[海外] イスラエル/ムバラク退陣に沸くアラブ人たち ムバラク後に不安を抱くユダヤ人たち
──ガリコ 美恵子
堪忍袋の緒が切れたエジプト民衆
チュニジアの革命から始まったエジプト民衆蜂起。堪忍袋の緒が切れたのだ。
毎日テレビで流れるデモの様子に、私はうっとりしていた。「ムバラクが退陣した」というニュースが入った時は、嬉しくて飛び上がり、拍手して奇声を上げた。イスラエルに住んでいるアラブ人たちは皆、夜通しで祝った。世界最高と言えるほどの画期的なニュースに、ガザ地区や西岸地区に住むパレスチナ人も、イスラエル国内に住むパレスチナ人(アラブ・イスラエリー48と呼ばれる)も、テレビニュースを前に飛び上がって喜んだ。
では、イスラエルに住むユダヤ人たちの反応は?というと、約半数はあまり気にかけていなかった。気にかけていないけれど、一応経過は知っていて、『エジプト人は長年ムバラクのために苦しんできた。これはもっと前に起こっていてもおかしくなかった。これで民主政権が生まれる可能性もでてきた。ただ、ムバラクはイスラエルと友好関係にあったから、これからどうなるのか心配だ』と、顔をしかめて言う人が非常に多かった。
その他に『もしこれがパレスチナに飛び火して、パレスチナ人たちが各地で暴動を起こしたとしても、俺たちには世界一強い軍隊がある。一発で奴等をやっつけることができる』という者も多かった。これは、残念ながら事実だ。
パレスチナ人たちの反応は、当然のことながら喜びに溢れていた。『革命だ。素晴らしい。長い年月苦しめられてきたエジプト人たちの怒りが爆発し、彼らは勝ち抜いた』と、同胞たちのやってのけた革命を心から祝う声が、どこからも聞こえてきた。
その次は、羨望の声だった。『彼らにはできた。でも俺たちには無理だ。同じことを俺たちがやったら、1日で全滅する』─皆が口を揃えて言っていた。『俺たちは監視されている。何かやろうとすれば、まず計画は潰される。仮に大型デモをやったとする。俺たちは1日で皆殺しになるよ』。
パレスチナではありえない
パレスチナ自治政府が常にイスラエル側の手下となって、イスラエル軍が簡単に入っていけないA地区での民衆の動きを監視している。パレスチナ自治政府軍の手に負えなくなれば、イスラエル軍が国際法を犯し、出撃する用意が常時整っている。
エルサレムの旧市街に住むある男性が、ひそひそ声で私に言った。『いつか俺たちも革命に成功する日がくればいい。あと100年くらい。インシャアラ(アラビア語で「神の思し召しのままに」の意)』。
イスラエルの新聞も、ムバラクがいなくなることで危機を感じている、といった意味の記事を発表した。エルサレムの旧市街では、アラブ人を通常よりきつく取り締まり、ラマーラで行われたエジプトの民衆蜂起に対する連帯デモでは、数人がパレスチナ自治政府軍により逮捕された。
その後、アメリカが国連の入植地凍結案を拒否したことに反対するデモがラマーラで行われたが、パレスチナ自治政府軍(自治政府の担うファタハはイスラエルの言いなりだ)により、10人が逮捕され、ケガ人も数人でた。
パレスチナ人たちは重々に知っている。イスラエルの息のかかったパレスチナで、イスラエルに対して手も足もでないことを。