[政治] 名古屋トリプル選挙 ポピュリスト河村圧勝 その人気の秘密とウソ
政策は役人丸投げ減税は金持ち優遇
ドラゴンズの野球帽に安っぽいジャンバーとズボン―名古屋市長選で圧勝した河村たかし氏は、名古屋弁丸出しで、「河村本人だぎゃー」と大声を張り上げる。話す内容も、小難しい政策論はなし。家業化した議員と既成政党を痛烈に批判したうえで、減税を約束。「プロの政治家のための政治ではなく、本当の市民のための政治を!」「名古屋を民主主義発祥の地にしようや!」と呼びかける。
「こんな政治家、見たことがない」。名古屋入りして最初に眼にした河村たかし氏は、強烈なインパクトがあった。見た目の格好良さや爽やかな弁舌で売り込むのではない。目線が違うのだ。「自分たちと同じ言葉、同じ目線で政治を語っている」(伊藤佳彦さん・31歳)と思わせてしまうプロの扇動家だ。名古屋市長選・愛知県知事選・議会解散を問う住民投票というトリプル選挙となった名古屋を取材した。結果はご存じのとおり河村氏の圧勝。橋下大阪府知事と首長連合を組む河村氏。同じ政治手法を駆使するポピュリストの人気の秘密とその実体を垣間見るためだ。(編集部・山田)
苦労人の庶民派
「ナマ河村や! 見て行こら」―名古屋の繁華街・三越前で河村氏が街頭演説を始めると、女子中学生ら数人が携帯カメラを向けた。「俳優・竹下恵子より有名人」とも紹介される河村氏の知名度は、極めて高い。
「ビートたけしのTVタックル」「たけし・逸見の平成教育委員会」「たかじんのそこまで言って委員会」「みのもんたの朝ズバッ!」などの政治討論番組の他にも、「クイズ$ミリオネア」などのクイズ番組など、TVメディアへの出演は多い。
衆院議員時代、赤阪にある議員宿舎への入居を拒否し、「自腹で」マンションに入居したことでメディアの注目を浴びて以来、議員特権の廃止を訴え続けてきた。
TVでも街頭でも、頑ななほどに名古屋弁でとおす。大学時代から作業着、草履ばき、名古屋弁で行動していたようで、開けっぴろげな性格とともにそのスタイルは、演出されたものではない。
方言について河村氏は、「地方の言葉を○○弁と呼ぶのは地方差別。東京語は標準語ではなく共通語。名古屋弁は名古屋ことばと言うべし」と発言。衆院議員時代、逓信委員会でNHK会長に指摘し、その後NHKは、「○○弁」をやめ、「○○ことば」と改めた。
これについて名古屋出身の河合左千夫さん(元編集部)は、「公の場で名古屋弁を使う政治家はいなかった」とした上で、「名古屋弁を使うとバカにされてきたので、名古屋人は言葉にコンプレックスがある。だから地元政治家が名古屋弁を堂々と使っているのを見ると、胸がすく思いだ」と語る。
地元民へのサービス精神も旺盛だ。「燃えよドラゴンズ!」を「名古屋の国歌」と称し、自身の選挙のテーマソングにしている。
「何かやってくれそうだ」
人気の秘密は、その主張にもある。「地方議員はボランティアであるべき」が持論で、議員報酬を廃止し、民生委員等と同じく無給とすべき、と主張する。名古屋市の議員報酬年額は約1713万円。議員の職業化を強く批判し、「議員が税金で身分保障されることに日本の民主主義が成熟しない根本原因がある」と主張。今回の市長選でも、「市議報酬半減」を争点とした。
「議員活動のためには、経費は当然必要だ。ただ、それを税金からいただくのではなく、自分で寄付金を集めるべきだ」とも語っており、阿久根町長のような乱暴な議会無用論者ではない。
さらに2010年の市長選では、「地域委員会」を提唱し実施した。地域委員会とは、小学校区を基準範囲に、住民自身が地域の問題を話し合い、解決策を探るという住民参加の仕組みだ。委員の任期は1年で、委員会は土日や夜間に小学校の体育館などを利用して開かれる。
2010年に、8学区をモデル地域として地域委員会を開始。モデル地区には人口に応じて500万〜1500万円の予算をつけた。
委員選挙の投票率が8.7%と低調だったために、批判に曝されたが、ブラジルで行われている「参加型予算」に似た制度で、橋下知事のように、地方分権を語りながら州知事に権力を集めるという発想とは違う。