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かけがえのないもの

夫の魂が宿る飯舘村

飯野町小林麻里

わが村、飯舘村が放射能に汚染され、計画的避難地域に指定されたと知った時、「村が荒れ果ててしまう」と、泣きながら村の友人に電話をしました。するとその友人は「数年間は田んぼも畑もできないから、農薬も化学肥料も使わない。それは、人間の目から見れば荒れてしまうことだけど、自然から見れば美しくなるということじゃない?」と言いました。私は目から鱗が落ちる思いがして、米作りができない田んぼに水を入れて「田んぼビオトープ」にして、生き物たちの楽園にしようと思い立ちました。そうしたら、気持ちが随分楽になりました。

私は、2004年に名古屋から飯舘村に移住し、農的暮らしを始めました。2001年に東京から移住し、自然卵養鶏を営んでいた夫=彰夫さんとの結婚がきっかけでした。4年前、彰夫さんを癌で喪ってからは、移住仲間に助けてもらいながら、森に囲まれた家で暮らしてきました。

彰夫さんは最期の9日間をこの家で過ごし、旅立って逝ったのですが、病院から戻り「ここは天国だ」と何回も呟き、末期癌であったにもかかわらず、痛みで苦しむことなく穏やかな日々を送ることができました。たとえ放射能に汚染されていても、ここは私にとって、彰夫さんの魂が宿る「天国」であることに変わりはないのです。もしも、大切なこの場所からこんな絶望的な気持ちのままで離れてしまったら、私の心は壊れてしまうだろうと思いました。喪失の苦しみの中、私はこの場所の自然の美しさに癒され、厳しさに鍛えられて、なんとか壊れてしまうことなく生き抜いてきました。

そんな中で原発事故が起こりました。こんな原発事故なんかによってこの場所を追い出され、心が壊れてしまって堪るものか、と思いました。低線量の放射能によっても数十年後に癌のリスクが高まるということは事実なのかもしれませんが、私にとっては、放射能のリスクよりも、かけがえないものを喪うことで心が壊れてしまうことの方がよほど恐ろしいのです。心が壊れてしまったら、いくら身体が健康でも、人は生きていくことができなくなってしまうからです。

私の地区は村の中でも線量が高い方(現在、公式発表では飯舘村は2.5μSV/h前後だが、自宅玄関前で8μSV/h)なので、避難解除が遅れる可能性が高いのですが、村の一部でも避難解除になったら帰って来たいと思っています。

放射能への恐怖でも東電や国への怒りでもなく…

「田んぼビオトープ」には、放射能で汚染されているにもかかわらず、カエルもトンボも蛍もみんな、みんな今年も生まれて来てくれて、鴨の家族が暮らし、アオサギやカワセミがやってきています。小さな生き物たちは、逃げもせず、戦いもせず、あきらめもせずに、いつもと変わらない日々を生きています。私は毎週末、飯舘のわが家に帰り、放射能汚染を超えるいのちの世界に触れることで、深く癒され、励まされ、生きる力をいただいています。私の目の前の愛する我が家の風景から、放射能は消えてしまいました。存在するけど存在しないのです。

(以下の全文は1423号を入手ください。購読申込・問合せはこちらまで。)

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