2012/5/19更新
「広域処理対象のガレキは、岩手県と宮城県の沿岸部の安全性が確認されたものに限ります」と、環境省は説明している。その根拠として空間放射線量の測定結果(昨年11月頃)を挙げる。しかし、岩手・宮城の焼却灰からは、相当なセシウムが検出されている。(編集部)
放射能汚染の議論は、福島に集中しがちだが、焼却灰の調査から見ていくと、岩手県にも大量の放射能が降った現実が浮かび上がってくる。
三陸海岸にある焼却施設の焼却灰の汚染度をみていく。青森県境の近くの「久慈地区ごみ焼却場」で、飛灰からセシウム134と137が合計で604Bq、主灰からは31 Bq(測定日:6月30日)。岩手県沿岸部の中部にある「宮古清掃センター」は、飛灰に240Bq、主灰に31 Bq(7月21日)。釜石市にある「岩手沿岸南部クリーンセンター」をみると、飛灰で1128Bq、主灰で240Bq(7月21日)との調査結果が出ている(環境省「16都県の一般廃棄物焼却施設における焼却灰の放射性セシウム濃度測定結果一覧」より)。
内陸部の一関市周辺でも、高い値が出ている。「一関清掃センター」では、7月22日に、飛灰から30000Bq、主灰も1550Bqが計測されている。
焼却灰からセシウムが出てくるのは、その地域全体が放射能被曝した証拠だ。一般ゴミとして収集された草木が焼却され、セシウムが灰に濃縮されたと考えられるからだ。
岩手県の焼却場の灰に含まれる放射性物質のデータをみると、ガレキが安全とは決して言えない。むしろ、岩手県も深刻な被曝を受けていながら、政府や環境省はそれらを放置してきていることが浮かび上がってくる。
実際、長野県で、宮古市(岩手)のガレキを試験焼却した結果、飛灰から3000Bq/sを超える放射性セシウムが検出されている。
これら被災地での仮設焼却炉は、放射能除去のための安全装置はどうなっているのか? 宮城・岩手両県の廃棄物対策課に聞くと、@仮設焼却炉には全てバグフィルターなどの安全装置は装着している、A既存焼却炉についても、ダイオキシン対策としての安全対策は講じているので、「問題はない」との説明だった。
福島のガレキは県内処理が原則とされているが、昨年7月、伊達市の焼却炉の煙突から、3Bq/3mという高い汚染度の排煙が確認されている。ところが、環境省は「問題ない」との認識を示しているのだから、驚きだ。
つまり、岩手・宮城の放射能汚染は、空間線量の値から低レベルで安全。一方、福島の空間線量は高いので、排煙による汚染が加わっても大きな影響はない、というのが環境省の考え方のようだ。このため、ガレキ焼却に関して新たな安全対策を講じる予定もない。環境省の「安全」についての考え方はこうしたものなので、広域処理についても現状以上の安全投資がされることはない。
市民除染プロジェクトの山田國廣さんは、「早急に十分な除去設備と測定体制をとり、住民に対して情報公開を行うべき」と語っている。「低レベル汚染ガレキは、現地で徹底的に分別して、既存のシステムを活用するための資源(人・物・金)投入の仕組みが必要」(山田氏)だ。
小出裕章氏も、「子どもの被曝を減らしたい。私の主張はそれだけだが、子どもは被災地にもいる。被災地の施設で処理が追いつかない分は全国で引き受けるしかなく、トータルで子どもを守らないといけない。無論政府は、放射性物質を放出しないよう全国のごみ処理施設にフィルターを取り付ける等の安全対策を取る必要がある」と語る。
現状のままガレキ焼却が行われれば、セシウムが煙突や排水から環境に拡散し、高濃度に濃縮された焼却残渣は、形ばかりの安全措置で処分場に埋めることになる。とりわけ被災現地では、大量の処分が急ピッチで行われることになるので、管理が杜撰になる。少なくとも、現状のままの焼却炉の監視体制では不十分であることは間違いない。化学薬品など他の規制物質も対象とした、長期的な環境監視が不可欠である。