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▲セルジュ・ラトゥーシュ氏は昨年7月来日した
更新日:2011/01/25(火)

[社会] 経済成長という価値観から脱却し豊かな共愉社会を! 新たな社会展望としての「脱成長」

ラディカル民主主義としての「脱成長」

経済成長を至上価値とする資本主義の破綻が差し迫るなか、「脱成長」は、新たな社会の指針となるのだろうか? 弊紙は、仏・経済哲学者・ラトゥーシュ氏インタビューの他、「縮小社会研究会」の報告などを紹介してきたが、新たな社会展望として新年号のテーマとした。

ラトーシュ氏の著作を紹介する中野佳裕さんは、西洋近代の価値観を「発展と資源化」と要約した上で、脱成長社会を「多様な生命の尊厳・民主主義の深化」をめざす社会だと主張する。

イダヒロユキさんは、「(脱成長を)抽象的に学問的に論じても、つまらない」としたうえで、「個々人が根底から現システムに従属する生き方を問い直し、実践する」ことこそ問われると言う。

また、北野収さんには、「食料・農業・農村」をテーマに語って頂いた。脱成長社会において農業は、基幹分野だからだ。次号では、フリーターユニオン、障がい者、ベーシックインカムの各視点からの論考を掲載する。

脱成長は不可避。「経済成長」という幻想ではなく、実生活に根差した豊かさとは何か?を問い、「今・ここ」で創りだそうとする実践が求められている。(編集部)

多様性の喪失を生み出した近代

セルジュ・ラトゥーシュの初の邦訳書『経済成長なき社会発展は可能か?〈脱成長〉と〈ポスト開発〉の経済学』(作品社、2010年)が刊行され、彼の提唱する〈脱成長〉という言葉がにわかに注目されるようになってきている。ラトゥーシュの〈脱成長〉論を、2008年米国発の金融危機に対する反動であるとか、あるいは、米ソ冷戦崩壊後に世界的趨勢となった新自由主義グローバリゼーションに対する反動であると評価する読者もいることであろう。

しかし、彼の思想を貫通するテーマは、近代世界の歴史的構造が生み出した生命の意味の均質化に関するものである。このたび『人民新聞』の新年号に寄稿する機会を得られたことから、今一度、ラトゥーシュの〈脱成長〉論を巨視的に検証し、わたしたちが目指すべき「新しい社会の展望」とはどのようなものか、論じてみたい。

反比例し始めた「経済成長」と「幸福度」

英国の独立系シンクタンク「ニュー・エコノミック・ファウンデーション」が作成している「ハッピー・プラネット・インデックス」(HPI)という指標がある。この指標は、各国国民の幸福度を、@平均寿命、A国民の主観的幸福感、B環境負荷(エコロジカル・フットプリント)の三つを変数として算出するものであり、経済成長率(GNP成長率)を社会の進歩を測る物差しとしてきた従来の経済学の価値観を相対化するものである。

最新の報告書(2009年)によれば、OECD諸国のHPIの平均は、1960年から1970年の間に20%ほど低下しており、他方で同時期のエコロジカル・フットプリントは、60%も増加している。以来、この差は拡大傾向にある。

さらにこれらの諸国では、1970年代以降、GDP成長率に対してHPIが反比例に推移していることも示されている。先進国は物質的には豊かであるものの、その豊かさは国民の生活実感に対応するものではない、ということである。失業・ストレス・自殺から公害・途上国資源の独占・二酸化炭素排出まで、先進諸国の経済成長は、社会生活と自然環境の多大な犠牲の上に成立しているのである。

近代の価値観=「発展」と「資源化」を問い直す

HPIの分析は、先進諸国の現行の生活様式が維持不可能なものであることを示唆しているが、わたしたちはこの事実を、近代世界システム(ウオーラステイン)を規定する価値体系の構造的限界として、巨視的に理解する必要があるだろう。今日わたしたちの暮らす消費社会がその一部を成す近代世界システムは、15世紀末のスペイン・ポルトガル帝国によるラテンアメリカ大陸の植民地化以来数世紀にわたって形作られてきたが、わけても西洋近代が発明したいくつかの特殊な価値を基礎に成立している。

第一の価値は、「発展」(development)である。18世紀半ばから19世紀初頭にかけて起こった英国産業革命を契機に、資本主義市場経済の国民的発展を通じて社会を物質的に豊かにすることが、近代社会の目指すべき目標とされるにいたった。資本主義市場経済は元来グローバルな性質を持つものであり、「非西洋」社会もまた、植民地化、そして第二次世界大戦後の開発政策を通じて、資本主義発展の世界的構造の中に取り込まれていった。

第二の価値は、「資源」である。資本主義市場経済は、世界に存在するあらゆるものを商品生産のための資源(リソース)に変えていくことで発展していく。人間を労働力として、自然を一次資源として商品化するこの「資源化」のプロセスは、人間と自然を分離し、人間による自然の合理的管理を正当化する近代科学パラダイムの発達と不可分である。近代科学が提供する機械論的な世界観は、自然の人間への従属を強めるだけでなく、人間と自然との間の互酬性を尊重してきた非西洋・非近代社会の民衆の生活様式(例えばラテンアメリカの先住民、日本のアイヌ民族、イヌイットの生活様式)の破壊をも生み出した。資本主義市場経済の根底には多様な生命の様式を「資源」に還元する──生命の意味を均質化する──このような認識論上の暴力が働いているが、これまでわたしたちは、このような暴力を通じて達成される経済成長を「進歩」と評価してきたのである。

ところが、HPIにおいて示されているように、今日限界に直面しているように思われるのは、近代世界システムを規定するまさにこの「進歩」という価値自体である。これまで先進諸国では、経済成長こそが社会の進歩であり、貧困や格差の問題も、成長という果実を可能な限り大きくすれば是正されると考えられてきた。しかし、現実に起こっている「発展」は、国内と国際舞台の双方で格差や貧困を構造的に生み出している。しかも、1970年代以降、人間の生産・消費活動が生態系に与える負荷が飛躍的に増大しているため、現行の経済システムの論理に基づいたままで生産力の向上と富の分配を目指す従来の社会福祉政策は、かえって社会を維持不可能な状況に陥れてしまう。

この袋小路から抜け出すためには、資本主義市場経済が引き起こす社会問題と環境問題を同時に解決していくことを可能にする、新しい価値と論理に基づいた社会を創造していく必要がある。

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