[社会] 弱肉強食の世界 促進するTPP 「例外なき関税ゼロ」が日本にもたらすもの
──《インタビュー》日本消費者連盟 事務局長・山浦康明さん
国益や覇権主義に惑わされず公正な貿易を
菅首相は、APECでTPP参加を表明する予定だ。TPPは、例外なく関税ゼロをめざしており、農業の壊滅的打撃が予想される。推進派は、「平成の開国」などと煽るが、自由貿易による「経済成長」が何をもたらしたのか? 経済のグローバル化によって暮らしは良くなったのか? 考えるべきだ。そもそも日本の食料は、6割が外国から輸入されており、輸入自由化され過ぎているのだ。「経済成長」という見果てぬ夢を追うのではなく、差し迫る食糧危機、環境危機に耐えうる社会の構築こそ急ぐべきだ。(編集部)
日本農業に致命的打撃
── 仙石官房長官は、TPPを「第3の開国」と言い、山田正彦前農水相は、「国の形を変える大きな問題」と言っています。どのような変化・影響が考えられるのでしょうか?
TPPは、2006年5月に発効したFTA(自由貿易協定)の一つにすぎませんが、日本への影響は甚大です。特に農業への影響は、致命的となる可能性があります。
これまでの日本のFTA・EPAの相手国は、 シンガポール、ベトナム、タイ、ASEAN全体、マレーシア、ブルネイ、フィリピン、インドネシア、スイス、メキシコ、チリであり、農産物輸出大国との締結は避けてきました。
しかし、現在交渉中の相手国は、GCC(湾岸協力会議)、韓国、豪、ペルーで、豪州という農業輸出大国が控えています。TPPでは、米国が相手国となりますから、日本農業への影響はこれまでの比ではありません。
FTA・EPAでは、強い産業、輸出型産業だけが生き残り、多くの国内中小企業が打撃を受け、廃業に追い込まれました。
── 負の影響を受ける分野はどこでしょうか?
TPPの特徴は、「例外なき関税撤廃」をめざすことです。対象品目も、鉱工業製品や農林水産物ばかりでなく、簡易保険や公共サービスにも及びます。
2009年11月のシンガポールAPECにおいて、オバマ大統領が追加加盟を表明して以来、豪州、ペルー、ベトナム、マレーシアが加盟交渉を行っています。対中国包囲網を形成したい米国は、TPPでもリーダーシップを取ろうとしています。カナダも参加を希望しており、米国、豪州という農産物輸出大国が大きな影響力を発揮することになります。
このTPPに日本が参加すれば、日本の食料自給率は、40%から14%へと落ち込み、経済的損失は日本全体で4兆1000億円になると、政府は試算しています。特に北海道は、農産物の多くが米国・豪州と競合するため、農業の直接的影響は5563億円、北海道経済全体で2兆円超にもなる予想です。
政府内では、農業問題を重視するグループを懐柔するために、農業構造改革や、保護政策の議論が始まっています。しかし、いくら日本農業が大規模化したとしても、米国、豪州などの大規模農業に太刀打ちできません。輸出競争の論理に安易に乗ることは、将来に禍根を残すことになります。