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更新日:2011/04/01(金)

[社会] 介護を知らない介護事業者
──遙矢当

大流行の小規模デイサービス

「地図では、この辺りのはずなんですよね…」。私を担当した派遣会社社員は、地図をにらんだまま足が止まってしまった。私は年末年始のアルバイトとして、今話題の小規模デイサービス(注)での勤務を選んだ。場所は、下町情緒あふれる東京都葛飾区。派遣初日なのに、「施設」の場所がわからず道に迷ってしまっていた。

「あ、ここじゃないの?」と私が見つけたその建物は、普通の一軒家から表札を外し、デイサービスの看板を掛け替えただけ。およそ介護施設とは言い難い民家であった。

玄関で待ち構えていたのは、20才代の青年。聞くと介護経験は1年程度しかなく、ヘルパー講習で介護の一通りのことを教わったものの、「わからないことの方が多い」と語った。彼は、このデイサービスを運営するIT企業にシステムエンジニアとして入社したが、社命で介護職員に転向させられたという。このIT企業は、元々大阪市内で立ち上がったベンチャー企業だったが、不景気に耐えかねて介護事業、しかも東京への進出を選んだという。彼をはじめ、主要メンバーは関西出身者だった。

「小規模デイサービス」とはいうものの、利用者は2名しかいなかった。その日に来たのは、70才代の男性一人だけ。葛飾区のデイサービスなのに、車で片道30分も走って、隣の足立区まで迎えに行くのだ。青年に「いつもこんな営業なのか?」と尋ねると、「オープンして半年経ちましたが、未だにお客さんがこれだけしか集まらないんです」と、不安な様子で答えた。

施設=家屋内には、介護に必要な設備は何も無かった。玄関口と廊下、浴室に手すりを付けたくらいで、「家庭的な雰囲気」をそのまま残していた。しかも、暖房すらないので、冷え切った室内は、高齢者の身体負担が大きい。私も寒さに耐えかね、台所のガスレンジで身体を温めたくらいだった。

利用者の男性は私に、「毎週火曜日にここに来るんだよね。毎日いろんなデイサービスに行くけど、ここはもういい、かな」とつぶやいた。男性は、軽度の認知症を発症していた。ここで私は、小規模デイサービスが、小規模ゆえに介護に必要なものを極力持たずに営業するものであることを知った。男性の楽しみは、近くの荒川の川べりを歩く散歩くらいだった。

私は、別のデイサービス2ヵ所にも出向いた。そこには、介護サービスに必要なものが何もない空間に置き去りにされた高齢者たちがいた。一代社長の未亡人、映画制作関係者、地元の大地主…。「何もこんな場所で介護を受けなくとも…」と思われる、富裕層と呼ばれる人々が通っていた。「預かってもらえるなら、それでいい」―そんなニーズが横たわっている介護サービスの状況を認めざるを得なかった。

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