「(君が代斉唱時に)起立しない教員は意地でも辞めさせる」「教育とは2万%強制です」─橋下徹大阪府知事の最近の発言だ。「大阪都構想」と並んで、いま橋下がキャンペーンに力を入れているのが教育問題だ。
橋下知事は、「公立・私立間の競争を促進する」との趣旨で今年4月から年収610万円未満の世帯の私立高校授業料を無償化した。さらに府内の府立校10校を「進学指導特色校」に指定してエリート育成コースを設立。また、6月には公立学校の教職員に君が代起立斉唱を義務づける条例を提案し、強行可決した。
橋下が代表を務める地域政党「大阪維新の会」は、今春の統一地方選挙での躍進を背景に、大阪府・市議会の9月議会で「教育基本条例案」「職員基本条例案」の2つを提案する予定だ。マスコミ報道によれば、教育基本条例案では「政治が適切に教育行政における役割を果たす」「『民』主体の社会とするために公務員制度改革をおこなう」ことを目標に、《目標を達成しない教育委員の罷免》《府立高の正副校長の任期付き採用(5年)に切り替え》《学区の撤廃》《3年連続で定員を下回った府立高の統廃合》などを打ち出している。
また、職員基本条例案では、《職務命令違反した職員・余剰人員の分限免職》などが謳われている。
条例案における橋下知事・維新の会の狙いは、いったい何なのか? 「『日の丸・君が代』強制反対ホットライン大阪」事務局の寺本勉さんに話を聞いた。 (編集部・一ノ瀬)
──「教育基本条例案」の内容について、どう分析されていますか?
寺本…それが、私たちもマスコミで報道されている以上のことは分からないのです。私は「大阪教育合同労働組合」(以下、教育合同)の執行委員でもあるのですが、先日の大阪府教育委員会との折衝の場で、条例案について問いただしたところ、府教委は「何も聞いていない」と言うだけでした。
おそらく橋下知事は、彼一流のやり方でマスコミに情報を小出しにしながら、世間の反応を探っているのでしょう。
──この条例案は、橋下知事のこれまでの主張を形にしたものですが、どういった経緯で出てきたのでしょうか?
寺本…知事は、今年の5月府議会で「日の丸・君が代」強制条例を提案し、卒・入学式などで「君が代」斉唱の際、教職員の起立・斉唱を義務化しようと画策しました。しかし、その強権的な内容に対して、公明、自民、民主、共産の府議会4会派からも、また全国からも疑問や反対の声が上がりました。
結局、この条例は成立しましたが、その上で9月府議会において、不起立教員を「職務命令違反」で処分(3回不起立で免職)できるように処分条例を提案すると明言していました。しかし、これにはマスコミなどからも批判の声が上がったため、「これは君が代問題ではない。教員は職務命令を無視できるのか?の問題」と、論点をマネジメントや公務員制度改革の問題とすり替えた上で、処分ルール化をも含む今回の条例案を出してきたのです。
──これまで大阪府では、「日の丸・君が代」関連の処分は行われてきたのですか?
寺本…橋下知事が就任したのは08年2月ですが、それまで、「君が代」不起立で処分されたことはありませんでした。流れが変わったのは、08年3月の大阪府門真市立3中の卒業式での「君が代」不起立です。3年担任全員と卒業生の1名をのぞく全員が「君が代」斉唱時に着席したのですが、それが産経新聞で大々的に報道され、右翼のバッシングを招いたのは、記憶に新しいと思います。翌年には、3年担任に文書訓告と厳重注意の処分が出されました。その後は、不起立教職員への事情聴取、職務命令が出されても不起立であった教員への戒告処分などが続きました。
今年春、大阪府北部の府立高で、2人の教員が入学式での「君が代」不起立で戒告処分を受けましたが、それを報道する記事の中で、府内の府立高校では、数十人の不起立者がいるとの記事を読んだ橋下知事が激怒したそうです。
橋下知事は、2008年に高校生に対して「国歌斉唱時に立って歌うのは当然」と発言したことがあります。ゆくゆくは生徒に対しても「君が代は起立して大きな声で歌うように」といった「指導」を考えているのでしょうが、まずは生徒を指導する立場の教職員から従わせていくつもりなのでしょう。
「『日の丸・君が代』強制反対ホットライン大阪」 事務局 寺本 勉さん
──教育条例案には、「知事・市長が設定した目標を達成しなかった教育委員を罷免できる」とありますね。
寺本…教育委員の中にも競争原理・勤務評定を持ち込もう、ということです。これまでも教育委員会の独立・中立性なんて無いに等しかったのですが、それでも愛知県犬山市の教育委員会が全国学力テストへの不参加の方針を出したように、それなりに「教育の独立」を守ることは、まだ可能でした。条例案では、そうした知事の方針に逆らう教育委員はクビにできるわけです。
また知事は、設定した目標に向けて、教委が適切な人事・管理権を行使しなかった場合には、府教委に対して是正を行うよう要請する、と言っています。つまり、教委が自分の意に従わなかった場合、直接介入できることになります。
この2点によって、知事は教委を完全支配できるようになるのです。
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──「校長の任期を定め、公募する」とありますが、どういう意図があるのですか?
──橋下は教育現場に新自由主義を持ち込もうとしていますが、この条例案を見て、大阪の教育現場はどうなると予想されますか?
寺本さんに話を聞いた8月18日の翌週の22日、「大阪維新の会」は、大阪府・市議会の9月議会に提出する予定の「教育基本条例案」「職員基本条例案」の概要を発表した。
その中には、しっかりと《教育行政における政治の主導》と《職務命令違反した職員や余剰人員の分限免職》が柱に据えられている。寺本さんが予想する、@公教育のエリート養成への特化、A教職員への管理強化と人員削減のシナリオ、がより現実味を増してきたと言える。
府知事選とのW選挙になると予想されている今年11月の大阪市長選(13日告示、27日投開票)では、「大阪都構想」と合わせ、この2条例案も大きな争点となるだろう。
「『日の丸・君が代』強制反対ホットライン大阪」では、9月24日(土)に「『君が代』強制大阪府条例はいらん! 全国集会」を開催する(6面「情報ひろば」参照)。橋下の「懲戒処分」を使っての教育現場への介入に反対する動きを、大きなものにしていこう。
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