[社会] 原発事故 処理現場は困難が山積み
楽観的すぎる東電の「福島原発安定化ロードマップ」
4月18日、東京電力は、福島第1原発事故の収束に向けた道筋を発表した。3〜6ヵ月で、冷却システムを作り上げ、9ヵ月後を目処に、原子炉の安定的管理を目指すという。この安定化ロードマップについて、小出裕章さん(京都大学原子炉実験所助教)に話を聞いた。
建屋内は無論、原発敷地内も高い放射能に汚染されており、人間が作業できる環境かどうかもわからない。圧力容器に穴が開き、これをどう塞ぐかも未解決。高濃度汚染水が今も流れ出し、汚染水の処理も目処が立っていないという、八方塞がり状態だと指摘する。
インタビューの最後に「この期に及んで、4割の人が未だに『原子力を必要と考える』という世論調査には、絶望的な気分になる」という小出さんのつぶやきが心に突き刺さった。(文責・編集部)
数分しか作業できない汚染現場
編集部…東京電力が発表した今後の工程表を、どうお考えですか。彼らは、「3カ月ほどで安定させられる」と言っていますが。
小出…成功して欲しいと願ってはいますが、非常に楽観的な計画です。
原子炉での作業は、本当に大変な作業です。炉心はほとんど崩壊してますし、炉心を入れておくための圧力容器も、それらを包む格納容器も、壊れています。ですから、もう正常な状態で冷やすことはできないのです。
安定的に冷やせる状況を取り戻そうとすると、新しい冷却回路のようなものを一から築きあげなければなりません。
しかし、既に大量の放射能が撒き散らされてしまっていますから、そうした作業は大変な被ばく環境の中でやらなければなりません。考えただけで、気が重くなる作業です。
これを東京電力は、「3カ月でやる」と言っていますが、これまでも彼らの見通しは非常に甘かったですから、困難は山積みだと思います
編…大変な被ばく環境の中での作業というのは、具体的にどういうことですか?
小出…作業現場は、放射能汚染で、1人につき数分しか居られないような、過酷な環境です。しかも、電源の復旧やポンプを動かす等という作業は、誰にでもできるものではなく、専門技術が必要になります。
しかし、そんな技術者たちの多くは、既に被ばく量の限界に達して、倒れてしまっています。これから先、そんな作業ができる人たちを確保できるのか、疑問です。
もう一つは、装置の問題です。東京電力は格納容器の中に水を満たすと言っていますが、そもそも格納容器には穴が開いています。特に2号機は、サプレッションチェンバ(圧力抑制室)に穴が開いているので、水を入れても穴から漏れて、貯まりません。
穴の位置も大きさもまだ判っていませんので、それを確かめるために中に入るだけでも決死の作業です。そして、それをグラウト(空洞などを埋めるために注入する流動性のセメント)で塞ぐ計画ですが、可能かどうかもわかりません。
これは2号機の話ですが、1号機と3号機も同様に壊れています。だから、水没させようとしても非常に難しいのです。
それに、格納容器は元々水を満たすことができる構造になっていませんから。無理に水を入れると、どこかが壊れる可能性もあります。
漏れ続ける汚染水の行方
編…「壊れる」というのは、爆発の危険もあるということでしょうか。
小出…爆発はしませんが、2号機はタービン建屋やトレンチ、ピット等も水浸しになっています。トレンチやピットはコンクリート製で、そもそも水を漏らさないようにする構造にはなっていませんので、汚染された水がさらに漏れ出すことになります。
今後の余震で、さらに壊れる可能性も当然あります。これまでの地震で壊れている部分もあるでしょうし、これからも余震のたびに壊れていくでしょう。
編…東電が言っている「放射能を閉じ込める」というのは、事実上不可能なのでしょうか?
小出…不可能だからこそ、水が流出して、海が汚れていっているのです。格納容器に穴が開いている状態で水を注入すれば、外に漏れ出すのは当たり前です。それがタービン建屋、あるいはトレンチに溜まっているのです。この状況は、汚染水を別の場所に移さない限りは改善しません。しかし、移そうにも移す場所がありません。
ようやく「復水器に660トン移した」と発表されましたが、それもすぐに一杯になります。それを今度は、廃液の処理建屋の方に移さなければならないのですが、そこにも1〜2万トンしか入りません。敷地内の汚染水は6万トンあるにもかかわらず、です。仮タンクを作って、何処かに移さなければならないので、八方塞がりの状況です。