2012/7/26更新
郡山・専業農家 中村和夫さんインタビュー
「(放射能災害の)A級戦犯が、誰一人謝罪もせず、逮捕もされず、居座っている。社会的正義は何処へ行ったのか?」─福島原発告訴団・河合弘之弁護士の怒りだ。
6月11日、福島県民1324人が、原発事故を引き起こした東京電力の幹部や国の関係者ら33人に対し、業務上過失致死傷罪などの刑事責任を問う告訴・告発状を福島地検に提出した。
これまでも同様の刑事告発は数件出されているが、放射能汚染被害を直接受けている福島県民が、多数で告発状を提出した画期的告発である。告訴・告発状に名を連ねた福島県民は、県外に避難中の人も含めた4〜80才代の老若男女。8月には、福島県外も含めた第2次告訴・告発の募集も始まる予定で、告発人1万人をめざす。
告発人の一人である中村和夫さん(郡山市)に話を聞いた。中村さんは、米作を主体とした有機専業農家。「安全・安心」をモットーに都市の消費者に直接販売してきたが、放射能汚染でほとんどの顧客と縁が切れてしまったという。「(今回の告発は)損得の話じゃない。長年作り上げてきた土地の汚染をどうしてくれるんだ」と告訴に至った動機を語る。(文責・山田)
郡山市の農産物被害は、風評被害ではありません。実際に汚染されているからです。私は、有機農家として都会のの顧客に直接販売し、生活クラブ生協や都内大手おにぎりやさんに米を届け、作物を全て自分で販売してきました。
ところが事故以降、注文が激減し、昨年の米は例年の3割にも満たず、長年続いてきた個人の顧客もほとんど縁が切れてしまいました。
地元の仲間と開設してきた農産物直売所も、農産物の出荷制限が県から出されたため、閉店に追い込まれました。その後、制限は解除され、2カ月後に開店しましたが、売上げは、事故前の半分以下で、たいへん苦しい運営を強いられています。
我々は、先祖代々受け継がれ守ってきた土地に降り注いだ放射能と、否応なく向かい合わざるを得なくなっています。有機栽培農家として安全で健康な土作りに励んできましたが、原発事故による放射能汚染で、すべてダメになりました。
放射能汚染下の福島農業の現状を理解してもらうため、名古屋・神戸・東京に出向いて販売の努力も重ねてきましたが、そこでも「私の農産物は安全です」という言葉を使えなくなってしまいました。とても辛いことです。
地域では、補償の話ばかりが先行していますが、今回の告発は損得の話じゃないのです。先祖から受け継ぎ、私自身も有機農家として数十年かけて作り上げてきた土壌汚染をどうしてくれんだ!という思いで、告訴人となりました。
いずれ土地は息子に譲ることになるのですが、以前のように自信をもって作物を提供できるようになるまで、この先10年・15年、一体どれほどの時間がかかるのか?誰にもわかりません。
原発事故による放射能汚染は「金」では計り得ない被害をもたらしています。未来をも潰しているのです。東京電力は社員もたくさんいるのだから、被災地1軒1軒を謝罪に回るくらいのことは、やって当然です。
ところが東電幹部は、誰も責任を取っていないし、誠意がまったく見えません。本当に苦しんでいるのは、われわれ一般庶民です。東電は、県知事やえらい人の前で頭を下げているようですが、謝罪の相手を間違えているし、意味をはき違えています。放射能汚染の原因を作った事故責任者を許すことはできません。
弁護団の河合弘之弁護士は、今回の告発について「(刑事訴追まで)最低1年はかかる長い道のり」としながらも、「刑事責任を求める世論が強まれば、捜査せざるを得ないだろうというという地検関係者は多い」「手応えを感じている」と語る。
確かに今回の告発は、「温和」とされてきた福島県民が「怒っている」という意思を明確に示したという意義は大きい。また、東京地検ではなく福島地検に告訴した意義についても河合弁護士は、「地検の敷地自体も線量が高く、検察官の中には、幼い子どもを持つ人もいる。彼らも被害者の一人だ。『被害者と共に泣く』を信条とする検察なら、刑事責任を問う世論が強まれば、起訴に動くはずだ」と語る。
ただし、現状では「立件は難しい」というのが検察の大勢のようだ。まず、被曝が傷害にあたるか?という問題がある。「健康被害の心配」による避難や損失は存在するにしても、これを傷害と認定できるか?という疑問だ。
これに対して弁護団は、告発状に「死亡傷害目録」を添付している。川俣町で自殺した主婦、相馬市で「原発さえなければ」と書き残して自殺した酪農家、さらに双葉郡に病院入院患者で避難途中で死亡した高齢者などだ。「これら犠牲者の死因と原発事故の因果関係は、明らかだ」(河合弁護士)。
また、公害犯罪処罰法による立件も可能だという。同法は、有毒物を工場外に排出したこと自体を犯罪と認定しているからだ。
傷害・死亡の事実は疑いなくある。また、事故との因果関係も明確であることから、告発者が今後増加し、刑事責任を求める世論が強まれば、福島検察は、捜査に入らざるをえなくなるだろう。
「事故の原因は何なのか?与えた最大の被害は何なのか?をもう一度考えるきっかけとしたい」―保田行雄弁護士は、告発の意義をこう語る。同弁護士は「東電の責任はいうに及ばず、原子力安全保安院や原子力安全委員会等規制当局の責任を正面から問いたい」としている。
これら規制当局は、薬害エイズ事件の厚生労働省薬務局と同じ役割を果たしているからだ。松村明仁ら厚労省官僚は、非加熱製剤投与によるエイズ感染の危険性が指摘されていたにもかかわらず、防御措置を講じなかった容疑で逮捕・起訴され、有罪が確定している。
健康被害をもたらした責任では、山下俊一(福島県放射線リスクアドバイザー)ら「専門家」の責任も重大だ。「100_Svでも避難の必要はなく、外で遊んでもいい」とのウソを言い続け、被曝を少なくするための避難を妨げたからだ。
薬害エイズの裁判にも関わった保田弁護士は、「安全」を堂々と言い放ち続けた専門家たちの責任追及も必要不可欠だと強調する。同弁護士は、(この告発を受けて)「山下氏らは、さっさと福島県から出て行ってもらいたい」「個人責任を追及しないところに真の制度改革はあり得ない」と語る河合弁護士は、次のようなコメントを発している。
「大飯原発再稼働に見られるように原子力推進体制がいつまでも続いている。日本にもう一度原発事故が起これば、日本はつぶれる。原子力を推進してきた個人の責任もしっかり追及しないかぎり、原子力村解体は、実現しない。野田政権が後世にツケを残さないためとして消費税値上げを決めたが、後世のことを考えるなら、まず原発を止めろ」。
公務員は犯罪を告発する義務を課されている。東電事故を調査している経産省の原子力保安院・原子力安全委員会は、その刑事責任を追及するために告訴・告発すべき義務がある。
ところが政府の事故調査委員会は、「個人責任は追及しない」とぬけぬけと言い放ってる。7月5日、国会が設置した事故調査委員会は、事故を「人災」と認定し、「適切に対応していれば防げた」と結論づけた。被害の大きさからしても、本来なら国家が主導して刑事責任を問うべきだ。
第2次告訴の準備が整い次第、弊紙でも告訴・告発人応募を大々的に呼びかけたい。(編集部)
福島原発告訴団事務局 mail:1fkokuso@gmail.com /電話080―5739―7279 /〒963―4316田村市船引町芦沢字小倉140―1
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