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2012/3/31更新
福島では、農家も放射能被害で厳しい選択を迫られている。田畑を除染し、より厳しい独自検査で信頼を回復して営農継続をめざす農家がある一方で、移住を決めた農家もある。同じ農家としてどう考えるか? 兵庫有機農研・橋本慎司さんに聞いた。橋本さんは、行政とタイアップしながら移住先を準備している。(文責・編集部)
農家/兵庫県有機農業研究所副理事 橋本慎司さんに聞く
──《福島の農業を守るため》に、「福島県産の作物を積極的に買おう」という動きについてご意見を。
橋本…福島市や飯舘村は無論ですが、郡山市でも空間線量が高く、住民が既に5_Sv以上被曝してしまった場所が、たくさんあります。チェルノブイリ事故の際は、移住対象地域に指定されたレベルです。そんな場所に、子どもが住んでいるのです。
50才を超えると、放射能の影響も少なく、子どもも自立していることが多いので、本人が居たいのであれば残る、という選択はあり得ます。しかし、30〜40代の若い農家は、できる限り早く移住した方がいいと思います。
私が恐れるのは、百姓の被曝です。農作業はほとんどが屋外ですから、日々の農作業で、かなり被曝することになります。福島の野菜を買い支えて売り上げが上がるほど、労働時間も長くなり、被曝量が増えます。
私は、被曝2世です。父は、被爆した当時15才で、直後に紫斑が出たそうです。「紫斑が出ると、1週間で死ぬ」と言われていたそうで、少年だった父の、死への不安を聞いて育ちました。母も、子どもへの遺伝を心配しながら育ててくれました。こうした自分の経験からしても、福島の人たちの放射能への不安と恐怖は、深刻だと思います。
放射線専門家の中には、「100_Svでも健康被害は出ない」と主張している人もいますし、「低線量でも被害はある」という専門家もいます。しかし水俣では、問題が発覚してから原因物質が特定されるまでに数年を要し、専門家が論争をしている間に被害が拡がってしまった、という苦い歴史があります。
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──《福島の農業を放棄する》という選択もあり得るのでしょうか?
橋本…福島で、「なんで逃げないのか?」と聞いたことがあります。家のローンや仕事など、切実な事情があります。健康被害は、ガンだけでなく、強い倦怠感が出て仕事などもやる気がなくなる「原爆ぶらぶら病」というのがありました。周囲からは「さぼっている」と言われ、本人はたいへん苦しい思いをしました。福島でも、同じ症状が出る可能性もあります。
今は、直接的な健康被害は出ていませんが、月日が経って、本人や家族に健康障害が出た時に、後悔するのではないかと危惧します。
子ども福島代表の佐藤幸子さんは、自然農法をやっていたのですが、「自分が食べたくないものを消費者に食べさせるわけにはいかない」と農業をやめて、野菜カフェ「はもる」を始めました。兵庫からも毎週、有機野菜を送っています。
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福島県二本松で40年有機農業をしていた丹野喜三郎さん(70)は、長野県上田市に移住されました。上田市の若い有機農家が、熟練の技術を持った丹野さんの家に集まり、大きな影響を受けているそうです。彼を中心に農業塾のようになり、地域の中でも受け入れられて尊厳を失うことなく、移住して良かった、と話しています。 しかし、地元の仲間からは「借金を抱え逃げた」などと非難されているそうです。「移住したい」と思っても、村のつながりやしがらみの中で、言い出せない実状があることは理解できます。
橋本…土壌中のセシウムを収穫物に移行させないための技術は、開発されつつあります。しかし、福島の汚染地域では、畑の除染や生産の回復より、被曝手帳を配布するなどの医療制度をきっちりとすることの方が重要です。
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既に丹波市では、4月議会で、移住したい農家を受け入れるための予算化が提案されます。「どろんこキャラバン」という、移住を前提とした保養プログラムも始まっており、今年の夏も開催する方向で計画を進めています。私も、協力させていただきたいと思っています。
──保養プログラムに対する国の動きは?
橋本…福島市や現地マスコミにも、保養プログラムの情報を流しましたが、全く協力してくれませんでした。住民が、福島から出ていくきっかけになるからです。北海道をはじめ、各自治体は受け入れ体制を作っているのに、福島には全く情報が入ってこないそうです。このため、「自分たちは見捨てられた」と思っている人もいます。
移住できない事情がたくさんあることはわかっていますが、市島(兵庫県丹波市)では、4月議会で条例が提案されます。今は移住希望者は少ないのですが、将来、健康障害が出たり、農産物が売れなくて営農継続が困難になれば、移住希望者が増えると思います。その時に備えて、受け入れ先を用意し、協力できる体制を作っておきたいと思います。