DPI(障害者インターナショナル)日本会議事務局長尾上浩二さんインタビュー
「障がい者が自身の価値を実感し、ともに支え合いながら生きることの喜びを分かち合える社会への一歩になる」─DPI(障害者インターナショナル)日本会議事務局長・尾上浩二さんは、障がい者制度改革の意義をこう語る。
障がい者制度改革推進会議(以下「推進会議」)は、2009年12月に閣議決定により設置され、10年1月から議論が始まった。初代担当大臣である福島瑞穂氏は、議論の冒頭挨拶で「今日の会議から歴史が変わったと思えるような議論をして欲しい。『私たち抜きに私たちのことを決めないで』という当事者の声を基に進めていただきたい」と語った。こうした決意の下で
、@障がい者基本法の抜本改正、A差別禁止法制、B総合福祉法制定、を目標に議論してきた。24名の委員の内、14名が障がい当事者またはその家族である。当事者が過半数を占める委員会が政府内に設置されたのは、初めてのことだ。会議の様子は、毎回インターネットで、手話と字幕付きで配信された。推進会議は、こうした画期的な情報公開も特徴である。
制度改革の基本的な方向を第1次意見(昨年10月)としてまとめ、「障がい者基本法」改正の方向性を示した第2次意見(昨年12月)も発表された。また、こうした動きと連動して、2010年4月には「総合福祉部会」が開催され、今年8月に「総合福祉法骨格提言」がまとめられている。
推進会議と福祉部会の両方に委員として出席し、福祉部会副委員長である尾上浩二さんに、制度改革の意義や今後の展開などを聞いた。(文責・編集部)
DPI(障害者インターナショナル)日本会議事務局長尾上浩二さんインタビュー
用語解説障がい者制度改革推進会議2009年の政権交代後に、民主党のマニフェストとして設置された。障がい者権利条約(2006年国連で採択)の批准に向けて国内法の整備をしていくのが目的。全ての障がい種別と団体の枠を越えた民主的な会議として議論がはじまった。 ロードマップ障がい者制度改革推進のための改革スケジュールが示されている。今年、障がい者基本法抜本改正・制度改革の推進体制に関する法案を提出し(7月に成立)、2012年には、障がい者総合福祉法案、2013年には、障がい者差別禁止法が提出される。毎年障がい者福祉に関する大きな法案が、国会で議論されることになる。 推進体制障がい者基本法には、「福祉法の推進体制」が盛り込まれ、「障がい者政策委員会」の設置が決められた。推進会議を発展的に改組し、障がい当事者が過半数を占める新たな審議会を設置。施策の実施状況を監視し、必要に応じて勧告を行う。 |
どんな障がいがあっても地域で当たり前に暮らしたい―そんな障がい者の願いを込めて、私たちは精力的に議論を重ね、本人が望む生活に沿ってサービスを自治体と協議しながら決める「障害者総合福祉法」(以下、「総合福祉法」)の骨格提言をまとめました。
私自身、小学校5年生の時に入所した施設で2年間暮らしましたが、この時の経験が、障がい者運動の原点となっています。1才の時に脳性麻痺と診断され、治療しながら勉強する施設に入ったのですが、「宝物」だった本さえ置くことができず、言いたいことも言えず、生活は、ほとんど施設の中でした。
日本には、身体、知的、精神障がいがあるために施設に入っている人が、約55万人います。障がい者権利条約には「特定の生活様式で生活するよう義務づけられてはいけない」とあるのに、地域の基盤整備が不十分なために、多くの障がい者が施設生活を余儀なくされているのです。
障がい者制度改革は、障がい者基本法・総合福祉法・差別禁止法の3点セットで進められます。
障がい者基本法について説明します。この基本法は、障がい者政策についての考え方を根本的に変えました。法律の目的は、「障がいの有無によってわけ隔てられない共生社会の実現」とし、この目的を達成するために、@障がい者を「保護の対象から権利の主体へ」と、また、A問題解決も「医学モデルから社会モデルへ」と、根本的な転換をしました。つまり、障害を個人の属性としてとらえその治療・克服を通じて社会に適用させるというのではなく、障がい者が社会生活を営めるよう社会の側を改造していくという考え方です。
これは、「障がいのある全ての人に対し、他の者と平等な選択の自由を有しつつ、地域社会で生活する平等な権利を認める」と謳った「障がい者権利条約」の精神を具体化した内容です。これは、例えば障がい者が、地域で介護を得られないゆえに病院や施設に居るしかない状態は、健常者と平等ではなく、違法だということを意味しています。
障がい者総合福祉法は、福祉サービスの谷間や空白の解消をめざしています。障がいは、身体・精神・知的と3分類されています。しかし、高次脳機能障がいや発達障がい、難病患者は、この狭間におかれ、ともすると福祉制度の外に置かれがちなのです。
現在、日本で法律的に障がい者と認定されているのは、700万人=全人口の約6%位ですが、これはEUなど先進国の2分の1から3分の1です。日本に障がい者が少ないのではなく、障がい者と認定する法的基準が狭いためです。
定義の見直しによって、谷間や空白を解消し、本来障がい者福祉の適応を受けるべき人の範囲を広げます。
福祉サービス支給決定の仕組みも、根本的に変わります。まず、自立支援法で導入された「障がい程度区分」は、廃止されます。そのうえで、本人がどういう地域生活をしたいのか?という希望に沿った「サービス利用計画」を申請するところから始まります。
本人が望む暮らしを支援するという立場に立って、障がい者へのエンパワーメント支援と意思決定支援が盛り込まれたことも、大きな特徴です。障がい者権利条約では、「どんなに重い障がいがあっても、自己決定が尊重されなければならない」と謳われています。
津波の大きな被害を受けた沿岸地域に、自立生活センターの関係者が、安否確認のために訪問した時です。「障害者生活支援○○」と名前を書いた車で行ったところ、家族から「一目で障がい者団体とわかる車で来ないで欲しい」と言われました。障がい者がいることを隠して、地域で暮らしてこられたからです。普段、障がいを隠して生活していれば、震災の時に適切な支援は得られるはずはないのです。
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今各地で、タウンミーティングを開いています。「サービス法」に、地域や当事者の声を採り入れる試みです。今度こそ政策決定に当事者が参加し、障がい者権利条約に見合った新法を作るために、私たちの声を届けたいと思っています。
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