[情報] フランス 「年金改悪反対!」の一斉ストライキ&デモ
街頭と議会の「亀裂」を突破するための議論を─杉村昌昭さん(龍谷大学教授)に聞く
フランス・サルコジ大統領は、10月に入って法定退職年齢(年金支給開始年齢)を60歳から62歳に引き上げるなどの年金制度改悪法案を通過させた。年金の赤字解消が目的である。
引き上げに反対するフランス全土の一斉ストライキとデモが9月以降、10月16日までに連続して5度行われ、毎回200万人前後の労働者が参加している。
パリの地下鉄では、約半数の労働者がスト参加。トラック運転手の労組は道路封鎖を行い、石油精製所では組合が職場占拠・閉鎖を行い、空港・ガソリンスタンドへの燃料供給をストップさせた。
街頭は「年金制度改悪反対!」の声で満ちているが、政府側は「年金問題は最優先で解決する」(サルコジ大統領)、「譲歩はありえない」(フィヨン首相)と対決姿勢を見せ、大衆運動・左派は、決め手に欠ける状況だ。
9月上旬に約2週間フランスに滞在された杉村昌昭さん(龍谷大学経営学部教授/専門分野・フランス文学、現代思想)に、ストの状況と、フランスの大衆運動や左派が突き当たっている「壁」について話をうかがった。(編集部 一ノ瀬)
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── フランス全土で、「年金制度改悪反対」のストやデモが起こっていますね。
私がフランスに滞在していた時も、フランスの主要労働組合が呼びかけたデモが、300万人規模で行われていました。年金法案が国民議会に上程された9月以降、反対デモ・ストライキが全国で繰り返されています。
ストライキでは、実力行動も行われています。パリの地下鉄のストでは約半分の電車が止まったり、トラック運転手の労働組合が道路封鎖したり、石油精製所の占拠でガソリンスタンドへの燃料供給に支障が出ています。
── サルコジ政権は、追い詰められているのでしょうか。
状況は、そう簡単ではありません。フランス国民議会は、基本的に右派が牛耳っていて、サルコジの居座りを支えています。対決するはずの社会党は、立場がはっきりしておらず、フィヨン内閣に、元「国境なき医師団」のクシュネルが外務大臣として入閣するなど、社会党右派はサルコジに取り込まれています。
サルコジは年金制度改革を「最重要課題」と位置づけ、デモにも「一切妥協しない」態度を明らかにしています。法案は既に9月15日に下院を通過し、10月20日には上院を通過するといわれています。
最も大きな問題は、サルコジが大きな権限をもち、強圧的な態度で臨んでいることです。10月に入って、デモへの高校生の参加が増えているのですが、サルコジ政権は、約4000校ある高校の1000校を封鎖しました。また警察を使って、暴力的に対応し始めています。10月14日には、バリケードを作っていた高校生に、警官隊が大型ゴム弾(直径約4センチ)を発射して顔面を負傷させ、大問題になっています。
── 年金問題で高校生がデモに参加したのですか?
高校生にとって、親の年金問題は、自分たちの将来の経済生活に直結しますし、自分たちの負担が増えるということでもあります。フランスでは若者の失業率が高く、雇用問題をはじめとした将来への不安が、デモ参加・授業ボイコット・バリケード封鎖などの形で表現されていると言えます。
サルコジがここまで弾圧をエスカレートさせるのは、2006年のCPE(新規採用した26歳以下の労働者につき、2年以内なら企業が容易に解雇できる雇用契約)の二の舞を演じたくないからです。CPEは、いったん成立しましたが、若者が次々と集まり、抗議のデモ・実力行動に参加したことで、撤回させました。彼は、それを恐れているのです。
── サルコジ政権下のフランスの状況はどういったものでしょうか?
サルコジ政権の性格を一言で表現するなら、「新自由主義の親米極右政権」ということになります。今、フランスで雇用不安・失業など低所得者層の生活不安が大きな問題になる中で、ロマの強制送還の問題でもわかるように、移民を敵視する強硬な態度を崩していません。
他方、「プア・ホワイト」(貧困白人層)とも称すべき貧しい若者たちの暴動が、地方を中心に日常化しています。サルコジは、そういった「社会不安」要因に対して、徹底的に弾圧する態度をとっています。