[コラム] 浅野健一/釣魚島「衝突」映像流出 反中国を煽るメディアは石原知事と同類
メディアファシズムの時代
釣魚島(日本名・尖閣諸島)沖で起きた海上保安庁の巡視船と中国漁船の「衝突」事件の動画サイト「ユーチューブ」へのビデオ映像流出事件で、警視庁と東京地検は15日、「自分が流出させた」と名乗り出た神戸海上保安部の男性海上保安官について、国家公務員法の守秘義務違反容疑での逮捕を見送る方針を決めた。
同日発表された共同通信などの世論調査で、80%以上の回答者が保安官の逮捕に反対している中での決定だった。この間、日本のマスメディアは、「尖閣は日本の領土」と断定して、領有権を主張する中国を横暴だと非難してきた。マスコミが創る「世論」が法手続きを左右するメディアファシズムの時代だ。
保安官は10日に名乗り出て、任意の聴取を受けていた。「sengoku38」という仮名の登録名で、4日午後9時過ぎにユーチューブに投稿された。この仮名は、おそらく「仙石さん(官房長官)はパー」と揶揄するために使ったのだろ。
この保安官は出頭の「数日」前、読売テレビに電話をかけ、元上海特派員の取材を受けている。保安官は記者にメモも渡した。近畿のテレビ関係者によると、保安官は7日の読売テレビ「たかじんのそこまで言って委員会」番組で、映像を流出した人に拍手を送りたいなどと言ったのを見て、同テレビに接触したという情報もある。保安官は勝谷誠彦氏のファンだという。勝谷氏は中国を激しく非難し、ビデオ映像を流出したことを「愛国的公開」と称して擁護し、美化している。
勝谷氏は読売テレビの情報番組に出演して、「日本がかつて戦争をしたのは中華民国であり、いまは台湾になっている。中華人民共和国は1949年にできたので、過去のことを言う資格はない」というようなことまで言っていた。
日本テレビ系は、読売テレビが撮った保安官の映像にモザイクをかけて放送している。「週刊現代」11月27日号が、実名を掲載した。
石原東京都知事は、12日の記者会見で、「やった(流出させた)人間は愛国的。売国内閣に罰する資格があるのか」と述べた。菅首相は「売国者」と言われたのだから、反論し撤回を求めるべきだ。妄言を繰り返す石原知事は辞任すべきだ。
丸山和也氏(自民)は11日の参院法務委員会で、「尖閣ビデオ」の流出について、「悪政に対する義憤に駆られた国民の一揆に相当する行為だ」と指摘した。アナクロもいいところだ。
9月7日の衝突の映像は、石垣海上保安部(沖縄県石垣市)が撮影、独自に編集した。この映像が、海保当局によって都合よく編集されている可能性が高い。少なくとも、日本側から撮った映像である。
保安官は、機関銃まで使用する司法警察員だ。保安官の行為が守秘義務違反に当たるかどうかで、堀部政男一橋大学名誉教授は早々と、機密性はないなどとして逮捕は不要と断言した。堀部教授が西山太吉記者の日米密約文書漏洩事件に関し発言したのを、聞いたことがない。外務省事務官と西山記者は、政府の虚偽証言で有罪にされ、職を失った。同事件の再審を行うべきだ。堀部教授は、「裁判員裁判が始まって犯罪報道が改善された」という戯言も言っている。
テリー伊藤氏ら、日ごろ、一般刑事事件において、刑法違反容疑で取調べを受けている市民に対し、裁判が始まる前に犯人と断定して「許すな」「極刑にせよ」などと叫ぶ連中が、「証拠隠滅、逃亡の恐れがない場合は、逮捕する必要がない」という正論を吐いているのが興味深い。「在宅のままで起訴して刑事裁判にかける」という選択肢は、もっともなことだ。「逃亡や自殺の恐れは少ない」「今後の証拠隠滅の可能性も低い」という姿勢を今後、政治ビラ入れ、公務執行妨害事件でも適用してほしい。すべての市民に、保安官に対する寛大な処遇を適用してほしい。
私は11日の講義で、受講学生に映像を見せた。中国人留学生は「日本の海上保安官たちが発している中国語の発音が聞き取りにくく、文法も間違いが多い。あの漁船は福建省の最南部の船で、漁民たちはもともと北京官話(標準語)が苦手なこともあり、理解できなかったと思う」と指摘した。
海保が中国漁船を最初に見つけた時の最初の映像がない。船長逮捕のシーンもない「漁船犯人」説を検証しようとする姿勢は、一切ない。漁船が故意に衝突してきたのは明白と言うが、映像を見る限り、そう単純ではないと思う。(続く)