[反貧困] 「脱成長」に応じるわけにはいかない
──山口素明(フリーター全般労働組合執行委員)
「脱成長」時代の労使協調路線
人口減少、環境問題、少子高齢化などを背景に叫ばれる「脱成長」への呼びかけは、「成長の果実」に依拠せず生きることを訴えかける。「経営環境の変化」「客の入りが悪いので」「先の見通しがたたなくて」などなど、フリーター労組がこの間取り組んできたさまざまな労働問題において経営者が口にする渋い話を思い出す。
この呼びかけは、ある幻想を前提にしている。すなわち「成長」は、あまねく人々に恩恵を与え、その「果実」は全社会的にシェアされてきた、という幻想である。
団塊世代の旺盛な消費力、都市の成長に伴う住宅や耐久消費財への堅調な消費拡大。これらを担保として、企業は設備投資を拡大し、雇用を増やし、完全雇用を基礎とした総中流の日本型システムを作り上げた。成長は社会に広く果実を落とし、平均余命を引き上げ、購買力を引き上げた、というわけだ。
ところが、団塊世代が生産年齢人口から離れ、人口が減少し、環境問題が前景化する現状を見よ、と。
どこにももはや「成長の果実」など存在せず、配分すべき富もない。今後は「人口ボーナス」にも、あらたな消費財需要にも依拠できない。中国の富裕層向けのビジネスは可能だが、それとて国内で活性化するのは知識集約型の産業に過ぎない。モノづくりのための大規模な設備投資はできないのだから、幅広い雇用確保もできやしない。
かくして、「そこそこ耐えながらなんとかやっていくしかなくなっているじゃないか」と、囁く人々が登場した。
さて、この呼びかけに応えてどう進むべきだろうか。
労使協調の末路
ひとつは、「脱成長」の認識を共有して、「共に生きる」社会を目指すことだ。年末に202名を整理解雇した日本航空の最大労組である「JAL労働組合」が、典型的にこれを受け止めた。
第42期、JALFIOは『Make the Next! ゼロからの挑戦』 をスローガンに、…(中略)、組合員としっかり向き合った取り組みを進め、責任労組としての役割を果たしていきます。
会社は更生計画の手続き下にありますが、会社を再生させるのは他の誰でもなく、私たち自身です。JALFIO組合員が先頭に立ち、決意と覚悟、そして希望をもって、新しいJALを創りあげていこうではありませんか!(SONIC NEW WAVE No.42-008〔元旦号〕より)
キモチの悪い常套句には触れない。同労組は、経営側が求めた「賃金カット」「人員整理」に積極的に協力した上で、いっぺんのストライキすら打つことなく整理解雇を突き付けられた。にもかかわらず、同通信の新春インタビューに答えてJAL労組・石川茂一委員長は、債権者への感謝を述べている。組合員には「会社再生の決意と覚悟」を求め、誰の責任も追及しない。「脱成長」時代の労使協調路線は、このような結末を見る。単純な話だ。そこでは、使う者と使われる者、持てる者と持たざる者との対峙が隠され、責任は追及されることもない。何かを変える可能性を示唆しないから、誰も激励されることがない。