2012/3/14更新
山川晃一(30)
食品宅配事業のピッキング作業員としてアルバイトを始めて2カ月になる山川晃一さん(30才)は、15才からひきこもりを繰り返してきた。現在は、1日5時間、週4日働いて8万円/月ほどの収入だ。「働いていれば社会人として認められる。自分を許せる」と語る山川さんが不登校になったのは、友達関係のこじれだ。人の眼が恐くて外に出られなくなったという。(文責・編集部)
現在のピッキング作業は、立ちっぱなしの流れ作業で、体はしんどいのですが、「仕事をしている」という充実感はあります。ひきこもり就労 支援のNPOで、焼き芋を売っていたことがあるのですが、全く売れなくて…。他にも園芸店での就労体験もやりましたが、これらに比べると精神的には楽です。
中学校の時は、バスケット部に所属していましたが、人付き合いや集団のゲームが苦手で、孤立しがちでした。
中学校卒業前に、ちょっとしたことで友達関係が崩れて気まずくなり、不登校になりました。15〜18才は完全なひきこもりで、その後も外に出られない時期が長く続きました。この頃の記憶はあまりないのですが、いつの間にかそうなっていて、特別な事件や事情があったわけではありません。
ひきこもり当初は、ゲームやマンガで過ごしていたのですが、「何もしていない自分」に気付いて苦しくなっていき
ました。高校受験もしていないので、将来への不安が募り、そのうち人の眼が恐くなって、外に出られなくなりました。両親ともほとんど話をしていません。
私が18才の時に、5才年上の兄から「このままじゃまずいから、部屋を出る準備をしたら…」と言われたことを、今も覚えています。「ついに言われてしまった」と思いましたが、自分のことを考えてくれているという、感謝の気持ちも起きました。
21才の時に、アルバイトの面接に行ったのですが、公務員の父親から「アルバイトなんかしてもダメだ」と言われました。段階を踏んで社会復帰を、と考えていたので、へこみました。
仕事をすることは、自分を「社会人」として認めることができる、最低限の条件だと思います。今回アルバイトを始めたことで、少し気持ちが安定してきました。作業で失敗した時などに注意・叱責されるのが恐くて、不安や躊躇がありましたが、周りの人が フォローしてくれましたし、注意されることで仕事を教わって、少しずつ人とも喋れるようになってきました。
昼休みは、「人と喋らないといけない」というプレッシャーがあって、長く感じます。特に「これまで何してたの?」と聞かれると、答えられるものがないので、恐いのです。現在の職場には、私と同じように、就労訓練で来ている友人がいるので、昼休みは彼と世間話をして過ごしています。
3年前にアパートを借りて、ひとり暮らしを始めました。仕事から帰った後は、食事を作り、身の回りの家事をして、ゆっくり過ごしています。部屋を借りるのも家事をするのも初めてで、不安は大きかったのですが、NPOや両親の後押しもあり、何とかやれています。週2回程度、剣道場通いも始めました。
剣道場では、姿勢や竹刀の振りを厳しく注意されます。「くそっ」と思うこともありますが、これが実は、職場の人間関係の訓練になっているのかもしれません。学歴が中卒だったので、昨年5月から勉強を始めて、資格認定試験で高卒の資格を取りました。
自分の年齢と将来を考えると、夜眠れなくなりますが、できれば正社員として働きたいので、「資格も必要かな」と思っています。「何をしているの?」と聞かれた時に、答えられる職業があることで、〈社会に居てもいいのだ〉と確認できるからです。
黙々と作業をするという仕事が希望です。接客などはまだ無理でしょうが、できる仕事の範囲も広げていきたいと思っています。