[情報] 基地のない沖縄を! 民意を突きつける歴史的なチャンス
自主参加の市民
今回、私が伊波さんの選挙ボランティアとしてお世話になったのは、「沖縄の未来を拓く市民ネット」(以下、「市民ネット」)。事務所がある教育福祉会館は、那覇市内北部のモノレール沿線の住宅街の一角、興南高校の隣にある。伊波さんの選対事務所や後援会の事務所も同居している。
私が沖縄入り初日の17日、市民ネットの事務所に着いたのは、夕方。翌日から「市民ネット」の街宣車で、街中を走りまわることをメインに、お手伝いすることになった。
壁やホワイトボードには、各地で行動するスケジュール表や、伊波さんのポスターなどが貼られ、部屋には、ポスティングするビラが積み上げられている。事務作業用の長机には文房具や、資料、お菓子などが置かれてある。選挙の雰囲気が伝わってくる。
ビラのポスティングや街宣車回りを終えて、事務所に次々と戻って来る人。「明日は○時から、○○ですね」「明日は用事があるから来れないけど、また明後日来ます」。普通の市民がムリせず、自分のやれる範囲で選挙活動に参加する。「元気なおじさんがいるのが特徴です」とのこと。もちろん、女性も元気だ。毎日入れ替わり立ち替わりで、各地域でのポスティングや朝立ち行動、事務所での作業などに参加している。沖縄各地の市民ネットで、市民による自主的な選挙運動が取り組まれている。
たとえば、「市民ネットうるま」では、翌日の朝立ちで撒くビラの内容を、集まった人たちで決めたり、「立て看を作ろう」と決まれば、さっそく翌朝にはできあがっていたり、自主参加、臨機応変、即行動で大きな力を発揮しているそうだ。
力を入れているのは、「若者に伊波さんをどう浸透させるのか」ということ。前回県知事選挙(2006年11月)では、20歳代の投票率が一番低かった(47.7%)。「市民ネット」は、街頭でアピールしたり、若者向けにブログやパンフで「投票に行こう!」とアピールしている。
その日、大皿に「いなり寿司」の差し入れがあった。聞くと、辺野古から届けられたとのこと。また、やんばるの森からは毎日ペットボトルに詰められた水が届けられ、お茶やコーヒーを入れるのに使われていた。物心ともに、沖縄各地の人が支えている選挙なんだな、と感じさせられた。
基地問題の争点隠し
沖縄2日目となった18日は、市民ネットの街宣車の助手席に乗り込み、西原町(那覇市の北東部に隣接)を回った。
スピーカーから流すのは、琉球民謡『ヒヤミカチ節』。この曲は、今年甲子園で優勝した興南高校の応援用の演奏曲としても知られ、とてもノリのいい曲だ。この曲のサビ(ハヤシ)「ヒヤヒヤヒヤヒヤヒヤ ヒヤミカチウキリ」(ヒヤミカチ…「エイ!と気合いを入れる」の意)の部分を、「イハ、イハ、イハ洋一…」と変えたもの。このBGMは、「市民ネット」周辺でも評判がよく、この曲をCDラジカセで流しながらビラのポスティングに回る人もいた。「このラジカセ、重いけど、この曲は元気が出るのよ」。
道行くほとんどの人が注目してくれる。中には踊り出す人もいる。これに伊波さん紹介の短いスピーチをかぶせたもの。これをボリュームに気を使いながら、走って回る。
ただ、私が回った日は、風も強く肌寒い日だったので、あまり人通りがなかった。激励の声をかけてくれる人、ニッコリ笑って手を振ってくれる人も多かったものの、私の見る限り、まだ選挙中盤のせいか、道行く人も反応が薄い、といった印象。
西原町は、伊波さんが優勢とされる場所だけあって、あちこちに伊波さんのポスター・のぼりが見られる。それに比べると、街中で見る現職・仲井眞氏、幸福実現党・金城氏のそれは少なかった。ただし、繁華街や人通りの多い場所では、立派な仲井眞氏のポスターが目立つところに貼られていた
ちなみに、伊波さんのイメージカラーは黄色。沖縄における革新・平和の陣営が使ってきた、歴史あるカラーだ(自民党は青色)。また、今年4月の県民大会でもイメージカラーに使われた色だ。ところが、仲井眞陣営は選挙直前になってイメージカラーを黄色に決定。市民からは「判りにくい」「仲井眞さんはずるい」と批判の声が多かった。
西原町のショッピングセンター付近を回っていると、1人の男性が信号待ちの街宣車に近寄ってきた。「(仲井眞か、伊波か)どっちだ?」「伊波です」「そうか。がんばれよ!」
街中を回っていると、あちこちで道路工事や、建設工事が見られた。沖縄では、建設・観光・コールセンターが大きな雇用先となっているが、その現場を見た思いがする。選挙にあたって、コールセンターから選対事務所に、「仕事の支障にならないように、近くを通る時はボリュームに配慮してほしい」という要望が入っているそうだ。
このコールセンター、実は労働者にとってはあまりいい職場ではない。2008年の県調査によると、コールセンターにおける非正規労働者の割合は、約8割。労働条件も悪く、長続きしないのだそうだ。「コールセンターは、ほとんど苦情電話の処理です。うつになる人も多いし、特に若い人は長続きしません」というのが実情だ。
さて、露地を入り込んでいくと、人々が普通に暮らす風景がある。赤瓦、門や屋根に据え付けられたシーサー、T字路や三叉路などの突き当たりの家屋の外壁や塀に石でできた魔よけの「石敢當」と呼ばれる魔よけが、沖縄らしさを感じさせる。
保育所に子どもを迎えに来た母親。建設現場で働いている労働者。沿道沿いの商店。この街宣車を、どんな思いで見ているのだろう。
夕方、事務所に戻ると、仕事帰りの女性たちが事務作業をやっていた。