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2012/3/31更新
総額=数兆円といわれる巨大公共事業としての「除染」が始まった。原発を推進してきた原子力開発機構が、除染を指導するというマッチポンプに加え、発生者=東電の責任を全く問わないという誤魔化しが根本にある。
政府が推進する「高圧水除染」を厳しく批判し、地元にある資源を使い、安上がりで簡便な除染方法を開発・提案してきた山田國廣さんが、これまでの研究と実践の成果を本にまとめた。山田さんの研究領域には、内部被曝を低減するための食品除染と人体除染が加えられた。この1年の総括も聞いた。(文責・編集部)
市民除染プロジェクト代表/京都精華大学教授 山田國廣
これまで、住民の外部被曝を抑えるための「除染」を主にやってきましたが、昨年の夏頃から、内部被曝を避けるために、食品汚染の研究にも取りかかりました。チェルノブイリ事故でも、当初は住民の外部被曝低減のための住宅・田畑の除染でしたが、すぐに内部被曝からの防御に重点が移っていきました。具体的には、放射能排出効果があるアップルペクチンを30万人の子どもに飲ませたり、保養プログラムを実施して、人体の汚染度を下げる取り組みが、実際上の効果を上げたようです。
内部被曝を防御し、低減するには、@放射能を人体に摂り込まないための食品除染と、A人体から放射性物質排出を促す人体除染があります。
人体除染のためには、避難や保養が有効です。チェルノブイリ事故では、欧州の市民グループが1カ月ほど汚染地域の子供を預かり、保養前と後に、ホールボディカウンターで汚染度を測定し、保養の効果を確認しています。
セシウムなどの放射性物質は、体内に入ると腸から吸収されて体内を回るのですが、アップルペクチンや植物繊維は、セシウムが腸と肝臓の代謝経路を通って腸管内に分泌された時、腸内でセシウムと結合して再吸収を阻害し、便中への排泄を促進します。《腸肝サイクル》と呼ばれるもので、これがいわゆる「放射能の生物学的半減期」と呼ばれている作用です。セシウム137の生物学的半減期は、成人の場合、100日程度と考えられています。
プルシアンブルー、アップルペクチン、食物繊維などを摂取すると、セシウムと結合して、この生物学的半減期を短縮します。食品としては、柑橘類、干しぶどう、わかめ、玄米の糠などです。ただし、これらはセシウムと結合しやすい性質なので、汚染された食品は、逆に濃度が高いということになります。
福島では、外部被曝に注目した除染が中心で、家屋や公共施設の除染が始まっていますが、実際上の健康被害、特に子ども達にとっては、食品などによる内部被曝を避けるための取り組みが、重要な段階になっています。これはチェルノブイリの経験から学んだことですし、故・高木仁三郎さんも、かねてから指摘してきたことです。
トータルに放射能の健康被害を防止しようと思うと、外部被曝防御だけでは不十分で、実際上の影響は、内部被曝の方が大きいことがわかっています。
長期低レベルの放射能汚染は、長期に渡る影響が心配され、継続することで健康被害が大きくなります。政府が食品に含まれる放射性セシウムの新基準値を100bq/sに決めたので、100bq/s以下の食品は店頭に並び、私たちはそれを食べ続けることになります。
このため、@放射性物質の摂取を中断したり、A放射性物質の排出量を摂取量より大きくして、体内放射能レベルを全体として下げることが目標とされるべきです。特に福島の子どもは、@放射能フリーの食品を食べる一定の期間を設ける(保養プロジェクトなど)、A放射能排出を促進する食品をバランスよく組み合わせたりして、人体除染をした方がいいと思います。
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関東のゴミ焼却施設から発生した焼却灰が高い放射線濃度を示したことで、問題となっています。昨年6月、東京都内の一般家庭ゴミなどを処理する清掃工場のうち、江戸川清掃工場で発生した焼却灰から、1sあたり8000bqを超える放射性セシウムが検出されました。
ゴミ焼却灰の汚染は、放射能汚染の広がりを示すもので、土壌汚染と草木汚染の指標と考えられます。除染のために刈り取られた草木が、ゴミ処理施設で焼却され、灰として濃縮されたからです。ゴミ焼却灰の汚染は、その地域にセシウムが降り注いだ証拠なのです。
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ただし、「焼却処理=汚染の拡大」と短絡的に考えるのは間違いです。フィルターを取り付けるなどの対策を取れば、セシウムが環境中に放出されることは、ほとんどありません。ダイオキシン対策仕様のゴミ焼却炉は、ほぼ安全レベルです。セシウムは水と結合しやすいので、排ガス中の粒子を洗浄水で捕集して分離するスクラバー(洗浄集じん装置)は、特に効果的です。
バクフィルター・電気集塵機・スクラバーの3点セットで、セシウムはかなりの程度で除去できます。煙突からの排煙を、しっかり監視・測定する体制を整えた上で、ゴミ焼却を「除染」と捉え直して、資金と人材を投入すべきです。
関東で、特に高濃度焼却灰の処理が大問題となっていますが、見方を変えると、これは「除染の結果」とも言えます。低レベル汚染物である草木が枯れて土に帰ると、草木の放射能が土に移転し、放射能はその地で循環を始めたはずです。
除染作業や通常のゴミ処理の一環として、広大な面積に拡がっていた汚染草木が集められ、焼却によって灰として濃縮された結果、高い汚染値を示しているのです。 低レベルで広範囲に拡がったセシウムが、集められて灰として濃縮され、高レベル汚染物質化したのですから、これは「除染」作業そのものです。
除染作業は、基本的にゼネコンや自衛隊にまかせるのではなく、第1次産業に従事する人が主体になって、「当面の仕事」として従事すべきだと思います。第1次産業の方々は、田畑や海が自分たちの生業の場ですから、状況を最も解っているはずですし、高圧水除染のような一時凌ぎの除染ではなく、生業を回復する復興作業としてやれるからです。田畑や海を除染しないと、食品汚染も防げません。農家なら、一定の機械もあります。
ただし除染作業は、「仕事」として賃金を東電に請求すべきです。福島の現地では、雇用の確保が緊急の課題ですから、当面の失業対策として雇用し、除染作業をすることを考えて欲しいと思います。
私にとってこの1年は、除染の可能性を探る1年でした。昨年5月に初めて福島に入り、これまで7回通って実証実験を行ってきました。一方で、セシウムとは何か? どこにどのように存在しているのか? 除染するとは、何を意味し、どんな影響があるのか?を探求し続けました。
私は今年で69才になりますが、人生でこれほど勉強したことはありません。5月、福島市中心部の小学校校庭の汚染測定値(5μSV/h)を見た時に衝撃を受け、こんな高濃度汚染の場所に、子ども達が生活していることを知り、何とかしなければと思いました。これが私のエネルギーとなりました。
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しかし、原理的に除染は可能です。今もそう思っています。
私たちが提唱する除染方法は、徐々に、しかし確実に線量を下げる方法です。今は、「除染は不可能」と考える人が圧倒的になっていますが、諦めてしまえば、希望はなくなります。
原理と実際的な方法の間には、まだギャップがあることは事実ですが、それは原理に基づいて除染方法を開発し、実践して効果を検証し、さらに改善していくことで発展させられます。
除染マニュアルを作成した原子力開発機構が、除染の原理を理解しているとは、到底思えません。セシウムを全く理解していないために、高圧水除染のような方法が提唱されるのです。
1年の総括として、東電の加害責任がますます曖昧になっています。@除染の責任は第1義的に東電にあること、したがって、A除染費用は東電に請求すべきであることは、これまで主張してきました。付け加えて、B東電は、福島第2原発を汚染処理の拠点として使用すべきだと思います。
同原発を中間貯蔵地として、また高レベル放射性物質の処理施設として、改変して使用します。同原発が再稼働することはあり得ません。一方、高濃度焼却灰や除染した汚染物の中間貯蔵地がないために、除染作業も滞っています。
中間貯蔵地を双葉郡に押しつけて、東電は知らんぷりというのは、どう考えても無責任です。汚染がれきの処理は、現地でやるのが原則ですから、処理を進める意味でも、第2原発の敷地を利用すべきです。