2012/7/26更新
5月27日 antiwar.com
イスラエル人大学教員・翻訳家 ラン・ハコヘン
翻訳 脇浜 義明
テルアビブで起きた人種暴動(訳注・5月24日、テルアビブで、難を逃れてイスラエルへ亡命を求めてやってきたアフリカ人に対し、排除しようとするユダヤ人が集結。政治家のアジ演説で暴動化し、アフリカ人多数を負傷させた)は、現在のファシスト政権下のイスラエルの現実を垣間見せるものであった。
亡命希望アフリカ人6万人(ほとんどがエリトリア人で、その他スーダン人─ダルフル州と南スーダン─などの受け入れに反対するユダヤ人が、亡命希望のアフリカ人が集中するテルアビブ南部の貧民地区でデモ・集会を行い、二人の議員がアジ演説をした。一人は極右国家統一党のミハエル・ベン=アリで、「おしゃべりの時間は終わった」「自分の手で法律を実行せよ」と群衆を挑発した。もう1人はリクード党のミリ・レゲフで、彼女は「スーダン人」(多くイスラエル人は無知で、アフリカ人をみんな「スーダン人」と呼んでいる)を「癌」と呼んだ。
いつものことだが、ファシズムは国民の不満の原因をゆがめて、怒りを無力なマイノリティへ向ける操作をする。
今回は、与党の議員と野党の議員が組んだ点が示唆的で、イスラエルのファシズムは現与党連合だけでなく、その政策は野党極右の支持を得て行われている。
ネタニヤフ首相は、法律や慣習で野党議員を何らかの役職に任命しなければならないときは、リベラル系野党でなく、極右政党から選ぶなど、イスラエルのファシズム連合はかなり広範である。
数年前、極右の元大佐エッフィ・エイタンがイスラエル内パレスチナ国民を「癌」と呼んだが、今回レゲフは、同じイメージをアフリカ人に対して使っているのだ。なお、このイメージは、ネオ・ナチがユダヤ人に使っているイメージである。
実際、亡命希望アフリカ人は巧妙にアラブ人地域に配置され、「癌」イメージをダブらせた。イスラエル・ユダヤ人につきまとう「人口脅威」がアフリカ人にも当てはめられたのだ。ネタニヤフは6万人(イスラエル人口の0・8%)が「60万人に膨れあがってユダヤ人・民主主義国イスラエルを破壊するかもしれない」と警告を発した。こんなあからさまな扇動発言の後で、右派の人種暴動に遺憾の意を表明したのは、いかにもとってつけたようであった。
盟友=米政府ですら、イスラエル政府関係者が亡命希望者を「侵入者」と呼び、犯罪や病気やテロ増加に結びつけるのを好ましく思っていない。「侵入者」を意味するヘブライ語「ミスタネニム」は、1948年に奪われ・追い出されたイスラエル内の家や畑に帰ろうとするパレスチナ難民に対して造語されたものだ。1950年代、このような非武装の人々約5000人が、イスラエル兵によって殺害された。1967年戦争の後も同じことが繰り返された。
イスラエル人歴史家のシュロモ・サンドは、自分が兵隊だったときに目撃した、自分の家に帰ろうとする難民(侵入者)が昼間に捕らえられたときの光景を、次のように書いている。
「捕まった老人は椅子に縛り付けられ、それを私の戦友たちが殴打、中には煙草の火を腕にくっつけるものもいた…やがて死体となった老人が軍用車に放り込まれた。ヨルダン川へ棄ててくる、と運転手は言った」。
これに比べれば先日の暴徒─貧困地域に住む彼らの生活が数千人の移民労働者の存在で苦しくなっていることは事実だが ─のアフリカ人「侵入者」への扱いは穏健であったといえるだろう。
ある警察署長が「彼らを働かせればよいのだ」と政府に提言したが、当を得た提言である。エジプトから国境を越えて侵入してくるアフリカ人を逮捕し、数週間から数カ月間拘留し、それからテルアビブ中央バス停で棄てるというやり方になんの意味あるのか。2011年に亡命申請した4603人のアフリカ人のうち受理されたのは、たった1名だけ。破綻した故国へ送り返すことが不可能なアフリカ人に労働許可を与えずに放置しておくなら、餓死か泥棒しかないではないか。
しかし政府役人は「労働を許可すれば、もっと多くがやって来るからダメだ」と、明言している。ここにも政府のパレスチナ人への対応との類似が見られる。
「西岸地区とガザのパレスチナ人の処遇を悪くせよ! 土地や文化や労働の機会や人権を奪え!そうすれば奴らはどこかへ行く。もし、反抗して暴力を振るえば、絶好のチャンスだ。テロリストのレッテルを貼って、軍の処理に任せるのだ」。
しかし、問題なのはこうしたイデオロギーだけではない。背後には経済的要因が働いている。一方ではアフリカ人を餓死と犯罪へ追いやりながら、他方では外国人労働者─主としてアジア人労働者に門戸を開いている。イスラエルの全産業 ─特に農業と建設業─は、パレスチナ人社会を労働市場から閉め出し、分離壁の彼方に隔離してしまったので、低賃金外国人労働者に依存せざるを得なくなっている。だから問題解決は簡単で、フィリピンや中国から労働者を輸入する代わりに亡命希望のアフリカ人に労働を許可すればよいのだ。
なぜそうしないのか?すでに見てきた政府役人の弁解とは別に他の理由もある。例えば、スーダン人を「癌」と呼んだレゲフ議員は、数日前、政府の外国人労働者規制を緩和し、民間の人材派遣会社に自由に外国人労働者を輸入する権限を与える法案を提起した。なぜか?アフリカ人は、エジプト人の密入国斡旋業者に法外な金を取られていることが多いが、イスラエルへは無料で入ってくるのに対し、移民労働者斡旋は金儲けになるからだ。
実際、アフリカ人を「侵入者」と呼んで米政府から注意されたエリ・イシャイ内務相の時代には、移民労働者労働許可書の価格が急上昇した。宗教党シャス所属の元大臣シュロモ・ベニズリは、移民労働者に関する政府内部情報を人材派遣業者に漏らして賄賂を受け取ったために、現在服役している。
レゲフが、アフリカ人を働かせて、アフリカ人と貧しいイスラエル・ユダヤ人の両方を助けるようなことをすれば、人材派遣業者の支持がなくなるので、彼女は貧しいユダヤ人を煽ってもっと貧しいアフリカ人を虐待させ、同じく貧しいアジア人を搾取する人材派遣業者の味方
をしたのだ。
パレスチナ人抑圧をモデルとするアフリカ人抑圧は、イスラエルに漂うファシズム風潮の現れである。しかも彼女は、亡命希望者を南スーダンへ国外追放するなと裁判所へ訴えている左派の人々をも攻撃の的にした。暴動を煽る演説で、彼女は「恥を知れ! 奴らは癌の本国送還を止めたのだ」と叫んだ。暴徒はハーレツ紙のイラン・リオールを「チェックポイントで兵士に投石した左派」と叫んで攻撃した。幸いリオールは警官に救出された。ジャーナリストが攻撃されたのは、論争の中でアフリカ人への同情を表明したからではなくて、「中東で唯一の民主主義国」イスラエルで政治的野党の1人と見られたからであった。
HOME┃社会┃原発問題┃反貧困┃編集一言┃政治┃海外┃情報┃投書┃コラム┃サイトについて┃リンク┃過去記事
人民新聞社 本社 〒552-0023 大阪市港区港晴3-3-18 2F