大阪市長選挙を目前にして(11月13日告示、27日投開票)、「弱いものイジメの橋下知事に、抗議の声を上げよう!」との動きがあちこちから上がり始めた。
10月20日には、エルおおさか南館で、「橋下徹さんが元のTVタレントに戻られることを願う大阪府民の会・結成集会」(主催・ハシ、モトドオリの会)が行われ、130人が集まった。
この集会の呼びかけ人の1人である西谷文和さんは、これまでアフガン・イラクを取材し、アメリカ軍の占領・支配の実態や、現地の人々の悲惨な情況を取材してきたフリージャーナリストだ。イメージばかりが先走る橋下知事は、一体何をしようとして、どこが問題なのか。
高い支持率を背景に、民主主義ルールを無視する橋下知事の暴走を、いかにして止めるのか。西谷さんに話をうかがった。(編集部一ノ瀬)
西谷…私は、息子が通う府立高でPTA会長を務めています。橋下知事になって、非常勤事務職員の予算が削られ、2009年に346人が解雇されました。息子の高校でも、10数年働いてこられた非常勤職員が首になり、非常に驚きました。
知事の自分の意に沿わない校長を名指しで批判するなど、強権的なやり方に、危ないものを感じていたのです。今回「維新の会」が出してきた「教育基本条例」「職員基本条例」を見て、「これ以上、知事の暴走を放っておけない、何とかして止めなければ」と痛感させられたのが、直接のきっかけになりました。
橋下氏が知事を辞めても、2条例が成立すれば、ずっと残ります。これは、何としても避けたい。
それで、「おおさか市民ネットワーク」の藤永のぶよさんと共同で、集会を呼びかけました。
──「教育基本条例」の問題点はどこですか?
西谷…特に「3年連続で定員割れした高校は廃校にする」という内容です。
橋下知事は、「定員割れは学校の努力不足」という認識ですが、まったく現実が分かっていない証拠です。府立高は一般に、@進学校、A中堅校、B困難校、の3グループに分類されます。「困難校」なんて嫌な名前ですが、いわゆる「落ちこぼれ」や不登校生徒が通う学校です。定員割れは、この「困難校」です。定員150名で、入学者が100名を切る学校もあります。
私は講演で、「困難校」にイラクやアフガンの話に行く機会があるのですが、熱心に耳を傾けてくれる子どもが多いのです。「素直な子が多い」という印象で、講演後、イラクやアフガンの子どもたちのための募金活動を始めた子もいますし、「人の命を救う役に立ちたい」と、看護師をめざす子もいました。
「困難校」が廃校になれば、こうした子どもたちの行き場を奪うことになります。学校は、一度つぶすと復活させるのは非常に困難です。
では、定員割れの原因は何なのか。今年4月に知事が導入した「私学無償化」で、保護者・生徒の高校志望の流れが変わったことです。
第1に、立地の問題。公立校は、土地代を抑えるために、私学と比べると立地条件は悪い。「同じ無料なら、交通の便のいい私学に」と保護者が考えても、無理はありません。
第2に、私学の入試が公立よりも早いことです。公立校の入試が2月下旬〜3月に対して、私学は、2月中旬に集中しています。日程的に、私学の方が早く生徒を確保できるようになっているのです。
加えて第3として、私学が通常定員の枠を大幅に超えて生徒を入学させていることが挙げられます。私学への助成金は、10月1日の生徒数を基準に支払われるためです。「入れるだけ入れてしまえ」という私学にも問題はありますが、生徒数で助成額を決める府の方針も、おかしいと言わざるを得ません。
──「教育基本条例」「職員基本条例」を見て、知事のやり方をどう思われますか?
西谷…橋下知事の「教育基本条例」は、アメリカのジョージ・W・ブッシュ政権が、2002年から施行した「落ちこぼれゼロ法」とそっくりそのままです。
「落ちこぼれゼロ法」によって、ブッシュ政権は競争原理を導入し、学力低下を回復させようとしました。そのために導入したのが、全国一斉学力テストです。テストの成績によって、優秀な学校にはボーナスが配分され、成績が悪い学校には、助成金カット、教師は降格か免職です。
この制度が導入された結果、アメリカの学校現場で何が起こったと思いますか?成績=テストの点数を上げるために、学校ぐるみの不正行為(カンニングなど)や、成績評価に関係ない教科の教師(音楽や美術、体育など)がクビになり、ストレスのあまり、5年間で2人に1人の教師が辞めていったそうです。
こうした流れは、オバマ政権でも変わっていません。ジャーナリストの堤未果さんの著書『社会の真実の見つけ方』(岩波ジュニア新書)に詳しく出ているのですが、全米規模で「ラン・トゥー・ザ・トップ」と呼ばれる州対抗の巨大な予算獲得レースが行われたのです。
公立学校の民営化と授業内容の点数市場主義化など、競争に勝ち抜くため、各州での取り組みを、何百ページもの報告書にまとめさせ、連邦政府が500点満点で点数をつけ、上位2州が予算をほぼ総取りする、というものです(2010年、教育改革予算40億jのうち、1位テネシー州が5億j、2位デラウェア州が1億jを受給した)。
また、昨年の話ですが、カリフォルニア州では、「ロサンゼルス・タイムズ」紙が、ロサンゼルス市内約6000人の教師を5段階に評した結果を、実名でインターネット上で公開するという「事件」も起こっています。
同州の過去7年間の統一学力テストの結果が資料として使われたのですが、データ処理を担当したのは、「ランド研究所」というシンクタンクで、軍事戦略の研究機関だったところです。先の「落ちこぼれゼロ法」は、生徒の個人情報を軍のリクルーターに提出する義務を高校に課していることもあり、貧困層の子どもが通う高校にリクルーターが来て、「軍に入れば奨学金が出るよ」と入隊させてしまうのです。これは「経済徴兵制」であり、きな臭いものを感じます。
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──「ハシ、モトドオリの会」は今後、どのような運動を予定していますか?
西谷…2つあります。1つは、橋下知事が大阪府の新庁舎とするべく、大阪市から買い取ったWTC(大阪ワールドトレードセンタービルディング。現在は「大阪府咲洲庁舎」)問題の住民監査請求です。3・11でWTCの耐震性が問題となり、庁舎移転は中止となりました。
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2つめは、マスコミで作られたイメージに乗せられて、知事を支持している人々に、彼の危険性を知ってもらうことです。
「ハシ、モトドオリの会」では、橋下さんをコミカルに批判した動画を制作して、「ユーチューブ」(インターネット上の動画閲覧サイト)に掲載しました。面白い仕上がりになりましたので、ご覧ください。WTC問題や2条例案の問題点などもわかりやすくなっています。広く知ってもらいたいです(「ハシモトドオリ」で検索)。
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福島原発事故をきっかけに、多くの人々が政府・電力会社の「原発安全神話」のウソを見破るようになりました。同様に、化けの皮がはがれかけた橋下知事の正体を、多くの府民に知ってもらえるよう創意工夫で訴え、活動していきたいと思います。
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