「人道的介入」というウソ
──インタビュー N・チョムスキー
英・仏・米によるリビア軍事介入
リビアの反乱について、左派の評価は二分されている。ベネズエラのチャベス大統領は、「欧米がリビアの石油を盗もうとしている」として、カダフィ支持を打ち出した。アメリカの社会学者で世界システム論の重鎮=ウォーラーステインは、「カダフィは反帝運動の英雄から、欧米の反テロ戦争に協力する番犬に変質したので、欧米政権のカダフィ政権非難はゼスチュアだけだ」と言ったが、この見解は外れた。
サミール・アミンは、エジプトの反乱を構成した社会層を「若者、ラジカル左翼、中産階級民主主義者、イスラム主義者」と分析したが、リビアの場合はどうだろう。まず、反乱大衆が王政の頃の国旗を掲げていたことをもって、反動派と帝国主義の連携という見方があるが、旧国旗はカダフィ政権否定のシンボルにすぎないだろう。いずれにせよ、リビアの事態は、チュニジアとエジプトで始まった民主化運動の流れに位置し、雑多な人々の想いの総和としての反乱であることは明らかだ。ただ、リビアの最下層に位置するブラック・アフリカ人が反乱に加わっておらず、民主的人民革命とは言い難い面がある。
空軍を持つ政権側の反撃のために劣勢に立たされた反乱勢力は、国際社会に支援を求めた。これに対し、スペイン内乱のときのように、国際人民社会が義勇軍派遣などという形で応えていたら、そのまま民主革命継続であり続けたであろうが、世界の中心部国家が、国連という隠れ蓑を使って、軍事介入に乗り出したために、事が複雑化し始めた。ちなみに彼らは、サウジやバーレーンには武力干渉決議をしていない。
国連決議1973号は、「飛行禁止区域の設定」に限定する軍事介入だが、米国の国連支配の実態を本に書いたフィリップ・ベニスは、この国連決議を「リビアに対する国連の戦争宣言」だと言っている。彼は、外国軍介入によって、国が政府側西部と反乱側の東部に分断され、戦争状態が膠着して長期化し、無用に多数のリビア人民の死傷者を増やすことになるのではないかと危惧している。油田は東部に偏っていることを思うと、欧米は東部と西部を別国家にするつもりかもしれない。しかし見逃せないのは、国連決議には傲慢なレイシズムが感じられることだ。リビアの主権と独立を侵さないで、民主化を求める民衆の闘いに連帯する方法を見つけるべきだろう。 (編集部・脇浜)
石油支配が真の目的
Q:米国の対外政策一般の動機は何か? 中東とアラブ世界に関してはどうか? リビアに関する当面の政策目的は?
チョムスキー:その質問には、逆に米国の動機にならないものは何か? という問いから入るとよいだろう。専門的国際関係論に書かれているものは、真の目的ではない。彼らは軍事介入の動機を「人道支援」というが、それは何も説明していない。ヒトラーは、人種紛争を止めるためにチェコスロバキアに進軍したと言ったし、日本帝国主義は、中国住民を山賊から守ると言って、中国大陸を荒らした。
この嘘は、簡単なテストで見抜ける。2006年、イスラエル軍によるレバノン侵攻の時、米国は「飛行禁止空域」を提案したか?と問えばよい。
米国対外政策の本当の動機は、第2次世界大戦中に行った高度な政策研究から大きくは変わっていない。ルーズベルト大統領は、戦後世界で「米国のヘゲモニーを樹立すること」を目標に定めた。これが対外政策の基本である。
そのうえで中東に関しては、石油が主な動機である。例えば、イラクだ。米国の敗北が隠せなくなった段階になって、以前の美辞麗句に代わって本当の政策目的が表に出てきた。
2007年11月、ホワイトハウスは、「イラクは米軍にあらゆる便宜を図り、米国企業の投資を特恵扱いすべきだ」と宣言した。また、イラク人の抵抗に直面して、米軍駐留の恒久化や米国の原油支配を制限する法律を制定せざるを得なくなったが、大統領は「それを無視する」と議会に通告した。
石油産出国において米国は、忠実な独裁者にはフリーハンドを与えた。サウジやクウェートの独裁者が民主化要求を暴力で抑圧しても、バーレーンの民衆運動をサウジが軍を派遣して弾圧しても、米は何も言わなかった。
一方、石油資源のない国に関しては、「可能な限り忠実な独裁者を庇うが、ある時点を越えると乗り換えて、民主主義と人権の警鐘を鳴らし、残っている使えそうな要素を救う」という一般的戦略が適用される。