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2012/5/19更新

【連 載】震災ガレキの広域処理を考える

ガレキ広域処理は被災地支援か? 

4000億ベクレル放射能拡散

問題の核心=「放射能」をバラまいた東電に責任あり

震災ガレキの広域処理をめぐり、各地で反対運動が起こっている。東京都では実験焼却が行われ、大阪府も夢洲で焼却灰を埋め立て処分する方針を固めた。被災地以外でガレキ受け入れを表明したのは、3月22日時点で青森・山形・東京の3都県のみであったが、受け入れ自治体に対する財政支援が示されたことで、受け入れを表明したり、受け入れの検討を表明する自治体の数は、150を超えている。

放射能は、閉じ込めて厳重に管理するのが原則で、広域処理は、この原則に反して拡散を招く。広域処理全体で約400万d、4000億Bq超の放射性物質の拡散が、どのような健康被害を起こすのか? 誰にもわからない。ただし、環境省のいう「広域処理の必要性と緊急性」には、明らかに数字の誤魔化しがある。経済性を考えても、「ガレキ輸送費の800〜1000億円を被災地支援にまわせ」という反対派の主張は説得力がある。

ガレキ広域処理には、放射能拡散と輸送費の無駄を上回る必要性と合理性があるのか? 広域処理反対運動は、被災地の反原発運動とつながりうるのか? 連載で考えてみたい。(編集部・山田)

なぜ被災地でガレキ処理が進まないのか? 

処理すべきガレキの総量は約2200万d。阪神淡路大震災と比べるとやや多い程 度だが、処理量は福島、宮城、岩手全体の6%で、94%が未処理(3月5日時点)。進ちょく状況は悪い。

その理由について宮城県・震災対策技術補佐の宮城さんは、@被災した沿岸部自治体は、職員も被災し行政能力そのものが低下した。A仮設住宅建設など緊急課題に追われ、ガレキ処理への人員配置が十分に行えなかった。このため、B県が被災の激しい沿岸部市町村からガレキ処理の業務委託を受け、事業を発注するための制度変更・場所の確保・入札・発注などに昨年末までかかった、と説明する。仮設焼却炉の稼働も含め本格処理はこれからなので、「処理は加速するだろう」とのことだった。

宮城県は昨年8月、県内被災自治体を5ブロックに分け、政令市の仙台市以外の4ブロックは県主導で処理にあたるとの広域処理方針を決めたが、緊急課題に追われ、ガレキ処理は進まなかった、というのが宮城県の説明だ。被災自治体の混乱は、震災直後から明らかだった。政府・環境省の動きが見えない。

このため地域格差も大きい。仙台市は、「自己完結型」のガレキ処理を目指し、90億円以上の予算をかけて仮置き場を一元化した「搬入場」を整備。名取川から七北田川の海沿いや、津波に襲われた松林を切り拓き、宮城野区に1カ所、若林区に2カ所の搬入 場を整備、仮設の焼却炉をそれぞれに設けた。

焼却量は、3カ所合計で1日あたり480d。搬入場でガレキを分別し、50%以上のリサイクルを目指しつつ、リサイクル困難な可燃物を焼却している。こうした取り組みで、仙台市では、3年程度で自力処理が可能となっている。地元の運搬業者や処理業者を使うことで、雇用の創出にもつながっているという。

「自区内処理」の原則から広域処理へ

(以下一部全文は1446号を入手ください。購読申込・問合せはこちらまで。)

一方、石巻市のガレキ処理は、ガレキの総量が突出している(6163千d・上図参照)ことと合わせて、海岸沿いにあった焼却処理施設も津波で被災したため、自力処理は不可能と言っていい。市内23カ所のガレキの仮置き場はパンク寸前の状態で、仮に宮城県内の他の自治体の協力を得ても、処理には10年近くかかるという。

現在、5つの仮設焼却炉を建設中(処理能力合計1500d/日)だが、すべてが稼働し始めるのは今年8月以降ということで、ガレキの処理は遅々として進んでいない。こうした地域差を調整すべき環境省は、この1年一体何をやってきたのか? 

被災した市町村が自力処理できない場合、県が代わって処理するとの処理指針(マスタープラン)が、昨年5月に作られた。そこでの国の役割は@財政措置、A専門家の派遣、B広域処理に向けた情報提供、等と決められた。

環境省は、この時点で既に、廃棄物処理はその排出地域で行うという「自区内処理」の原則を捨てている。5月には広域処理に向けた検討会を立ち上げ、日本全国に放射能ガレキをばらまく基準作りを始めていたのである。

ゼネコン丸投げの実態/地元に金が流れる仕組みを

宮城県は、県内被災自治体を5ブロックに分け、県主導で処理にあたるとの広域処理方針だが、実態はブロックごとに大手ゼネコン中心の共同企業体(JV)に業務委託して一括発注するという、事実上の「丸投げ」だ。談合情報が県に寄せられるなど、契約の不透明性も指摘されている。

契約額1924億円と最大規模の石巻ブロックは、鹿島を中心とするJVが受注。しかし、その中には焼却施設のプラントメーカーや専門の廃棄物処理業者は入っていない。

地元企業は、脇役とされているようだ。処理指針には、「可能な限り地元雇用を考慮した処理」が基本とされているが、石巻市の建設業協会幹部を務める地元建設業者は「鹿島から建設業協会に相談はきていない。もっと行政が主導して地元に仕事が回るようにしてほしい」(『赤旗』)と不満を語る。

仙台市の例に見られるように、石巻ブロック以外は、3年という期限を少し延ばせばブロック内独自処理が可能と思える。

石巻のガレキについては、独自処理は不可能と言ってよく、県内広域処理といっても、他のブロックも仮設炉増設の必要があるほどなので、県外広域処理は避けられない。ただし、それはあくまで可能な限り近県に限定し、無駄な輸送費を抑えるべきだ。「広域処理で発生する無駄な運送費を仮設焼却炉に使えば、 もっときちんとした炉で効率よく処理できる」との主張には説得力がある。

計画されているような福岡への輸送処理など、輸送費の無駄・放射能の拡散というデメリットを上回るメリットなど全くない。

放射能汚染ガレキ処分の責任は、東電にこそある

今回のガレキ広域処理にまつわる混乱と遅延の原因は、「放射能」につきる。放射能さえなければ、処理は順調に進んでいたはずだ。その意味で、ガレキ処理を遅らせている責任は、原発事故を起こした東京電力にこそある。

原発事故を引き起こした東京電力と、その責任を不問にしたまま収拾を狙う政府の責任こそ問われるべきだ。被災地には、広域処理が必要な地域があれば、そうでない地域もある。

ガレキ広域処理を具体的にみていけば、現実のガレキ処理問題は、ほぼ「石巻のガレキ」に限定してよい。被災地をひとまとめにして「復興のための広域処理」を訴える環境省のプロパガンダには、そうした胡散臭さがある。

ただし、石巻市には化学工場が集中していたため、ガレキは化学物質にも汚染されている。いたずらに環境汚染を拡大すると、原状回復に莫大なコストがかかるのは過去の公害の教訓だ。放射能のみならず、化学物質も含めた安全対策が必要だ。

被災地の最も深刻な問題は、雇用問題だ。ガレキ処理を独自の復興プランにつなげたいと考える被災地自治体は多い。そうした自治体の意向やアイデアを尊重し、様々な選択肢と支援を用意することが、本当の被災地支援だろう。

広域処理ありきの環境省のプロパガンダは、「原発運転を継続したい経産省が後ろ盾になった『放射能安全神話』構築のため」(下地真樹さん)との見方もある。被災地の復興までも犠牲にされようとしている。

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