2012/6/19更新
福島原発事故を体験した被災者を招き、再稼働についてあらためて考える「もうひとつの『住民説明会』」が26日、あみーシャン大飯(おおい町本郷)で開かれた。
「立地地域で再稼働反対の声は上げにくい」という住民の声が多いなか、おおい町住民を含む市民有志でつくる実行委員会が主催し、小浜・高浜など周辺自治体住民も加わり、約140人が参加した。
午後1時に始まった説明会は、福島県富岡町から水戸市に避難している木田節子さん(58才)ら5人の女 性の被災体験からスタートした(左上に要旨を掲載)。その後、専門家の立場から小林圭二さん(元京大原子炉実験所助教)と朴勝俊さん(関西学院大・環境経済学)が、再稼働安全性評価の杜撰さや、脱原発に向けた地域経済の展望について語った。
大飯原発3・4号機再稼働問題は、地元同意に向けた手続きが強引に進められた。しかし住民の声は本当に反映されているのか? 主催者の長谷川羽衣子さんに話を聞いた。 (文責・編集部)
──参加者が多かったように思うが、おおい町の雰囲気は変わりつつあるのか?
原発作業員の息子対立と和解水戸市に避難する核災害避難者 木田節子 富岡町から水戸市に避難している木田節子です。息子は、原発作業員で、福島第1原発で事故に遭いました。事故直後は一時避難しましたが、会社から呼び出され、九州から島根、浜岡、そしておおい、駿河まで原発のある町を、転々と渡りました。 福島の避難民は義援金や損害賠償で食べていけると思われていますが、とても難しい手続きがあり、仕事をしなければ生きていけないのです。息子は、今も原発を転々としております。 息子との良好な関係は、原発によって変わりました。私が原発再稼働のニュースを見て、「この国は懲りないね」と言った時、息子は「この国の経済のためにも原発は必要だ」と言ったのです。それで私は、事故以降に買い溜めた原発に関する本を息子に渡し、読むように勧めましたが、連絡が取れなくなりました。 原発は、国民のためではなく、政治家が電力会社と結託して利権のために作ったものです。私たちのように原発の町に住む人たちは、利用されたと思っています。 そんな中、避難先の水戸に近い東海村の村上村長が「原発は間違いだ。最初に原子力の灯が灯った東海村で原発を廃炉にする」とおっしゃいましたので、私は一緒に活動することを決めました。 揺れ動く息子の心情5月上旬、経産省前で私が演説している動画を、息子がネットで見たそうです。一生懸命喋っている母親を見て実家に電話をし、「なんでオカンがTVに出ているんだ? 」と妹に聞くと、妹は「母はいろんな所で喋って騒いで、TVに取り上げられたのよ。それが会社に伝わって、あんたが原発をクビになることが母の最終目標よ」と言ったそうです。すると息子は、「俺だってわかってるよ。原発で働いてる人間ほど、原発が安全でないことは知ってる。でも俺たちは、ここで生きていくしかないんだ。廃炉にしろ稼働にしろ、俺たちは『被曝要員』なんだ。ただ、原発で良い思いをした奴が、今も好き勝手なことをして、何も反省していないことには、腹が立つ」と語り、最後に、「オカンに頑張ってくれ」と伝えるように言い、電話を切ったそうです。 息子もわかってきたのです。最後に「なぜ原発で働くのか? 」と娘が聞くと、息子は、「原発の後始末をして、できるなら両親をあの町に戻してやりたい! という想いがあったからだ。でも、もう戻れない」と言って兄妹で泣き合った、というのです。長男も揺れているんだと思います。 昨年3月末、TV・ラジオで「福島の電気は、東京・関東の人たちのために作っていたのです」と散々言っていました。娘の同僚たちが「福島に帰れなくなって大変だね」と声をかけていた時、上司が「大変だ可哀想だと言ったって、おめぇら電力会社から金もらって原発引き受けてきたんだろう? 」と言ったそうです。帰宅した娘は私に「私たちもお金もらってるの? 」と聞きました。私は「うん。富岡町では毎年1万1196円、20年間近くもらい続けていたよ。でも、これぽっちの金で原発事故の時は我慢しなきゃいけないということか? 」と答えました。 以後私は、霞ヶ関等で講演する時には、「私たちは毎年1万1196円もらってきた責任を取って、あの土地も家も諦める。だから政治家も、もっと良い給料もらっていたお前たちも、責任を取って原発の後始末をしろ! 」と訴えています。 答えは出ません。でも、いつも弱い者が損をし、虐められます。日本人って、差別の大好きな人種だなと、原発難民になってわかりました。おおい町のみなさんには、経済のためとかではなく、もっと違う次元で「私たちは利用されていた」ということに気づいてほしいのです。 |
17日は、参加者が約90名だったそうですから、参加総数は増えています。しかし、今回の住民説明会は、事前に福井新聞で紹介されたこともあって、小浜・敦賀や高島などの周辺住民、京阪神からの参加者もいました。おおい町民の参加は、同じくらいだったと思います。しかし、こうした取り組みが重ねられることで、少しずつオープンな議論ができる雰囲気は作られつつあると思います。
──準備過程は?
長…1カ月ほど前に企画したのですが、再稼働の情勢が流動化していたために、開催を決めたのは1週間ほど前です。福島の被災者の皆さんはとても積極的で、「いつやるの? 」という問い合わせをいただきました。みなさん、数日前に現地入りし、民宿に泊まりながら町内全戸ビラ配布も手伝っていただき、軒先で対話することもできました。
実は、実行委員会メンバーであるおおい町住民の方が、「講演会」として別の会場を確保していたのですが、会場管理者から「何の講演会か? 」との問い合わせがあり、「福島被災者の」と答えたところ、キャンセルされるということもありました。ただし、実際会場となった「あみーシャン大飯」の管理者は、とても好意的で親切にしていただきました。管理者の考え方に依るのかもわかりません。
──住民からの質問は?
長…質問はほとんど、おおい町住民からでした。一番多かったのは、原発の危険性についてです。大飯3・4号機には安全装置であるベントが付いてすらいないのに「安全だ」と判断されたことや、福島事故調査報告が出ていない現状での「安全対策」の信頼性などです。また、経済的な問題も質問されました。廃炉の手順や地域経済との関係、さらに最終処分場の問題などです。
専門家でもなかなか答えが見出せない問題もたくさんありましたが、そうしたことを考え、話し合う機会ができたことは有意義だったとの感想をいただいています。
──今後の予定は?
長…昨日、おおい町の方から「いい説明会だった。ありがとう」との電話をいただきました。今後、たとえ再稼働が強行されたとしても、こういう説明会や交流会は、続けていきます。おおい町の原発は、新設しない限り約20年で廃炉になります。いずれにせよ、脱原発に向けた新しいビジョンを作らないといけない現実があります。地元の雇用や地域経済、高齢化問題など、消費地に住む私たちも一緒に未来を構想したいと思います。
朴 勝俊さん(関西学院大学総合政策学部)
私は「原発事故が起こったらどういうことになるのか? 」を研究しています。事故前は「不安を煽るだけの研究はするな」と言われましたが、時代は変わっています。私の現在のテーマは、「原発は少々危険でも、経済にとって必要だから動かすしかい」という言葉を、どう乗り越えるかです。経済学専門家として、脱原発に向けてのヒントを提言したいと考えています。
ポイントは3つです。@原発がなくなっても、地方財政はただちに破綻しない、A自由な発想で新たな産業の可能性を考えよう、B新しい産業が実現するまで「廃炉ビジネス」が、それまでの中継ぎとして大きな役割をする。
まず、@についてです。おおい町など原発のある地域では、原発からの固定資産税が市財政のかなりの部分を占めています。しかし、この固定資産税がなくなっても、国は税収の少ない地方自治体に、地方交付税・交付金を交付する制度があるのです。
例えば、人口約5000人の新潟・刈羽村の場合では、自前の税収(地方税収)が30億円、それ以外を含めて約50億円の歳入が全体の収入としてありました。しかし、同じ5000人規模の自治体の全国平均で見ると、地方税収は4・6億円しかありません。しかし、国から地方交付税などで補助を受け、約40億円の平均歳入があります。ですから、原発を持っている刈羽村の歳入は、全国の平均と約10億円の差しかないのです。
また、福井県は「核燃料税」による税収を得ています。この核燃料税は、「原発が止まっていても税収が入る」という方針に変わりました。
福島第1原発の1〜4号機は、事故で止まってしまったので、廃炉の手続きが始まれば、本来交付金は終わってしまうはずでした。しかし、枝野経産相は、廃炉によって『電源立地地域対策交付金』が急に減ることのないよう配慮する方針を出しました。
おおい町でも、このような配慮を求める方法があります。国産の「新型転換炉」=「ふげん」(敦賀市)の場合も、2003年に運転を終了しましたが、「廃炉のための研究施設」として、しばらく交付金が出ています。
次に「脱原発後、どんな新産業を起こしていくのか? 」についてです。関西電力は、毎年原発関連で1500億円の「維持管理費」を使っているそうです。そのうち175億円が、地元の協力会社約180社にまわり、さらに職員らのタクシー代や飲食代などで、35億円が地元に落ちています。
これらのお金が、福井の方々にとって大変大きな収入源になっていることは、事実です。その反面、福井商工会議所会頭が、「福井県に原発が立地して40年近くになるのに、原子力関連産業は一切育っていない」と発言しています。
「原子力関連業務参入実態調査」によると、地元参入企業の大半は孫請け以下で、業種も建設業が約6割、製造業は4%という厳しい数字です。原発関連産業は、「地場産業」になりきっていません。
しかし、「原発をなくす」と決断した時に、新しい発想が出ます。ドイツで「ハルター」という「ドイツ版もんじゅ」が、1991年に廃炉になりました。その跡地は、いま遊園地になっているそうです。脱原発後のヒントになるのは、やはり「再生可能エネルギー」です。世界的に見れば、原発は斜陽産業で、再生可能エネルギーの方が著しく成長しています。2010年までに世界での原発総数を見ると、原発は減っているのです。
一方、太陽光・風力発電は、急速に増えています。日本でも「再生可能エネルギー特別措置法」が、7月に実施されます。太陽光、風力発電機で生みだされた電気は、すべて電力会社が、政府が決めた値段で買い取る法律です。この政府の買い取り価格案は、十分に利益が出る価格だと言われています。
再生可能エネルギーで発電した売電価格を、おおい町では高くするよう要求しても良いと思います。関連産業の誘致などがしやすくなります。
3点目は、「廃炉ビジネスを中継ぎに」です。廃炉作業は、30年以上かかります。アメリカ、ドイツ、フランスなどで、70基の原発が廃炉・解体されていて、専門の解体会社もできているそうです。すでに100基の原発が営業運転を終え、約10基が廃炉作業を終えた、という記事が出ていました。
廃炉コストは、1基あたり約5億jですから、約400億円です。原発は必ずいつか廃炉になります。世界全体で450基の原発が廃炉になるとすると、全体で20兆円市場になるそうです。
日本では、どれくらいの費用が必要でしょうか。廃炉は、電力会社にとってはコストですが、立地地域にとっては、新しい収入源になる可能性があるのです。一番最初に廃炉になったのは「東海1号」原発で、16万6000kW。大飯原発に比べると小型ですが、これの廃炉費用は、解体に350億円、廃棄物の処理に580億円、合計930億円です。敦賀の「ふげん」は、2028年までに750億円かけて廃炉にしていく予定です。
日本の原発で110万kW規模のものは、1基あたり約544億円の解体費用がかかると言われています。1基500億円だとしても、福井県には13基ありますから、何十年間にわたって、廃炉のためのお金が支出されていくことになります。
実際に廃炉作業が進んでいるドイツなどでも、原発がなくなると関連の雇用の場がなくなっていくので、「その代替産業」に頭を悩ませています。そんな中でも、こうした廃炉に関するビジネスだけは繁盛しているそうです。
これは、原発廃炉後の新しい産業を創出するまでの「つなぎ」として、大きな存在になると思います。