長居公園で野宿生活を送る人たちや、地域の人との仕事づくり、障がい者の就労支援、そして若者のサポートに関わってきた槙邦彦さん。判で押したようなキャリア教育ではなく、人との出会いこそが仕事だと語る。 (編集部・栗田)
フリースペース「オシテルヤ」槙邦彦さん
──若者の自立支援には、竹中平蔵会長のパソナや、麻生元首相の親族がやっている大手の派遣会社が関わってます。そのような企業と、槙さんたちの試みの違いを、具体的に教えてください。
槙…僕は、いわゆる「キャリア教育」をしたくないんです。
自立支援の現場では、よく「自分に合った仕事、やりたい仕事を見つけましょう」という指導がなされます。でも、自分に何が向いているかという基準ではなく、人との出会いのなかで求められる仕事が自然に定まっていく、というのがよりよい仕事との出会い方のような気がします。
パソコンが得意だからといって、パソコンを使う現場で職場体験をしてみたら、「思っていたのと違う。イラストレーターがいじれる体験がしたい」「やっぱりエクセルの入力がいい」と言って、体験先の変更を要求する若者は、結局、希望するパソコン関係の仕事には就けません。
僕はかつて、プータローをしながらバンドを組んで生活していたことがあり、当時は献血ばかりやっていました。「少しでも人の役に立ちたい」と思っていたんです。その頃出会った見知らぬ老人に、「今の君にとって、人と出会うことが仕事だよ」と言われて、自己満足だった音楽活動から離れて、出会った人から求められることを通して、いろんな職業を経てきた経緯があります。
前職は、身体障がいの人たちのヘルパーをしながら、車椅子の方の「働きたい」「結婚したい」という希望を叶えるための活動をちょこちょこ取り組んでいました。若者のサポートに関わるようになったのは、09年からです。
若者の就労支援で行われる「職場体験」とは、障がい者雇用のスキーム(枠組み)を流用したものです。障がい者の場合は、法定雇用率があることで企業の受け入れ態勢も生まれるのですが、ひきこもり経験者やニート状態にある人たちの場合は、《お客さん扱い》をされて終わりになることが多いのです。
だから、「人から求められるボランティア体験」にも力を注いでいます。
「ひきこもり」用語解説 |
──ひきこもり支援として、本人に直接お金を渡すやり方にならないのでしょうか。
槙…若者の就労支援としての予算が、当事者ではなく就労支援に関わるスタッフの人件費に使われていることへの疑問というのはわかります。でも、現状では当事者への支給というのは難しいと思います。実際、就労支援で動いているスタッフも元当事者であったり就労困難な課題を持っている場合が多いからです。自分の当事者性を自覚しているスタッフほどいい仕事をしているように見えます。
──雇用が減り、労働環境が荒廃している中で、実際に就労につながってはいるのでしょうか?
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──就労支援をしている立場として、社会の側に変わって欲しいと思うことはありますか?
槙…もともと社会の側の「受け入れ力」をアップしていく取り組みにしたいと思っていました。しかし、自治体から助成金を受けたり、受け入れ先である企業に「お願いする」という関係では、社会に訴える言葉の歯切れが悪くなってしまいます。
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