[情報] ムバラク退陣を皆で祝って
日本人音楽家の「祝砲」
多くの日本人が帰国したカイロ市内で、面白い人に出会った。音楽家の堀江努さん(37歳)だ。
堀江さんは愛媛県松山市出身。武蔵野音大、ドイツのアウルスブルグ音大で、トランペットを専攻。現在は、国立カイロオペラハウスで首席トランペッターをしている。
堀江さんは、外国人ながら、国家公務員待遇で働いている。私が出会った時には政府関係機関がすべて機能停止し、彼自身の仕事の先行きも分からない状態だった。
「ノンポリ」を自称する彼は、日本大使館から邦人の安否確認の連絡係を務めていた他は、「筋トレと同じですよ」と言いながら、トランペットの基礎練習をしたり、日本語ニュースでエジプト民主化デモの成り行きを追うくらいで、外出も必需品買い出し以外は控えていた。
祝祭に花を添えた外国人によるエール
ムバラク退陣が決まった2月11日(金)。私がタハリール広場から戻って、堀江さんに人々の歓喜の表情とお祭り騒ぎになりつつある街の様相を伝えると、「振り返れば歴史に刻まれる一日となるでしょうから、外出しましょう」と、他の日本人を誘った。
「外出のための着替えにしては、少し時間がかかるなぁ」と思っていると、彼がトランペットのケースを持って現れた。
これは面白いことになる。1月28日以降、毎日、タハリール広場へ通う私は、取材よりも、その場に外国人が来てくれるだけで喜んでくれる多くの人々の顔を見たいという思いの方が強くなっていたからだ。逆を考えれば合点がいく。アメリカ軍のヘリパッド建設で昼夜を問わず闘っている現場に、はるばる外国から人が来てくれたら、うれしいに決まっている。
「いやあ。エジプト国歌しか吹けないんですよ。皆で歌えるエジプト民謡か何かもう一曲演奏できたら良かったんですが」と語る堀江さん。「どうせなら、タハリール広場で一発かましてくださいよ」とけしかけたが、ムバラク退陣を祝って広場へと続くタラート・ハルブ通りは、人や車で埋まり尽くし、お祭り騒ぎで身動きが取れない。