[コラム] 浅野健一/釣魚島「衝突」映像流出 反中国を煽るメディアは石原知事と同類
反日デモを表層的にしか取り上げないメディア
「尖閣」問題は、日本の中国への過去の侵略責任を日本人が真の意味ではとっておらず、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の脅威と中国の軍備増強(特に海軍)を理由に、日米韓軍事同盟を強化する民主党政権(前原外相が主導)の中国敵視政策が原因で起きている。日本が米国に沖縄基地を提供し、中国を威嚇していることが主要な原因だ。東アジアは軍事的緊張下にあるのだ。
メディアは事件後の「反日デモ」を表層的に取り上げ、反中国感情を煽る中で、保安官が “決起”した。
私の講義の受講生に @海上保安官に対してどういう刑事手続きをとるべきか、A11月5日の映像流出に関するマスメディアの報道についてどう思うか―を書いてもらった。
中国人留学生はこう書いた。《流出ビデオは44分6カットのものだが、実際すべての内容が流されたかについては不明だ。船長が逮捕された映像がないなど、日本に都合が悪いシーンがない。もしかしたら、そういったシーンがあると考えられるのならば、現在流出事件に関する報道について考え直す必要がある。また、中国側は今回の事件に関して、見方は日本側とまったく違っていて、日本側だけの報道をみていると、事件についての理解は徹底的にできないと思う》─韓国人学生は、《公務員であるだけに、何らかの責任は問われるべきだろう。テレビ局によっては、「流出」が結果的にそれほど悪くないというふうに報道しているように見えた》と感想を述べた。
日本人学生の主な回答は次のようだった。
《5日の午前中のニュースで、ユーチューブにアップされた映像が本物か分からない段階なのに、本物同然のように報道しているのには疑問を持った》
《3時間ほどあるビデオのうち、44分が流出したということなので、この44分以外の映像もあるはずだ。従って、流出した映像だけが今回の事件の実態ではないことを、もっと把握すべき。また、中国船がぶつかってきた場面の映像だけを流しすぎているのではないか。国民の反中感情を無駄に煽っているようだ。保安官を英雄にしたいのだろうか。私には、流出した映像を加工して、おもしろおかしく政府を小馬鹿にしている危機感のない日本国民の方が問題だと思う。日本に対して危機感を持つ。なぜ読売テレビだけに取材をOKしたのか、あまりテレビを見なかったので詳しくは分からないが、どうしてもマスコミとイデオロギーの関係を考えてしまう》
《この流出事件は、日中の国交問題に大きく関わる問題なので、それをわかっていてなぜ流出させたかという点を、取り調べで明らかにしてほしいと思う。また、取り調べは公開されるべきだと思う。それが、日本側の中国に対する配慮になると思うし、日本は、衝突事故で何も非がないのなら、堂々とした態度でいるべきだと思う》
私は9月20日、元浅野ゼミ院生の韓景芳さん(新聞学博士)が副教授を務める華東政法大学で、「日本の犯罪報道の現在」と題して講演した。講演会は同大学学生自治会の主催で、約150人が参加した。講演後の質疑応答で、「釣魚島(尖閣諸島)について、日本メディアはどのように報道しているか。先生はどう評価するか」と質問された。私は次のように答えた。
《日本の全メディアは、その島が日本の領土だと報道している。私は、日本のメディアはなぜ中国政府が領有権を主張し、中国の人民が怒っているのかを、正確に解釈し、伝えなければならないと思う。日本政府は1972年の国交正常化の際、日本が中国でおかした過去について若者に教えていくと公約したが、靖国神社に首相が参拝した問題で、「中国はいつまで過去のことを持ち出すのか」などと反発したように、歴史認識に問題が多い。中国の人たちは、日本政府と日本人が過去の歴史について真摯な反省をしていないと疑っているので、こういう問題が起きると大きく反発するのだと思う》
私と同じころに上海交通大学へ招聘された日本の大学教授の講演が、取り消しになった。中国政府が温首相の訪日で約束した9月22日からの日本人青年1000人の上海万博招待も、キャンセルになった。私の講演も危なかったが、韓さんの尽力で予定通り行われた。中国のテレビ、新聞は日本の当局に拘束されている船長の映像を報じ、家族の悲しみを伝えていた。
上海の友人は、「中国政府が青年の万博招待をドタキャンしたのは、明らかにやりすぎた。ただ、日本は、船長の勾留を延長せずに、強制退去処分にしてほしい」と話した。中国政府は10月下旬、日本の青年を再招待した。
中国には表現の自由が全くないという言い方は、間違っている。日本のメディアも、報道の自由をきちんと行使しているかを自問したほうがいい。(終)