[政治] 格差拡大し、質の低下招く橋下「教育改革」
現場から「大阪維新」の中身を検証する
大阪府・橋下知事が率いるローカル政党「大阪維新の会」。彼らは「大阪都構想」を掲げ、62%(毎日新聞調査)、77%(読売新聞調査)と高い支持を集める橋下知事の人気を背景に、連日マスコミに取り上げられている。
しかし、橋下知事や「維新の会」が、具体的に何をしようとしているのかは、分かりにくい。橋下知事が口先で何を言っているのかではなく、私たちが労働し、生活する現場で何が起こっているか、を通じて橋下・維新の会がやろうとしていることを、シリーズで追っていきたい。
第1回目は、教育問題について。橋下は、「教育は『階層移転』の最も効果的なツール」「『ボリュームゾーン』といわれる中間層の教育を担う学校の質を高め、教育の質を向上させる」「『教育』という未来への投資こそが、犯罪発生率などの治安面、失業率などの雇用面、生活保護率、離婚率などの『大阪問題』の解決に明るい展望を切り拓く唯一の手段」と語る。
そして、具体的に進めている教育政策が、@エリート養成高校、A教職員への「評価・育成システム」、B私学助成制度の改悪だ。(編集部 一ノ瀬)
できる子に金をかける「市場主義」=「エリート養成コース」
「進学指導特色校(以下「特色校」)にどんと予算をつけます。進学指導特色校の教員には、十分な海外経験もしてもらいます。それがステータス」─橋下知事は昨年3月10日付のメールで、こう書いている。
4月から始まるこの特色校には、いわゆるエリート養成コース(府によれば「進学指導に特色を置いた専門学科」)である「文理学科」が設置される。特色校には10校で1億8878万円の予算が計上されており、この額は「他校の倍近い予算」(なかまユニオン大阪市学校教職員支部・笠松正俊さん)だという。
府の報告書は、「特色校で育てたい人物像」として、企業経営者、弁護士、政治家、プロスポーツ日本代表監督、宇宙飛行士、企業家、NPOリーダーなどをあげている。
昨年10月に出された「大阪府政だより」(350号)は、1面で「厳しい時代を生き抜く力を身につける大阪の教育」と題して、情勢を次のように分析している。「@IMD国際競争力の順位で日本は27位(=世界における日本の地位が低下)、A全国の非正規雇用者の割合は34.3%、大阪でも高校新卒の就職内定が厳しい状況にある、B将来に夢を持っている子どもたちが減少、大阪では全国平均より低い」。
なかまユニオン大阪市学校教職員支部・松田幹雄さんは、「教育を経済競争の観点から語るもの」と批判する。松田さんは、上記3つの現状分析についても、@競争を煽るばかりで、『アジアとの共生』『反差別』といった観点がない、A格差や差別の原因である非正規雇用制度を問題にしていない、B貧困などで家庭の状況が厳しい子もおり、また子どもたちの自己評価に関する調査の国際比較(※注)に見られるように、「自分が価値ある人間であると思えない」=子どもたちを自己否定に追い込んでいる教育こそが問題だ、と指摘する。
「エリート教育は、これまで私学が、中高一貫教育でやってきたことです。橋下知事はそれを公立でやるということです。関西には灘高(兵庫)や東大寺学園・西大和学園(奈良)、洛南高校(京都)など、有名進学校がありますし、生徒の奪い合いになるでしょう」(大阪で塾を主宰する小寺顕一さん)。
特色校の在校生からは、「4月から、僕たち普通の学科と違う、『特別な子』が入ってくる…」といった不安混じりの声も聞こえてくるという。
※注…1981年の総理府青少年対策本部が行った「国際比較・日本の子供と母親─国際児童年記念最終報告書」でのアメリカ、フランス、イギリス、タイ、中国の10〜15歳の子どもとの比較。また河地和子(故人・元慶応大教授)氏が2000年11月〜02年3月にかけてスウェーデン、アメリカ、中国、日本の中学3年生の子どもたちへの調査(「自立や自信に対する本調査」)の結果は、自信・自己評価に関して低い結果が報告されている。