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2012/5/9更新

オキュパイ・ウォール・ストリートから 「自宅を占拠する」草の根運動へ

アメリカ在住 島・M・ゆうこ

ウォール・ストリートに端を発した「自宅を占拠する」運動は、全米に拡大し、磐石な草の根運動に発展した。ワシントンDCを中心にした「自宅占拠」運動の発起人であり、同運動の経済戦略家でもあるマット・ブラウナーハムリンさんに「自宅占拠」運動の経緯、組織と活動などについてメールでインタビューした。(著者)

「家を失う側の責任」から「金を貸した側の責任」への大転機

彼は、数百万人が不正な書類で家を奪われていることや、巨大なエリート金融の違法行為が野放しになっている状況を見過ごせなかった。このため「自宅を占拠する草の根運動こそが、この現実を変える方法だ」と確信した。「自宅占拠」運動で一番訴えたいことは、「闘いを怯まず、勝利するまで闘って『必ず勝つ』と決意することだ」とマットさんは言う。

 

マットさんの管轄区域であるワシントンDCのデモ
 (4月2日『自宅を占拠する』DC組織提供)

銀行は、住人を追い立てる際に、家の持ち主に「抵当流れは恥だ」と思わせる。これこそ、銀行が使った「99%の大衆に対する武器」であった。しかし「自宅占拠」運動は、この「恥の文化」を変え、全米に波及した。「家を失う側の責任」が、「金を貸した側の責任」へとひっくり返った。

「ウォール・ストリート占拠」から「自宅占拠」運動へと展開したきっかけは、2008年以降、銀行と相場師が、個人住宅を標的にした《ギャンブル》を始めたことである。その事実をつかんだ活動家は、「ウォール・ストリートの嘘と欲が原因で、抵当流れが相次いだ」と見ている。

抵当流れや立ち退き命令に直面した人たちは、「不幸のダブルパンチを受けている」という共通性がある。まず、@08年の経済危機で失業したり仕事が減少し、個人事業主は経営困難に陥り、一般市民、退役軍人、または身体障害者は失業するというパンチを受けた。

そして、Aローンの支払いが滞納し、家を失う、という2つめの苦境に直面している。

ひどいケースでは、癌で入院中に、家財道具全てを外に放り出されたり、留守中に抵当会社が鍵を変える例も珍しくない。ミネアポリスの退役軍人ボビー・ハルさんが占拠運動の活動家と出会った時、彼は荷物をまとめて、家を出る直前だった。

ボビーさんは、心臓発作などで入院を繰りかえし、10年間で貯蓄が底をついた。住宅ローンの減免を「バンク・ オブ・アメリカ」に依頼し、要求された書類を全て提出した。しかし、減額された新しいローンの支払いが始まった矢先、U・S・バンクが彼の家を購入。公開オークションにかけられ、追い立てに直面した。

昨年12月、『自宅を占領する』活動家が、ボビー・ハルの家を占拠する運動を開始した当時の写真。左側の犬を連れている白人がボビー・ハルさんで、6人の活動家と子供たち。 (12月7日ABC ニュースが提供)

そんな時、「自宅占拠」運動の活動家が、ボビーさんの家を受け戻すため、地域集会を開いたり、敷地内にフェンスを立てるなど、約500名が総力でキャンペーンをおこなった。こうしてボビーさんは、自宅を取り戻した。

彼同様、多くの人たちが、立ち退きの前に、ローン契約の減免を銀行と交渉している。銀行側が交渉に応じて、しばらく新たなローンで支払いを続けても、結局、数カ月〜1年以内に家を手放すケースが、不思議なほど多い。書類の紛失がその理由とされる。

また、住宅ローン変更の際に、銀行は「支払い不履行」を条件とするデフォルトを勧める。しかし、その申し込みをしても、気がつかない間に抵当流れの手続きが始まっているという。一部の銀行の「手口」として、書類紛失、電話に応対しない、無視、矛盾した返答などが報告されている。昨年から、ニューヨーク、フロリダ、カリフォルニア、ネバダ州など複数の都市で、地域住民らが、住宅ローンの詐欺行為を暴露し、司法長官事務所が調査を開始している。

市民運動ネットワーク拡大ホームレスのための空家占拠も

「自宅占拠」運動の活動家は、市民団体、弁護士グループ、非営利団体、宗教団体、政治家、有識人、農民と共同で、銀行側と団体交渉を行い、支援活動を実施している。

全国各地の市民団体は、大小を問わず、様々な方面でオンライン・グループの活動家とも連帯している。「ミネアポリス、アトランタ、ロサンゼルスのグループが最も活動的で影響力がある」と、マットさんは語る。

2月27日、ニューメキシコ州、ラス・クルーシスで行われたデモ抗議
(オキュパイ・ラス・クルーシス提供)

ワシントンDCの占拠活動家が統一行動している組織には、弁護士グループをはじめ、約20の団体が含まれている。その中には、教育、人権、社会、雇用、環境、エイズ問題などで闘う歴史ある組織もあれば、ネット上の新しい組織もある。

抵当流れの判例など、法的分野の情報を提供するグループ、インタビューや写真・報告などをビデオなどに記録してメディアを駆使するグループなどが際立っている。

その中には、家主本人が抵当流れに逢い、一人で立ち上がり、友人や弁護士などが協力して、組織化したグループもある。このグループは、2010年、メデイアが暴露した、「ロボ・サインナー」に関する数々の記事を転載している。これは、抵当権証書の内容を確認せず、大量の書類に機械的に署名する金融機関の違法行為で、抵当流れが相次いだのはこれが大きな要因である、と言われている。

住宅占拠運動は、「移民者の権利」や「住宅所有の権利」など、社会変革を目指す活動家と接触があり、連携が拡大している。また、ホームレスの人数を記録し、社会的インパクトを訴える活動も行っている。

マットさんが中心となっているワシントンDCの活動家も、ホームレスを空家に居住させる手助けをしている。抵当流れで空家になった戸数と、家を失った人口は、ほぼ同じだ。銀行の手に渡った空家は、急速に荒廃が進むため、「住居を必要とする人に空家を提供する方が、住宅危機の最大の解決方法になる」と、マットさんは述べている。法的問題はさておき、一時的な処置として、特に《高齢者を外に放り出さない》という強い信念に基づいた行動だ。

また、マットさんに「略奪的ローン」の犠牲者を何人救ったのか聞くと、空き家を占拠し、立ち退き命令を解除させたケースは75所帯以上で、うち10件以上は、自宅を永久的に取り戻すことに成功したという。

他の州でも同様の活動が行われていて、立ち退き処分が一時的に延期されたケースが急増している。「多くのグループが他の地域の活動家と連携し、困難に直面した家主を援助している」とマットさんは言う。

重い腰をあげた連邦政府銀行への大規模な抗議行動

(以下一部全文は1445号を入手ください。購読申込・問合せはこちらまで。)

4月上旬、FRB(連邦準備制度理事会)は、抵当流れで空家になった物件に関する方針を打ち出した。4月5日の「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙によると、FRBは抵当流れの不動産の賃貸を許可する声明を発表した。また、賃貸しない場合、銀行に対しその不動産を「速やかに売却することを義務づける」ことで、「賃貸につなげる」とも報じている。

「自宅占拠」運動は、支持者も増え、文字通りしっかり根を這った運動に発展した。ウォール・ストリートから始まったこの活動は、腐敗した金融システムに大きなインパクトを与え始めている。

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