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[社会] 冷却して《炉心を溶かさない》─その一点が勝負！ それでも情報隠す政府・東京電力
小出 裕章さん（京都大学 原子炉実験所）緊急インタビュー
福島原発で起こっている事象をあらためて説明する必要はないだろう。ブリュッセルのEUエネルギー委員会のオッティンガー委員長が、日本の核事故の状況を「破局的」「制御不能」と評価する一方で、「状況は落ち着いている」などと何度も繰り返す政府・東電の情報は、さながら大本営発表である。
福島原発で本当は何が進行し、どうなる可能性があるのか？ 15日、京都大学原子炉実験所の小出裕章さんに緊急インタビューした。次号は、小林圭二さんのインタビューをお届けする。（文責・編集部）
チェルノブイリ事故に近づいている福島原発
編集部…現状をどのように評価していますか？
小出…スリーマイル島事故を越える深刻さです。スリーマイル原発は、格納容器は壊れませんでしたし、人為ミスで注水が止まり、炉心が溶解したものの、電源が確保されていたので、最後はポンプを動かして、冷却して止めることができました。原発の炉心溶融は、冷却さえできれば抑え込めるのです。
福島原発の現状は、ポンプが動かず、消防のポンプ車が唯一の頼りになっているうえに、格納容器も一部破壊され、とても危険な状態です。
編集部…2号機の爆発で2号機に関心が向いているが、建て屋が爆発した1・3号機は？
小出…1～3号機は、2号機と同程度に危険な状態にあると考えられます。2号機は、当初タービン駆動のポンプが動いて冷却していたのですが、動かなくなり、消防用ポンプで海水を送り込まねばならなくなりました。冷却システムが全く働いていないという点で同じ条件ですから、とても危険な状態です。
編集部…今後の展開は？
小出…炉心がどれ程溶けるか？の1点にかかっています。ただ、15日の段階では、燃料棒が大量に溶けている状態ではないと思います。とにかく海水でも泥水でもいいからどんどん注入し、燃料棒の熔解を防がねばなりません。これに失敗すると、既に格納容器には穴が開いていますから、そこから放射能がどんどん外気に放出されることになります。水をかけ続けて、炉心を溶かさないという1点が勝負です。
編集部…「炉心溶融が比較的小規模」という根拠は？
小出…敷地内の放射能レベルは、8ミリシーベルト程度（14日現在）で、それほど高くないからです。大規模に炉心が溶融していれば、その数百倍に達するはずです。
説明します。広島原発は、800グラムのウランが爆発しました。一方、福島原発クラス（発電量＝100万kW）では、1日に3㎏のウランを燃やします。広島原爆の4発分位を毎日燃やしながら、電気を作っている装置です。1年間原発を動かすと、広島原爆約1000発分のウランを燃やしたことになります。
このため、原子炉の炉心には、死の灰を含めて原爆数千発分の放射性物質が溜まった状態にあります。
これが溶けて放射能が放出されれば、現在とは桁違いの汚染値になるはずです。チェルノブイリ事故の場合は、広島原発約800発分の死の灰が放出されました。
格納容器は既に破壊されていますから、炉心が溶けてしまえば、すぐに外気に出てきてしまいます。炉心溶解の程度によって外気の放射能値は変わりますから、現状レベルでは、それほど大きな溶解は起こっていないと推測しています。
水は、地球に存在する物質の中で最も冷却効果の高い物質ですから、とにかく水を入れ続けて、炉心溶解を止めなければなりません。
格納容器内に注入する海水にホウ素（その化合物であるホウ酸は、原子炉内の中性子を吸収する性質を持つ）を混入させることは必要です。今直面している危機は、原子炉が溶けてしまうこと、そして一度は停止させたウランの核分裂反応が再び始まってしまうかもしれないこと、の2つです。
原子炉を溶かさないためには水を供給すること、核分裂を再び始まらないようにするためには、中性子を吸収できる物質を供給しなければいけません。中性子を吸収する物資がホウ素ですから、ホウ素を混入した海水を格納容器に注入することは有効です。成功してくれることを願います。
編集部…政府や東京電力の発表は、信頼できるのか？
小出…情報の出し方が不十分で、なおかつ意図的に楽観的な情報を流しています。原子力に関しては昔からそうで、今も変わっていません。
たとえば、枝野官房長官が「人体に影響を与えない程度の放射能…」などと言いますが、そんな放射能というのはありません。すべての放射能は人体に影響を与えます。今回のような非常事態にありながら、必要な情報が出てこないので、私たち研究者も大変困りました。
「安全」は必ず破られる
編集部…地震によって原発に何が起こったのか？
小出…今回の事故を招いた最大の原因は、電源がないということです。原発は、発電施設であるにもかかわらず、外部電源がなければ動きません。特に運転停止後は、原子炉を冷やすためのポンプを回す電源が絶対必要不可欠です。
ところが、この外部電源がどうなっているのか？に関する情報が全く出ないまま、事態が推移し、後追い的説明が繰り返されています。
地震でこの外部電源がなくなり、数台あった非常用電源も、全て津波によって機能しませんでした。しかし、外部電源がなくなったとしても、電源車を持ってくれば解決するはずでした。ところが、いつまで経っても電源が確保できないまま事態が悪化していったのです。
何故だろう？と思っていたら、電源車を所内の電源に繋ぐための接続点が、水没して使えなくなっているということが、地震発生４日後に明らかにされました。こんな重要な情報さえ明らかにされていなかったのです。
このため消防車を使って海水を注入しているようですが、施設内には真水がプールされているはずです。おそらくプールも地震によって破壊されたのでしょうが、そんなことすら情報が開示されず、推測しなければならないのです。
さらに、本当に消防ポンプ車で水を注入できていれば、燃料棒が露出することはないはずです。ところが、事実としては水がなくなり、核燃料棒が露出しています。この理由が不明です。この情報も、説明もなされていません。本当に知りたい情報が報されないまま、現在に至っています。
編集部…福島第１原発２号炉・格納容器付近の爆発の理由は？
小出…圧力抑制室の爆発は、水素爆発だと思います。圧力抑制室は、格納容器と一体構造なので本来窒素が充填されており、爆発に必要な酸素はないはずでした。ですから、推測でしかありませんが、圧力抑制室に微少な穴が開いて、水素が漏れ出て、酸素と反応して爆発した可能性はあります。
編集部…格納容器での爆発は、重大な一線を越えたということでしょうか？
小出…そう言わざるを得ません。放射性物質を閉じ込めるのが格納容器です。これがある限りは、圧力容器の圧力を下げるために中の水蒸気を放出したとしても、フィルターを通すなど、人間がコントロールし、手を加える余地があります。
しかし、格納容器が壊れた今となっては、人間が手を加える余地が一切なくなり、何の防護措置も採ることができない状態になっています。
編集部…20㎞の避難勧告の範囲が設定されていますが、適性なのでしょうか？
小出…急性死を防ぐという意味では、20㎞程度でも大丈夫です。ただしその場合でも、風下に入った住民を優先的に退避させることが重要です。風下から逃げることが重要なので、気象条件も考慮しなければならず、とても複雑で困難な作業となります。ですから、早く正確な情報を提供し、準備をし、先手を打って行動しなければなりません。
ただし、事態がさらに悪化している現状においては、全く不十分です。チェルノブイリ事故の事態になれば、数百㎞の退避が必要です。