の問題は、日本の民主主義を知る上で非常にわかりやすい、典型的な状況を描き出しています。

▲配備反対を訴えるポスター(写真提供・富田英司さん)

沖縄だけではなく、北は東北から中部、そして山陰、四国、九州、沖縄・南西諸島まで含めて、「パープル」「イエロー」「ブラウン」などと名付けられた、オスプレイの低空飛行訓練が行われる全国6ルートの周辺地域の住民・自治体をはじめとする国民が、オスプレイに反対しています。

日米両政府は、墜落が相次ぎ、「欠陥機」と指摘され、「未亡人製造機」とも揶揄されるオスプレイを日本に配備しようとしています。

オスプレイの訓練ルートは沖縄を飛び出して、日本中が訓練区域となります。そこでオスプレイが国民、住民の命を奪う重大事故が起きるかもしれません。

これまでは、基地が集中する沖縄が被害を受けてきたものが、今後は日本全国が被害を受ける可能性があります。多くの人たちが、そのことに大変な危機感が持って反対運動をしていますが、政府はそれにまったく聞く耳を持たず、配備を強行しようとしています。

たびたび「オスプレイ配備をどうすれば阻止できますか? 」と聞かれる機会がありますが、私は、「残念ながら阻止できません。受け入れるしかないのが今の日本の状況です」と答えています。

7月23日、オスプレイが岩国に搬入されました。組み立ては終わったので、プロペラを回して、すぐ訓練に入れるような状態になっています。今後、間違いなく予定通りの訓練も始まるでしょう。

間違いなく、オスプレイは反対の声を押し切って普天間に配備されます。そして、今後たとえ事故が起こったとしても、一時は大騒ぎになるのかもしれませんが、それでも構わず、日米両政府は「必要なものだから」と、「継続して使用する必要がある」と、強弁するでしょう。

「軍事的に必要」とされたものは、国民がいかに反対しようとも、民意などまったくお構いなしに、ごり押しでやられるのです。

戦前の日本を振り返った時に、「どうして当時の国民は、軍部が始めようとしていた戦争を止められなかったのか? 」と疑問に思っていました。しかし今、自分が同じような立場に置かれた時に、政府の決定にはなす術もなく、意思表示をしてもそれを押し切られてしまう状況で、どうやってそれを止めることができるのか? と疑問に思うのです。

今後、もし何らかの軍事行動が起こり、戦争になったとした時に、後世の人から、「なぜあなたたちはそれを止められなかったのか? 」「オスプレイ配備を止めることができなかったのか? 」と問われた時に、どう答えられるでしょうか。「いや、当時はもうそういう状況ではなかった。我々は反対をしたが、アメリカが決定し、日本政府がNo!と言えない形で強行されてしまった」と、弁解しているのでしょう。

既成事実を受け入れる日本人

オスプレイの反対運動をしてる人は、「これが日本の民主主義なのか? 」と悔しい思いをしながら、押し切られていくのを目の当たりにしています。これに関連して、西山太吉さんという元毎日新聞の記者が巻き込まれた「西山事件」について触れておきましょう。

西山さんは、1971年の沖縄返還協定に関して、当時の佐藤内閣の中枢で取材をしていました。そして、返還交渉の中で出てきた密約(沖縄返還に際して、アメリカが負担する地権者への土地原状回復費400万jを日本政府が肩代わりする内容)の問題について告発しました。情報を社会党の国会議員に提供し、また新聞記事にしたために、記者生命を失いました。

失った理由は、その情報を入手した方法が、「外務省の女性事務官と情を通じた」というものだったのです。西山さんと毎日新聞は、政府や他のマスコミから徹底したバッシングに遭いました。

しかし、情を通じようが何しようが、結果として出てきた「情報」の信憑性について、本来マスコミはそれを検証しなければならなかったのです。日本のメディアは、西山さんを批判することによって、沖縄密約問題に目を伏せてしまいました。

「密約」という、本来歴史の中で検証されなければいけなかった問題、政治の中で今まさにリアルに起こっている問題として検証されなければならなかった問題が、公然と先送りされてしまったのです。そして佐藤内閣は、「密約はなかった」と否定したために、この問題は幕引きされてしまったのです。

西山さんによると、その密約問題からさかのぼる1960年、70年の安保闘争の段階で、アメリカのCIAは、日本について調査を行ったそうです。60年安保では、何万人もの国民が国会を取り囲んで、「安保再締結反対」と反対したわけですが、結局は岸内閣も含めて日米安保条約の改定延長を強行しました。アメリカの調査機関は、60年・70年安保の反対運動の中心が学生たちであることを突き止めました。その学生たちを追跡すると、60年安保後は、卒業して企業に就職し、70年安保のときには安保問題のことは忘れて普通の生活をしている、と判明したそうです。

その調査結果によって、アメリカは「国民が強く反対している政治問題でも、強行して、いったん既成事実化すれば、日本国民はそれを受け入れるものだ」という結論を出したそうです。それ以後、アメリカの「日本統治政策」は、強行して既成事実化していくという方法で展開されてきたのだ、と西山さんは指摘されています。

70年安保以降、安保問題は確かに国民的な大きな抵抗運動もないまま継続となり、今では、「日米安保は外交の基軸」「安保なしではやっていけない」というところまでに市民権を得てしまっているわけです。

同じことは、1955〜57年にあった砂川闘争でもありました。立川基地(当時は米軍基地)の拡張反対運動に対して、アメリカは参加者を排除するために、日本の警察を使いました。警察官・機動隊を導入して、運動参加者を警棒でぼこぼこに殴ることまで行われました。それで、「こんなことをするために私は警察になったんじゃない」と、自殺をした若い警察官まで出ました。日本の警察が、アメリカの基地のために同じ日本人を殴り倒し、血を流し合わせてまで基地を運営していく。そして、アメリカは基地を維持していく。

しかし、日本人はのど元過ぎれば忘れてしまい、当然のことのように基地や安保を受け入れています。そして、当然のようにアメリカの政策を受け入れていく。この流れが、今も継続をしているのです。

オスプレイが守るのは日本ではなく米国のアジア権益

オスプレイ配備は、中型輸送ヘリ・CH─46の「新しい機種の変更」という形で行われます。これは、日米地位協定上、「機種の変更」はアメリカに決定権があり、日本に拒否権はない、と説明されています。しかし、実はこのオスプレイは、アメリカの大きな世界戦略の変更

にともなって配備されるものです。そういう意味では、単なる機種変更ではありません。

普天間基地には、CH─46が20数機配備されています。このヘリコプターは、1960年代に製造され、もう50年以上経過しています。もう部品も製造されておらず、「老朽化している」から新型機に変えるのだ、という説明をしています。

オスプレイは、CH─46ヘリの2倍の最高速度、3倍の航続距離があります。フィリピン、台湾、グアムぐらいまでは航続距離内に入ってきます。また、空中給油が可能なため、給油を受ければ、どこまでも飛んでいけます。つまり、オスプレイ配備によって、米軍は東アジア全域をカバーできるようになるわけです。

インドネシア・タイ・マレーシア・シンガポール、そしてインドまでにらんだ東アジアは、6億の人口があります。アメリカは、自国経済の立て直しのために、この6億の東アジア市場を押さえるために、新たな東アジア戦略を展開する計画です。

オスプレイ配備は、「日本を守るため」ではなく、アメリカの、米軍の東アジア戦略のための足がかりなのです。

世界一危険な国=アメリカ

現在、財政破綻しているアメリカは、「世界中に展開している米軍基地を縮小せよ」という議論を連邦議会でやり始めています。自国の利益のために戦争を仕掛けてきたアメリカは、財政破綻によって世界中の基地を整理・縮小せざるを得ない状況にあります。それを日本のメディアは伝えてきませんでした。

沖縄では、1995年の少女暴行事件以降、ずっと、「基地を撤去してくれ」と要求してきました。日本の他の地域に基地を移設することについては、反対をしてきました。沖縄のようなひどい被害に遭ってほしくないから、です。

しかし最近では、「本土への米軍基地、普天間基地の移設もやむなし」「沖縄と同じように日本国民全体で痛みを分かち合って欲しい」と主張が変わってきました。基地が沖縄に集中しすぎているために、「沖縄で米軍犯罪、演習被害が集中しすぎている。『米 軍が日本の安全保障上、必要』というのなら、沖縄だけでなく、基地負担を日本中に分散移転してくれ」と主張するようになりました。

それは、基地を「沖縄」にだけ封じ込めてしまうと、この小さな地域に、すべてがパンドラの箱のように閉じこめられてしまって、日本の他の地域で痛みを感じられなくなっているのです。いつまで経っても、日米両政府の植民地扱いされ続けてきた沖縄、基地を押し付けられ続けてきた沖縄。その間もずっと沖縄は、「基地撤去」を訴え続けてきました。

オスプレイを通じて、全国民が沖縄と同じように「安保の痛み」を感じるようになれば、安全保障の問題について、日本国民全体で同じように考えてくれるきっかけになってくれるんじゃないか、と考えてしまうようになってしまいました。

皮肉を交えて言うならば、そういう意味でオスプレイ配備問題は、安保の痛みを共有し、日米安保の是非を問い、米軍の日本駐留の是非を問う形で、日本の民主主義のあり方を問う機会、日本国民を覚醒させるために仕掛けてくれたのかもしれません。そのオスプレイ問題でアメリカが投げかけてきた問いに、日本国民はどう答えるのか、そして日本の政治家や政治はどう応えるのか、日本の民主主義の実態が示されると思います。

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