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2011/12/9(金)更新

「労働者派遣法改正」で与野党合意

あの派遣村を忘れたのか!?

2008年に国会に提出されて以来、3年間塩漬けにされた「派遣法改正案」は、改正の目的である「派遣労働者の保護・処遇改善」の諸規定がほぼ失われた内容で与野党が合意。国会で可決の見通しとなった。まさに「大山鳴動して鼠一匹」すら出てこなかったと言える。反対する労働運動サイドも「八方塞がり」(なにわユニオン・中村研さん)状態で、中身が失われた改正案が成立する可能性が高まっている。

あたかも震災で職を失った被災者のためと言わんばかりだが、中身のない派遣法の改正は、被災地の復興にも大きな、「負」の影響を与える。派遣という間接雇用の蔓延で企業の雇用責任はさらに曖昧にされる。安定雇用を得る道は狭まるばかりか、短期で使い捨てられ、東北地方の貧困化は拍車がかかるだろう。

政権交代の目玉であった派遣法改正の迷走と失敗の原因は何か?(編集部)

:民主党は12月8日、参院での審議に見通しがたたないため今国会中の労働者派遣法改正案の成立を断念した。衆院で継続審議とし、来年の通常国会で改めて審議を行う。

そして労働者につらい冬がやってくる

登録型派遣も製造業派遣もOK 日雇い派遣も条件緩和

労働者の使い捨て横行

ますます曖昧になる雇用責任

与野党が合意した改正案修正のポイントは3つ。@現行改正案で原則禁止とされるはずだった「登録型派遣」と「製造業派遣」の規定を削除する、A偽装請負など違法派遣があった場合、派遣先企業が労働者に直接雇用を申し込んだとみなす「みなし雇用制度」の導入を、3年後に延期する、Bまた短期(日雇い)派遣の禁止についても、期間を2カ月以内から1カ月以内に緩和する、というもの。フリーター全般労組の山口素明 さんは、「全く意味のない改正案だ」と酷評する。

派遣労働者の構成は、次のようになっている。派遣労働者総数=244万人(前年比9・4%減/2011年9月)のうち、常時雇用労働者=75万人、登録派遣175万人(厚労省速報値)となっている。派遣村以降、派遣よりも有期雇用契約や、請負契約に切り替える企業が多くなってきたことは事実だ。そして、派遣法改正の主な目的は、間接雇用である派遣労働をなくして、企業の雇用責任を明確にすることだったはずだ。特に短期の「日雇い」が横行していた登録派遣は、派遣元会社の責任も問えない雇用だ。

与野党が合意した改正案で、製造業への派遣と登録型派遣が、あらためてお墨付きを与えられる。さらに短期派遣の禁止規定も緩和されたので、派遣労働者が正社員化する道はさらに狭まる。

要するに、労働者保護規定はほぼ全廃で、例外的労働契約であるはずの派遣労働を一般化させて、推進する内容といえるだろう。

 2度の改悪

そもそも派遣法改正は、「年越し派遣村」に象徴される反貧困運動の高まりを受け、民主党を中心とした連立政権で本格的論議が始まった。日本の貧困(特に若者の貧困化)は、雇用の不安定化・低賃金化が主な原因である。リーマンショック後の大量「派遣切り」によって職と住を同時に失い、セーフティネットの不備が重なって、働き盛りの若者がホームレスに直行するという社会問題として顕在化した。

このため、連立3党合意による改正案は、法の目的に「労働者保護」を謳い、派遣切り再現防止のために、@雇用契約期間が2カ月以下の労働者派遣を禁止、26専門業務以外は常用雇用のみとする、A専門業務を除き、製造業派遣を禁止、B派遣労働者所属組合と派遣先との団体交渉応諾義務、C派遣先が違法行為を行った場合の直接雇用みなし規定の創設、D違法派遣に対する罰則強化、が盛り込まれていた。

この3党合意の改正案は、2度の改悪を経て無意味化した。1回目の改悪は、労働政策審議会で行われた。企業側委員である石井卓爾(三和電気)は、「激しい国際競争のなか、このまま派遣法の見直しが進むなら、国内に製造拠点がもてなくなる」と発言。工場を海外移転すると脅して、反対の論陣を張った。また、公益委員である征矢紀臣(元厚労相事務次官)は派遣自由化を建議した張本人で、岩村正彦東大教授は完璧な財界側専門家である。本来「中立的」である公益委員も激しく3党合意案を批判して、骨抜きを画策した。

結局、労政審では、登録型派遣や製造業への派遣について、原則禁止は維持したものの「常用型を除外する」との例外規定を設けた。また、派遣先の団交応諾義務も削除された。

 (以下一部全文は1432号を入手ください。購読申込・問合せはこちらまで。)

政治に振り回された派遣法

企業の先行的対応と連合の裏切り

原則に帰って議論を

以上見てきたように、修正内容には驚くばかりだ。これでは、現行案が目指す派遣労働者の処遇改善どころか、企業による使い捨て雇用はさらに横行する。

そもそも派遣労働は、戦後長らく禁止されており、1986年に施行された労働者派遣法は、業種を特定して合法化された。特殊な専門業種のみを対象とする、例外的働き方だった。それが、業種が拡大され(99年)、原則合法化(2004年)にいたり、非正規雇用と貧困の温床となった。

「派遣はふつうの働き方になってきたが、派遣で働く人々を守るしくみはほとんど進化してこなかった」(リクルートワークス研究所研究員・中村 天江)と、派遣業界すら認めているが、人材派遣協会などでは今なお「被災者のため」「多様な働き方を望む人のため」と派遣労働のプロパガンダを続けている。

派遣会社の中には禁止業務である建設現場に労働者を送り込んだり、データ装備費と称して多額の手数料を徴収するなど、違法・不法行為が目立っていた。こうした違法行為に対する牽制として設けられた「見なし雇用」も、3年後に先送りだ。今回の与野党合意に、派遣の業界団体である日本人材派遣協会や日本生産技能労務協会は、胸をなで下ろしていることだろう。

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