[社会] 世界的な「農地争奪」で何が起こっているのか? 地元住民追い出され難民化
──松平尚也(AMネット)
「農業投資」という名の土地収奪
2008年の食料危機以降、とめどない人間の食欲のごとく、世界規模で農地争奪の動きが拡大している。主な舞台となっているアフリカでは、すでに日本の農地面積の10倍以上にあたる約500万ヘクタールの農地が取り引きされているという。
農地争奪の動きの中で、根本的な問題は、現地住民やコミュニティの意見がほとんど無視されることだ。現地では何が起こっているのか?
今年10月、エチオピアのNGO「新しいエチオピアのための連帯行動」が、自国農地の売り込みをする駐インド大使を批判する声明を出した。売りに出された土地には、住民や牧畜民が利用する農地や牧草地が含まれていたからだ。
80以上の民族で構成される多民族国家エチオピア。同国では、人口の約1割が慢性的な食料不足に陥っている。しかしエチオピア政府は昨年、「国内外から農業投資を呼び込むため、約300万ヘクタールの土地を90年の長期リースで貸し出す」と発表。その面積は、耕地可能面積の約4割を占める。エチオピアでは、人口の約8割が農業・牧畜に従事し、土地や水資源は極めて重要だ。
しかし、エチオピア農務大臣は言う。「小農民が利用しているのは、その一部だ。インフラを改善し、雇用を生み出すためには、外国農業投資が不可欠なのだ」と。
エチオピアでは、農地争奪化で暗躍するインドの花卉(観賞用の植物)会社「カルトゥリ社」などが、すでに数十万ヘクタール規模の土地を取得し、農業生産を始めている。
アフリカに世界最大の「農地バンク」を持つと豪語するカルトゥリ社の農場は、そもそも誰が、どう利用していた土地なのか? 現地を取材したスイス・レブド紙によると、「元々は主食であるイネ科穀物のテフや牧草が栽培されていた」という。しかし現在は、「農場に近づくこともできない。カルトゥリ社が、家畜を通さないよう農場にフェンスを張り、溝を掘ったためだ。土地を追われた人々への補償は、ほとんどない」という。
同社の進出を契機に、エチオピア政府はインド政府や企業にさらなる売り込みをかける。その候補地の一つが、西部ガンベラ地方だ。ガンベラは、南スーダンとの国境に位置するエチオピア最西部の州で、10以上の民族が居住し、民族間の衝突が絶えない。
ここには、ナイル川支流河岸の沖積土など肥沃な土地がある。しかし、ガンベラ出身のニカウ氏は、「ガンベラのほとんどの土地や河川は、各々のコミュニティによって利用されている。政府や投資家らが言う未開墾の土地などない」と指摘する。
問題は、こうしたケースが特殊ではないことだ。実際、エチオピアに限らず、小農民や先住民らが、自給用作物生産や放牧のために利用してきた大地が勝手に売り出されており、現地住民の土地利用が制限される事態が頻発しているのだ。