人民新聞オンライン

タイトル 人民新聞ロゴ 最新版 1部150円 購読料半年間3,000円 郵便振替口座 00950-4-88555┃購読申込・問合せはこちらまで┃人民新聞社┃TEL (06) 6572-9440 FAX (06) 6572-9441┃Mailto:people★jimmin.com (★をアットマークに)
HOME社会原発問題反貧困編集一言政治海外情報投書コラムサイトについてリンク過去記事

2012/5/19更新

「広域処理ありき」の環境省のプロパガンダ

ガレキ広域処理の必要性と緊急性のウソ

環境省のいう「広域処理の必要性と緊急性」には、明らかな数字の誤魔化しがある。経済性を考えても、ガレキ輸送費は800〜1000億円かかるといわれ、その金を被災地支援にまわせという反対派の主張は、説得力がある。では、なぜ政府は不合理な広域処理を進めようとするのか? 下地真樹さん(ストップ!放射能汚染ガレキ関西ネット)は、「自治体を放射能安全神話の共犯者にするためだ」と語る。

ゴミ総量を過大に計算/「復興支援」で踏み絵

環境省は、震災によって発生した「災害廃棄物」が、「岩手県(476万d)で11年分、宮城県(1569万d)で19年分にも達しています」として、全国の自治体に広域処理を要請した。曰く「震災ガレキが復興の妨げになっており、仮設焼却炉を設置しても、3年で処理しようとすると8割までしかできない。残りの2割(400万d)を全国で処理してほしい」―環境省が主張する「ガレキ広域処理の必要性と緊急性」だ。

しかし、この主張には最初から数字の誤魔化しがある。まず、処理すべき震災ガレキの総量だ。環境省は、ガレキの総量を埋戻し材や産廃を含めて計算し、各県で処理される年間の一般廃棄物量で割り算して、処理年数を算出している。ところが、岩手県の場合、476万dのうち171万dが埋め戻し=復興資材で、さらに再利用可能材=80万dも含まれている。これらを差し引き、仮設焼却炉の処理能力も合わせて実際の両県のゴミ処理能力に換算すると、環境省の目標(2014年3月)を1年延ばせば、自力処理が可能。その間に分別を徹底すれば、さらに処理期間は減少する。

特に宮城県は、仙台市が独自予算で処理計画を立てており、3年で処理完了する予定だ。つまり、3年という現在の処理期限目標を少し延ばしさえすれば、放射能の拡散は必要なくなる。

「放射能の知見がない」と言い放つ環境省が「安全管理」? 

環境省は、「バグフィルターで99・9%除去できる」との災害廃棄物安全評価検討委員会の結論を採用している。しかし同省は後に、「実証データは存在しない」ことを認めた。

島田市での焼却実験結果を検証すると、「焼却灰に60〜80%が移転し、残りは行方不明となっている」(放射NO防御プロジェクト)という。つまり、排煙・排水として環境中に拡散するセシウムは、環境省の試算の数十倍であると考えるべきだろう。

そもそも、衆院議員会館で開いた集会(3月26日)で環境省の担当者は、「放射能の知見もなければ、瓦礫全体の汚染状況も調べていない」と言い放っている。知見なしの環境省がいくら「安全」を説いても、信用できるはずもない。

セシウムは、物質としては極めて微量なので、長時間にわたる丁寧な測定が必要だ。現状のような杜撰な汚染管理では、放射能拡散は避けられない。実際、群馬県伊勢崎市の最終処分場で、大雨によりセシウムが溶け出し、排水基準を超えた事件も報道されている。各地の最終処分場は、放射性物質を投入する前提で対策が取られた施設ではないので、問題が起こるのは当然なのだ。

日弁連も、1s100Bq以上の放射性廃棄物は、他の廃棄物と分け、警告表示をした上で、流出、飛散防止すべきとして、声明を出している。これは瓦礫だけではなく、焼却後の焼却灰等にも当てはまる。

また環境省は、広域処理を促すためのパンフレットで、「阪神淡路大震災の際、兵庫県で発生した可燃性の災害廃棄物のうち約14%が県外で焼却され、埋め立てられた」と例示している。しかし、県外といっても、そのほとんどは隣の大阪府に運ばれている。大阪府には埋立地があったので、大量のガレキを埋め立て処分した。今回のように全国に運んだわけではない。

次に環境省は、「震災ガレキの迅速な処理によって、被災地の早期復興が実現できる」と主張している。つまり、ガレキが復興の妨げになっている、というわけだ。しかし、ほとんどの仮置き場は、人が住んでいる場所にはなく、岩手の災害廃棄物は、ほぼ100%が仮置き場に搬入済で、「ガレキが復興の妨げ」という主張には、現実的根拠が乏しい。

ガレキ処理が進んでいないのは事実だが、その理由は、先に挙げた被災地の諸事情と、現地の事情に臨機応変に対応しない中央省庁であり、問題の核心は、広域処理の結論ありきで、被災現地からの「『現地処理したい』という南相馬市(福島県)や岩泉町(岩手県)の提案を含めて、意見を吸い上げて検討するという態度が、環境省には全くない」(下地真樹さん)ことだ。

被災地の復興が進まない理由は、ガレキではなく、@復興計画が遅々として立案されないこと、A仮設店舗の営業を許可しないなど従来の規制を盾に、現地住民・自治体の自主的な提案や動きを政府が阻害していること、B補償金が支払われず、被災地にお金がないこと、などが本当の理由だ。

放射能と向き合わない政府こそが復興の邪魔をしている

政府と東電は、被害をできるだけ過小に見せるために、避難準備地区を狭く設定し、住民の帰還を促している。しかし、子どもが住み成長していける条件がないまま帰還を進めても、結局「復興」は破綻して移住地を探すことにもなりかねない。高齢者ばかりが帰還しても、街が復興したとはいえない。

しっかり放射能汚染と向き合った施策を打たないために、住民は復興への歩みを進められないまま現地に留まり、健康被害が出ても放射能との因果関係を証明するのは困難なので、新たな争いを抱えざるを得なくなる。放射能と向き合わない政府こそが復興の邪魔をしている、と言えるだろう。

80倍に緩めた基準で「安全」を主張する環境省

安全基準の緩和

環境省は、広域処理する災害廃棄物は、「セシウム濃度が不検出または低く、安全性が確認されたものに限る」としている。しかし、基準そのものが緩められた「安全」である。

震災前、低レベル放射性廃棄物の処理は、国際基準で100Bq/s以上のものについては「厳重に管理すべき」とされていたが、震災後、一般焼却炉で焼却できるようになり、100Bqの80倍である8000Bq/sまでの廃棄物がそのまま最終処分場に投入できるようになった。

事故前は、「低レベル放射性廃棄物は、微量でも拡散し危ないから焼却は禁止。最終処分場に埋め立ててるのも禁止」だったものが、いきなり80倍に緩められた「安全基準」が作られ、実施されようとしている。

内部被曝の危険性

そのうえで問題にすべきは、拡散される汚染物質の総量だ。今回の広域処理が計画どおり実施されれば、全体で約400万d、4000億Bq超の放射性物質が西日本へも拡散されることになる。

この放射性物質の総量が環境中でどのように循環するのか? 誰にもわかっていない。特に内部被曝による健康被害は、軽視すべきでない。「濃度が低いから安全」という考え方は、低線量被曝の危険性を無視する間違った考え方だ。

ドイツの放射線防護協会は、次のような声明を出した。「放射線防護の国際的合意として、汚染された食品や廃棄物を汚染されていないものと混ぜて危険ではないとすることは、禁止されている。日本は、この希釈禁止合意に違反している」「日本ですでに始まっている汚染ガレキの各県への配分、焼却、及び焼却灰の海岸埋め立て等への利用は、放射線防護の観点から言えば重大な過ちである」

放射性物質は、ガレキ広域処理だけでなく、汚染食品や放射性廃棄物のリサイクル品の流通等を通じ、全国に拡散する。ガレキの広域処理は、放射能の全国拡散を一気に推進することになる。

HOME社会原発問題反貧困編集一言政治海外情報投書コラムサイトについてリンク過去記事

人民新聞社 本社 〒552-0023 大阪市港区港晴3-3-18 2F
TEL (06) 6572-9440 FAX (06) 6572-9441 Mailto:people★jimmin.com (★をアットマークに)
Copyright Jimmin Shimbun. All Rights Reserved.