[政治] あの沖縄基地移転騒ぎは一体何だったのか?! オバマ対鳩山政権
──ガバン・マコーマック(オーストラリア国立大学名誉教授)/『ニューレフト・レビュー』7〜8月号/翻訳・脇浜義明
一貫した米の恫喝外交
「民主党が、本気で米日関係を変えようとしている」と日本通が言ったので、米政府は驚いた。鳩山政権が、破産寸前の麻生政権とオバマ政権との間で交わした海兵隊基地の辺野古移転を見直し、さらに年間40億ドルの「思いやり予算」の削減、米軍の地位協定の見直しを希望し、インド洋でのアフガン戦争に従事する米艦隊への給油活動も継続しないことなどを表明したからだ。
2009年10月、鳩山は「日本はこれまで米国に依存しすぎた」と、温家宝と李明博に言った。一方小沢は、官僚を排して日本の政策を作る国家戦略局を首相の下に設置する、という計画を出した。米政府は、直ぐさま不快感を表明した。
自衛隊の積極的活用を主張してきたジョセフ・ナイは、民主党政権を「選挙公約の奴隷となった素人集団で、内部もばらばら」と批判した。またアーミテージは、「米との同盟関係を軽視している」と言った。さらに東アジア専門家・リチャード・ブッシュは、「米国はこのような事態を、フィリピンのアキノ政権や韓国の蘆政権で経験済みだ。新政府の目を開かせ、正しい(米の利益に合致する)方向へ指導する」と語った。
「交渉」対象外の沖縄
だから、沖縄の米軍基地は日米間で「交渉」できる性格のものではないのだ。力の維持で一番大切な点は、その力を適所に配置することである。沖縄は、日本本土、台湾、朝鮮半島、南シナ海、マラッカ海峡を制する絶好の位置にあるから、この軍事基地は「交渉」の対象にはなり得ないのである。そのうえ、親分格米国の面目もあるし、世界の国々の目もある。
辺野古移転協定の見直しが問題の焦点となった2009年10月、ゲイツ国防相が来日、日本が協定見直しのために再交渉を申し出たら「重大な結果を招く」と脅し、北沢防衛大臣に、「オバマの日本訪問までに事態を整えるよう」命じた。沖縄の件で不服従を示すと「事態が複雑化し、非生産的」になり、「信頼関係」は打撃を受ける、と言った。ゲイツは、防衛省役人をすげなく扱い、彼のために用意された歓迎式典を拒否。晩さん会も潰した。
それでも民主党首脳陣は、「まだ決定されたわけじゃない」と、消極的抵抗を示した。このため、オバマの日本訪問は、シンガポールのAPECへ行く途中に一日だけ立ち寄るという、そっけない形に変えられた。
外務省と防衛省の官僚は、一致して首相の足を引っ張った。メディアも同じように、鳩山にブレーキをかけた。中道左派と言われる『朝日新聞』の舟橋洋一主筆は、ゲイツが帰国した後、一連の鳩山批判記事の中で、「米政府の忍耐には限度がある―普天間基地問題がこじれたら両国にとって不幸である」と書いた。
民主党閣僚も崩れ始めた。先ず北沢防衛大臣が「辺野古への代案はない」と言い、次に岡田外務大臣が、沖縄から海兵隊基地をなくすことは「考えられない」と言った。彼は「辺野古案に代えて、嘉手納の米空軍基地へ普天間の機能を移してはどうか」と提案した。嘉手納市の5分の4が基地で、それをさらに拡大せよという提案だから、沖縄の人々は激怒した。
『琉球新報』は、オバマ=ゲイツの「脅迫外交」に屈し、対米従属に戻る気配を見せる鳩山政権の無力さを嘆き、何のための政権交代だったのか?と問いかけた。一方、小沢幹事長は、国会議員と経済界人を引き連れて、これ見よがしに中国を訪問。次期主席と目される習近平国家副主席を天皇に会わせた。