[コラム] 足立正生/民衆の意志が和平の虚実を暴く
パレスチナ外交機密文書(「パレスチナ・ペーパー」)という情報リーク
「ウイキリークス」に続いて公表された『パレスチナ・ペーパー』(以下『P・P』)という暴露情報は、一部に実証性が疑われてもなお、「やはり、そうだったのか」と、民衆レベルの現実感覚に照らされて、すぐに信頼を獲得してしまう。これが暴露ジャーナリズムの真骨頂だ。
さらに言えば、今回の暴露情報は、事実関係よりも、「和平交渉」の中で、「パレスチナ自治政府指導部が何を考え、何をしていたのか」という実態が浮き彫りにされたことが重要だ。
「やはり、そうだったのか」と、民衆の受難を解決できずにきた自治政府の正体が、姿かたちを変えて表れたのだ。翻訳記事(4ページ)の最後にある匿名氏の「意見」は、パレスチナ民衆の多数意見を代表している。
今、チュニジアやエジプトでは、腐敗にまみれた強権支配に対する民衆の怒りが蜂起に結実し、国家の真髄を問う政治革命を要求している。
「失業・物価高への怒り」という生きる権利の主張に留まっているように見えるが、「民主化要求」の要には、パレスチナの同胞の苦難を救おうとしなかった自国政府への強烈な批判が底流にあり、それを正面から引き受けて共生しようとする意思がある。
アラブ世界で広がる政治革命は、そこへと向かうだろう。
アラブの民衆は、民族的な大儀である「パレスチナ解放」を一度も忘れず自覚していたし、それを蔑ろにする諸国政権とは大きく乖離しながらも、我慢し続けてきた。パレスチナを含むアラブ全域の民主化を要求するからこそ、民衆示威行動はチュニジアから即座にエジプトに連なったし、更に拡大するだろう。
同時に、そんな強権支配政権とのダーティビジネスで中東の資源と市場を食い物にしてきた米国─イスラエルの戦略同盟をはじめとする欧米諸国は、その植民地体質を変えない限り、アラブの民意に全面対峙されて身動きできなくなるだろう。
「反テロキャンペーン」の欺瞞が明らかに
パレスチナ自治政府は、「P・P」について黙殺を決め込んでいる。しかし、「交渉」を直接担当してきた官僚たちは、民衆の糾弾が報復にまで高揚する危機を察知して、「一部は真実だ」と告白し始めた。だが、そんな小手先の言い逃れ─「犯罪の極小化」を続ければ、欧米の政権や政治家と同類であるとみなされる。チュニジアやエジプト以上に、パレスチナの民衆はもっと悲憤を強めるだけである。
もちろん、受難の中で鍛えられたパレスチナ民衆の高い政治度は、新たな自治政府を作る時も、宗教理念が軸の「ハマス」一色になることも避けて、冷静に根底からの革命的変化を要求するだろう。
パレスチナ諸組織は、『P・P』の情報を軸に現在の自治政府の腐敗と売国性への批判を慎重に開始しているが、PLOやハマスをはじめとする諸政治組織を頼ることなく、全てを含めて再編する勢力、つまり第3極の政治勢力をも作り出すだろう。
米国─イスラエル、そしてアラブの諸政権が最も恐れるのは、隠れ蓑としての「和平交渉」という自己防衛策が無効になる事態だ。ハマス以上に民衆の意志を直接表現する運動が生まれ、勢いを増せば、「イスラム原理主義=テロ」という反テロキャンペーンの欺瞞が明らかにされる。「国際的な批判をかわすためだけ」の偽りの和平交渉すらできなくなり、歴史的に繰り返してきた強権発動による民衆弾圧を再び始めようとするだろう。