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沖縄の亀裂をもくろむ戦争屋たちの影

八重山教科書採択問題と与那国島への自衛隊基地配備計画

沖縄県八重山地区では、「つくる」会系=育鵬社版の教科書が市長のゴリ押しでいったん採択されたが、全教育委員参加の決定で、どうにか回避できた。ところがその決定に、日本政府が圧力をかけてきた。そこには、昨年、自公の推薦で革新勢力を破って誕生した中山石垣市長、さらにその背後には、森喜郎が最高顧問を務める日教組問題究明議連の存在がある。

一方、教科書採択に密接な繋がりを持つ与那国島への自衛隊基地建設問題が、ここに来て急速に具体化が進んでいる。防衛省は、来年度概算要求に盛り込む構えだ。基地設置は、「地元からの誘致要請」の体裁を取っているものの、@自衛隊の親睦団体である「防衛協会」からの要請であること、A署名自体の有効性にも大きな疑問が残る二点で、誘致そのものに大きな疑問が残る。

いずれの問題も突発的に起こった訳ではない。日本政府は与那国島を含む沖縄の先島諸島への自衛隊寄港訓練を、10年前から頻繁に繰り返してきていた。そして、2007年には、米軍の掃海艦も与那国島へ入港している。日米ガイドラインを巧みに利用する日本政府と、背後のアメリカの存在。もはや自衛隊基地=米軍基地問題と考えた方が、現実を理解できる。今回の問題は辺野古への基地移設にも連なっている。その現状を追った。(阪口浩一)

義務教育課程における
教科書採択の流れ

義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」により、以下の手順が定められている。
 各都道府県は、3市町程度からなる「採択地区協議会」を設ける。同一地区においては4年間、各教科同一教科書採択が原則。
 協議会長が教科ごとに委嘱・任命した調査員が精査・報告し、協議会が選定。その結果を地区教委に答申し、それぞれの教委が最終決定する。協議会においては、都道府県の選定資料を参考にするほか、独自に調査・研究した上で教科書の採択となる。

いま、沖縄に亀裂が走っている。八重山地区の教科書採択問題と、与那国島への自衛隊基地配置計画だ。

沖縄・八重山地方の石垣市、竹富町、与那国町からなる採択地区協議会は、8月23日、来年度の中学校公民の教科書に「つくる」会系の育鵬社版を選定。その結果を3市町教育委員会に答申した。

石垣市と与那国町は答申通り採択したが、竹富町は育鵬社版を拒否し、独自に東京書籍版を選択。「無償措置法」(囲み参照)では、採択地区内で同一教科書採択を原則としているため、3市町村は、9月8日に全教育委員による会議を開き、東京書籍版採択を決定した。

ところが、文科省がそれに横槍を入れてきた。文科省は、「全教育委員会による東京書籍版採択は適法ではない」として、法律論で取り繕いながら、実質には育鵬社版の教科書が採択されるよう、沖縄県教委や八重山地区教委に圧力をかけている。

この教科書採択問題の背景には、政治的力がちらつく。昨年2月の石垣市長選で、自・公の推薦を受けて当選した中山義隆市長は、昨年9月の尖閣諸島沖での中国船衝突事故後、視察目的で尖閣諸島上陸を画策し、自衛隊の石垣誘致を積極的に進めるタカ派だ。その市長が起用したのが、今回の育鵬社教科書採択に積極的に動いた玉津博克教育長である。

採択地区協議会では、従来、教員が務める調査員が事前に教科書を「順位付け」する。どの教科書を選ぶかは、事実上、調査員が決定してきた。平和教育に熱心な沖縄の教育現場では、育鵬社を選ぶ可能性はゼロに等しい。

与那国島の戦後史

与那国島は日本最西端の島で、人口約1600人。石垣島から124q、那覇まで約650q。一方、台湾までの距離は111q。中国(福建省)やフィリピンの方が、那覇より近い。
 敗戦後の混乱期、GHQに禁止されるまでは、台湾など近隣との貿易で活況を呈していた。島の久部良部落では、最盛期の人口は1万5000人を越えていたという。台湾の学校や出稼ぎに行っていた高齢者は多い。
 戦後になっても、サトウキビ刈りの収穫期には、多くの台湾人農民が来島した。古くからの漁師たちは、尖閣諸島を含む近隣の海は国境など無縁で、漁民の共通の漁場であることを知っている。
 与那国島が、日本の国境管理と経済体制に組み込まれる中で、国からの交付金や公共事業、農協からの補助金などへの依存体質ができ上がってしまう。それでも2004年、小泉政権下で「市町村合併」や「地方交付金削減」の嵐が吹き荒れる中、与那国町民は石垣市、竹富町との合併に住民投票で反対。同町は「八重山地域市町合併協議会」から離脱した。
 05年には、立地条件を活かし、台湾を含む独自の経済交流を基本とする、「与那国自立ビジョン」を町議会で採択した。ところが、外務省の強固な反対に遭い、政府はビジョンの特区適用不可を同年10月に決定し、そこから流れが変わり始めたのである。

だが玉津教育長は、今回の採択で、強引に順位付けを廃止し、協議会から教員を除外した。加えて、調査員の推薦がない教科書を採択対象に加えるよう指導し、選考方法も無記名投票へと変更させた。

いったんは3市町村の全教育委員会で東京書籍版に決定し、事態は解決されたと思われた。ところが、強引にメモを渡して協議会の決定を支持したのは、《ヤンキー先生》こと、自民党の義家弘介議員だ。義家氏は、森喜朗が最高顧問を務める「日本教職員組合問題究明議員連盟」の幹事長でもある。

 崩されてゆく台湾との交流

一方、教科書問題に隠れる形で進むのが、与那国島への自衛隊基地配備だ。

07年6月24日には、米軍の掃海艦が、与那国島の祖納港へ入港。この入港時に、「与那国島は、台湾有事の際には掃海拠点になり得る」として、当時の在沖縄総領事ケビン・メアが、@同港の水深を計測し、A与那国空港の滑走路が2000mあることなどを、ホワイトハウスに同年6月27日付けで、極秘扱いで報告していたのである(「ウィキリークス」が暴露)。

 疑問の多い誘致要請署名

08年9月5日には、与那国防衛協会が、町長・議会に514名の島民の誘致要請署名を提出。ある島民の言葉を借りれば、「寝耳に水」「突如とした出来事」だったという。

この署名の有効性については、多くの島民から疑問が出されている。崎元町議や何人かの島民の証言では、ある人物が、代理署名として、親族などの署名を多数行っていたという。崎元氏はその当時、議員になる前だったが、翌日の新聞報道で署名活動の存在を知ったそうだ。つまり、署名活動については、事前に存在さえ知らされていなかった訳だ。

今年6月の与那国町議会で、「基地誘致反対」を掲げる、崎元俊男町議と田里千代基町議が追求した。すると外間町長は、「有効性に対しては、与党議員にも見せず、私ひとりが確認した」「それ以上の説明は、プライバシーの問題もあり、言及できない」と答弁し、有効性についての調査を拒否した。

うごめくタカ派政治家  認識の甘い?与那国町長

08年9月19日、与那国町議会は、この誘致要請署名をテコに「自衛隊基地誘致決議」を可決する。ここから基地誘致は一気に加速した。

09年6月30日には、外間守吉町長が、防衛省に対して陸自基地配備を要請。7月8日には、当時の浜田防衛大臣が与那国島を視察訪問。石垣市で保守市長中山氏当選から間もない昨年3月26日には、当時の北沢防衛大臣が与那国を訪問している。

(以下一部全文は1425号を入手ください。購読申込・問合せはこちらまで。)

自立した島か  戦争屋の島か

日本最西端の島=八重山・与那国島が、大きく揺らいでいる。戦争屋たちは今回、巧妙な仕掛けで突いてきた。「つくる」会系教科書採択にあっては、法の隙間を、基地建設では、与那国島や宮古島などの経済苦境を利用する。これらが既成事実化すれば、沖縄のさらなる植民地化や辺野古の基地建設とも繋がる。

「自衛隊基地と米軍基地問題は一体」との認識に立ち、与那国島への自衛隊基地を、「つくる」会系の教科書採択を阻止し続けることができるか否か?─我々に、そして沖縄県民に、いま強く突きつけられている。

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