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2012/3/3(土)更新

イラン・シリアの「脅威」「危機」とは何か?

民衆蜂起に敵対する「脅威」と 「危機」の策動

「シリア民主化デモを軍事弾圧」とのニュースが、駆けめぐっている。リビアへの軍事介入を正当化した論理=「人道的軍事介入」の再現だ。アラブ「民主化」運動は、欧米軍介入でその性格と目的がねじ曲げられようとしている。

リビアには、「民主化」を名目に軍事介入し、サウジアラビアやイエメン等の王族支配諸国の民主化デモへの弾圧は、黙認されるという二重基準こそが、介入の目的が他にあることの証拠である。

イランの核開発疑惑も同様だ。公然の秘密であるイスラエルの核保有について非難も査察もしない欧米は、イランに対して、「査察に協力的でない」ことを非難し、制裁を発動している。足立正生さんに、中東危機の「実態」と「虚構」について聞いた。(編集部)

誰が「脅威」と「危機」を捏造しているのか?

映画監督 足立正生

今、再び三度、中近東の「危機騒ぎ」が引き起こされている。イランの核開発という「脅威」が喧伝され、2度の安保理制裁決議が出されるなどの外交攻勢に続き、イスラエルが「自国防衛のため」としてイランの核施設を空爆する可能性も煽られている。

一方で、強権的な独裁体制を維持するシリアに対して「非人道的な圧政」への制裁と武力攻撃の可能性がキャンペーンに追加されている。

この二つにして一つの「脅威・危機」キャンペーンは、誰が行っているのか?欧米諸国とイスラエルだ。「危機」を口実に、武力制裁をちらつかせ、あわよくば、直接軍事行動を起こした時の正当性を主張する布石にしようと考えているようだ。

しかし、「脅威」と「危機」の実情は、不鮮明のままだ。ただ、狼少年のように「脅威だ、危険だ!」と叫んで回る欧米とイスラエルの情報操作の意図を考えれば、「危機」の擬態が浮き彫りになってくる。

欧米が、自分の利益に沿わないものを「脅威」と見なして攻撃するのは、現代戦争史の中で証明されている。@イスラエルによるアラブ領土の占領拡大を支援し続けたこと。A米国の盟友王政を革命したイランを敵視してイラクを抱き込み、「2重包囲戦略」と呼んでイラン・イラクの消耗戦争を続けさせたこと。B「イラクの脅威」の排除のために第1次湾岸戦争を導いたこと。さらに、C9・11後、イラクとアフガニスタンを「アルカイダの保護者」で、「大量殺戮兵器の脅威」をもつ「悪の枢軸」と名指して多国籍軍で攻撃破砕したこと、などだ。

今喧伝されている「脅威」と「危機」も、欧米とイスラエルの権益維持のための宣伝戦であり、「脅威を取り除く」戦争を開始する可能性を示している。それが、「危機」の実態だ。常に支配権益を巡って欧米諸国が「危機」を作り、占領と支配に抵抗する側(民族解放闘争も含む)が「危機」を招いた事実は一切ないことも、証明済みなのだ。

 イラン・シリアの「脅威」と「危機」の実態

彼らは「イラン『核武装の脅威』を取り除かなければ、中東地域での新たな戦争を誘因する」と言う。イスラエルがイラン核施設を攻撃し、イランが報復すれば、中近東一帯だけでなく、世界規模の戦争が開始され、誰も止められなくなるという「危機感」が独り歩きしている。この「イランの脅威」と中東戦争への危機を一つに括って「危機意識」を捏造することこそが、欧米の目標なのだ。

世界の核保有国は、国連で「イラン核保有の脅威」を主張して経済封鎖を行ってきた。核保有国の意向実現のためのIAEAによる「核武装の危険性は存在しない」(2011年報告)との報告は無視され、代わりに「調査に非協力」との批判が拡大されて、イランへの経済封鎖が決議された。核保有国への不服従・非協力によって「危険な存在」にされ、他方でイスラエルの核武装は全く危険視されないという、欧米諸国が取っている2重基準を自ら暴露している。

シリアは制裁するが、王政独裁国家の非人道性は問わない二重基準

では、シリア独裁政権の「危機」とは何か?独裁反対を叫ぶ民衆が大量に虐殺され続けている、という「非道」を欧米メデイアが報道。これを背景に、アラブ連盟諸国主導でシリア制裁案が安保理に提案された。制裁案は否決されて、直接軍事介入は回避されたが、アラブ地域では最も「非人道的な」王政独裁国家であるサウジや湾岸諸国が制裁を主導している意味が重要だ。

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民主化が問われているのは、シリア以上に彼らである。彼らは、シリアの「民主化」後には、民衆の攻撃の矛先が自分たちに返ってくることを知りながら、なぜそうできるのか?そこに、「脅威」と「人道危機」を一体化させたい根拠がある。

つまり、イランとシリアは反米的だが、独裁王政諸国は徹底的に親欧米という違いが鍵だ。彼らは、シリア制裁のイニシアテイブを取ることによって、欧米諸国に非人道を批判されず、民衆蜂起を発生させないようにするという「安全保障」を約束されているからだ。

喧伝されている「脅威」や「危機」は、欧米の思惑と権益野望が発生させる戦争の危機を自作自演するものだ。

つまり、サウジアラビアをはじめとする王政独裁諸国が「反独裁」を掲げるという欺瞞性が問われている。シリアの非人道性は大問題だが、宗教的な王政独裁の酷い非人道性を、「アラブの民主化」を掲げる欧米諸国が批判することはない。「イランの脅威」や「シリア危機」とは、欧米にとっての戦争への危機でしかない。

「危機」による民衆 蜂起の切り縮め

では、なぜ今、「危機」を声高に言うのか?

昨年、チュニジアからエジプトへと始まったアラブ民衆蜂起は、イエメン、バハレーンに広がった。欧米諸国は、エジプトやチュニジアの独裁政権を支えてきた実態を忘れ、「アラブの春」や「アラブ初の民主化要求蜂起」と呼んで支持を装った。だが、その呼び名そのものに、解放と自由を求める民衆の意志を切り縮めようとする意図が強く込められている。

アラブ民衆の蜂起は、繰り返されてきた。近くでは、パレスチナでの1978年と84年の反イスラエル抵抗闘争「インティファーダ」(石礫の蜂起)、旧くには、幾多の植民地体制や王制打倒の叛乱クーデターなどだ。ただし、今回の民衆蜂起が強いのは、アラブ全域で独裁体制に「NO!」を突きつけた経過に表れている。その意味で、パレスチナの反占領「インティファーダ」と同様の「市民による革命」が始まったと言える。

蜂起は、アラブ諸国だけではなく世界中に広がり、欧米諸国の「脅威」にまで発展し始めた。そのために、何よりもアラブの民衆蜂起を素早く切り縮める必要に駆られている。一例は、バハレーンの民衆蜂起に対して、湾岸諸国連合(GCC)が越境派兵して弾圧し、王政維持を計ったことに見られる。欧米は、この湾岸諸国のイニシアティブを前面に立てるシステムが、直接介入よりも好結果を生む実験だったと評価したようだ。

したがって、現在の「脅威」と「危機」の捏造の意図は、アラブ民衆の蜂起に次ぐ民主化要求を、「危機」を作って丸ごと安定化に逸らしてしまおうとするものだ。アラブ民衆の蜂起は、王政独裁政権やイスラエルだけでなく、その両者を支えてきた欧米諸国への反抗へと否応なく広がるだろう。それを事前に食い止めるために、欧米諸国は、民衆の意志を誘導するための歴史的な策術展開を開始したのだ。しかし、これが失敗するのは必至だ。

アラブ民衆の蜂起と同根の叛乱が、ギリシャ、スペイン、英国、そして米国全土に広がっている。しかも、それは一回性の蜂起から、連続して人道主義の実行を要求するもの、と発展している。

民衆蜂起と全世界のパレスチナ化

「脅威」や「危機」によって世論誘導する欧米の支配術は、中東での経験を生かして自国民衆の蜂起にも適用することになるだろう。しかし、それは問題を先送りし、拡大を必然化する。すでに英国の若者たちの暴動、米国の「99%」の蜂起、そして、日本の「脱原発」の抗議運動などの幅広い連帯の開始に見られる状況が、さらに進むからだ。彼らの危機は、自らが民衆の脅威になっていることを変えない限り、続くことになる。

つまり、イスラエル占領軍に対するパレスチナの民衆蜂起「インティファーダ」が、アラブ各地の民衆蜂起へと連らなり、欧米諸国の民衆の反グローバリゼーション蜂起へと拡大している。これは、「脅威」や「危機」を乗り越えるための叛乱へと連なって突き進み、根底からグローバリズムそのものを乗り越えていく運動になるだろう。

その意味で、世界中がパレスチナ化する民衆の蠕動は、既に始まっていると言える。

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