人民新聞オンライン

タイトル 人民新聞ロゴ 最新版 1部150円 購読料半年間3,000円 郵便振替口座 00950-4-88555┃購読申込・問合せはこちらまで┃人民新聞社┃TEL (06) 6572-9440 FAX (06) 6572-9441┃Mailto:people@jimmin.com
反貧困社会編集一言政治海外情報投書コラムサイトについてリンク過去記事
更新日:2011/06/01(水)

[社会] 震災と原子力災害
──矢部史郎

冷却機能喪失の第一報

震災のあった3月11日、私は新宿にいました。これまで経験したことのない大きく長い揺れが続き、地下鉄も電車も不通、携帯電話もつながらなくなりました。

私は娘のいる東十条の家に、自転車で向かいました。新宿から東十条までは明治通りをまっすぐ北上して、自転車で50分ほどの距離です。明治通りは、人と自動車で溢れていました。新宿・池袋から埼玉県方面に向かって黙々と歩く人が、歩道をびっしりと埋めていました。

東十条に着くと、娘はきゃっきゃとはしゃいでいて、家もまったく被害がなかった。私はひとまずほっとして、テレビをつけました。気分はすでに震災見物というか、東京という大都市が破壊される派手な画面を期待してテレビをつけたわけですが、30分ほどで浮かれ気分は吹き飛びました。

NHKのニュースが、「福島第一原発の1号機が冷却機能を喪失」と報じたのです。

これはきっと大変なことになるだろう、と思いました。私は原子力技術については素人ですが、たとえ素人でも、「冷却機能喪失」ということの重大さはわかります。

私はうろたえて、近所の薬局に行きました。ここで、万一のときに子供に飲ませるためのヨウ素剤を買っておこうと思ったのですが、ヨウ素剤というのは市販されていないんですね。頭を抱えて家に戻り、なにかヨウ素っぽいものはないかと探すと、ヨウ素入りのうがい薬がありました。再び薬局に行って、ヨウ素入りうがい薬でも代用になるかと聞くと、うがい薬は内服用じゃないから飲んじゃダメだと言う。

もう目の前が真っ暗です。もしも交通機関が麻痺したままで、放射性物質が東京に飛散したら、アウトです。翌日、急いで娘を連れて、愛知県の実家に避難しました。

その日から私の実家は、「集団疎開」の合宿所になりました。家族と友人、友人の子供たちを含めて、多いときは10名ほどが合宿しています。

テレビでは、原子炉施設が爆発する様子を見せられ、「専門家」たちの要領を得ない解説を聞かされています。いつ終わるのかわからない途方もない災害に、大人たちはほとんど思考停止状態です。ここに追い討ちをかけるのが、政府発表を充分に検証せず、「避難の必要はない」と言う人たちの存在です。こういう人たちは、テレビに出てくる「専門家」を信じているか、あるいは、「専門家」の判断に従っていれば自分が免責されると考えているのか、いずれにしろ無責任な人間だと思います。こういういかにも「日本人的」な態度を見せられると、この社会の急速な腐敗を見る思いがして、ますます落ち込みます。

合宿所の子供たちは、これまで経験したことのない共同生活にはしゃいでいます。子供たちが元気であることが、いまは唯一の救いです。ただ、「原子力パンチ」だとか「原子力キック」だとか叫んで遊ぶ姿を見ると、親としては複雑な心境になります。

原発災害 3つのポイント

拙著『原子力都市』(以文社)は2010年に出したエッセーですが、これは直近の具体的な原子力問題を扱ったというよりも、「戦後」(第二次大戦後)という時代をどう考えるかという比較的長いスパンで、現代日本社会の総括的展望を出していこうという本でした。問題にしたかったのは、生活環境の物質的側面ではなくて、原子力政策で動く都市の社会的側面、現代社会の「原子力的性格」を巨視的にとらえていこうという試みです。そうした視点に立つことで、日本の地理、日本の都市論を再構成できないかと考えたのです。

この本で考えたことから、現在の福島第一原発の原子力災害について言えることは、3つあると思います。

問題の第一は、「柏崎」の節で述べたことですが、原子力都市では「無関心が蔓延する」ということです。原発の立地されている地域はもちろんですが、いま首都圏で起きているのは、放射線濃度や今後の被害の予測に鈍感になることです。原子力施設の事故は日常化していて、放射性物質がちょっと漏れたぐらいのことをいちいち気にしていたら暮らしていけないわけですから、私たちは重大な出来事や変化に馴れてしまうのです。

無関心であり続ければ、日常生活はなんとかやっていける。差異(ディファレンス)に対する感受性が衰弱し、無関心(インディファレンス)が蔓延する。そのことで、女性や子供など社会的弱者に対する配慮を失っていくのです。

問題の第二は、国家と資本の活動が人間の労働に依存する時代(「鉄の時代」)を終えたということです。労働者階級との攻防・交渉にかわって、一方的な管理(コントロール)の技術に重心が移ってしまう。そこで前面に押し出されるのは、嘘、秘密、印象操作の技術です。

いま私は首都圏から避難していますが、それは、政府と東京電力の報告が信用できないからです。重大な出来事を数日後に発表するということをやりかねないし、すでにやっている。そして正当な根拠に基づいた予測を、「デマ」だとか「風評」だとか言って退けるわけです。原子力災害の被災地となった東京は、白を黒と言うことを平気でやるようになっている。「放射線は少量ならば健康に良い」などという嘘が、公共の電波で放送されているのです。

続きは本紙 【月3回発行】 にて。購読方法はこちらです。
[HOME]>[ 社会 ]


人民新聞社 本社 〒552-0023 大阪市港区港晴3-3-18 2F
TEL (06) 6572-9440 FAX (06) 6572-9441 Mailto:people@jimmin.com
Copyright Jimmin Shimbun. All Rights Reserved.