──小久保さんが生活保護の問題に取り組まれたのはいつ頃からですか?
小久保…生活保護の問題に関わりだしたのは、「佐藤訴訟」(※1)の弁護団として関わってからです。憲法25条(生存権)では素晴らしい理念を謳っているのに、申請者は窓口で酷いことを言われます。その実態を知り、窓口への同行支援をするようになりました。
2006年の日本弁護士連合会の人権大会では、初めて生存権保障を取り上げ、私も実行委員の一人として参加しました。大会では「クレサラ問題」(※2)も同時に取り上げられ、クレサラ問題に関わる人たちが生保の問題を勉強したり、生保の運動側もクレサラ問題から影響を受けて当事者がもっと声を上げる場をつくるよう示唆もありました。クレサラは、被害者の会を当事者が運営し、理事長などの役職も当事者の方でしたから。
2007年に生活保護問題対策全国会議などが誕生し、全国的な申請支援のネットワークができました。そして2008年年末には、年越し派遣村です。派遣村には多くの弁護士も関わっていました。
派遣村の社会的影響は大きく、大阪では、派遣村以降、ホームレスの人も生活保護を受給しやすくなり、1年間で約1000人減りました(※3)。2009年春には、「釜ヶ崎医療連絡会議」や「反貧困ネット・大阪」などが、それぞれ100人規模の集団申請を行ったのが一つの契機になったと思います。
また、保護費の大半を医療扶助費が占めていますが、大阪市が入院保護からなるべく居宅保護にして通院というやり方に切り替えた結果、保護費全体に占める医療扶助費の割合が減っています。
データに基づいた報道が必要
──「生保受給者数205万人を記録した」という厚生労働省の発表と同時に記者会見をされました。その意図は?
小久保…とにかくデータを見て冷静に報道して欲しいということです。
「1951年来の受給者最多数」と言いますが、例えば全人口に対する生活保護受給者の利用率(保護率)については、1951年は2.4%だったのですが、現在は1.6%です。諸外国と比較しても、ドイツでは約10%。アメリカは有期保護にした結果、フードスタンプを受ける人が増えて、13%を超えています(図1)。捕捉率も、日本は未だに2割程度です(図2)。そして、稼働年齢層が急増したと言っても、実質高齢者世帯と、傷病者・障害者世帯で8割以上を超えています(図3)。
稼働年齢層が増えたと言っても、そもそも本当に働ける人がどれだけいるのか?を実態に即して検討すべきなのです。
生活保護受給者の世帯を「高齢者世帯」「母子世帯」「障がい者世帯」「傷病者世帯」この順番で世帯を分類していって、どこにも当てはまらない世帯が「その他の世帯」となるわけですが、「その他の世帯」だからと言って仕事ができる状況とは限りません。例えば夫が66歳で、妻が64歳だったら「高齢者世帯」ではなく「その他」世帯となります。さらに、「その他」世帯構成員の過半数が50歳以上です(図4)。今の雇用状況のなかで50歳以上でどれだけの人が仕事を見つけられるのでしょうか?
つまり、受給者のなかで「その他」世帯が多いからと言って、働ける人が膨大に受給しているということはありません。「その他」世帯のなかでどれだけの人が実際には労働可能な状況なのかということを具体的に表す数値データもないと思います。
「働ける人には働いてもらって、財政負担を軽減するべき」という理屈で、保護費引き下げ・就労支援の強化が政策として採られています。大阪市の平松市長も、生活保護を期限付きにすることや、医療費の一部自己負担を提言していました。橋下元府知事も、「能力があるのに生活保護を受けている人たちには、就労義務を課す」と発言しています。しかし、「なぜ生活保護受給者が増えているか?」という根本に手をつけずに、生保受給者数のみ減らそうとしても意味がありません。
――当日は当事者の方の発言もあったと聞きましたが。
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小久保…はい。当日は3人の生保受給当事者から発表がありました。 …
新自由主義的な思想と抗う正念場
――生活保護は「世帯」単位で、個人単位ではないので、困ったという相談はありませんか?例えばDVで保護費を全部夫が飲んで使ってしまうとか?
小久保…私は、DVの相談はあまり受けたことがないのですが、世帯の問題で言えば、親子の問題もあります。親はそこそこ収入があるけれど、子どもはニートやひきこもりといった状態で収入はなく、家から出たいが生活保護は受けられるか?という話はありますね。
――今後の展望をお聞かせください。
小久保…繰り返しになりますが、根本の問題を解決せず生保受給者数だけ減らそうとしても、路上生活者が増えるか、自殺者が増加するか、犯罪が増えるかくらいしか考えられません。
… 今が正念場だと思います。
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