[海外] ガザ・医療崩壊の危機 5000人の妊婦が医療を受けられなくなる
「開発なし、繁栄なし、人道危機なし」政策
ガザ支援船がイスラエル軍の急襲を受け、13人が殺害されたことは既に報じた。その後、続々と人道支援船の出港が計画されており、10月中旬以降再び、ガザの窮状とイスラエルの暴虐ぶりが、焦点化することだろう。
こうしたなか、ガザの医療が崩壊しかけているとの緊急アピールが、健康医療活動委員会連合(UHWC)から発せられた。同連合に緊急インタビューを行い、詳細を聞いた。イスラエルの「開発なし、繁栄なし、人道主義的危機なし」政策がいかに過酷なものか、一端が垣間見える。(編集部)
電気止められ自家発電で医療継続
── 電気の供給が極めて悪く、発電機で急場をしのいでいるそうですね。
ユーセフ氏…ガザ地区の電力供給源は、3つあります。@イスラエル電力(60%)Aパレスチナ電力(30%)Bエジプト電力(5%、ラファと国境付近の地域のみ)です。
イスラエル空軍が、ガザ唯一の発電所を攻撃(2005年6月)、ガザの電気供給システムを破壊しました。部分的に修復しましたが、パレスチナ電力は、燃料不足のため、稼働率30%程度です。
これに加え、イスラエルは電力供給カットを続けています。ハマスの選挙勝利後、イスラエルは、「ガザ敵性地」を宣言。人口増に伴う電力需要増加にも関わらず、集団懲罰の一環として電気供給を大幅に削除しました。
我々は、病院運営のために、私設発電機を1日8時間動かして急場をしのいでいますが、燃料不足・故障などのため、安定的な電力供給ができません。電力途絶のために医療装置・器具が度々故障し、封鎖のため修繕用部品も入手できないため、新生児集中治療室の患者の生命が危険にさらされています。また、冷却装置が働かないため、輸血用血液やワクチンの腐敗も起きています。
さらに、発電用燃料費用が高騰して、逼迫している会計に過剰な負担となっています。発電機を毎日12時間稼働させるためには700リットルのガソリンが必要で、費用は7万円/日です。このため、毎月の出費が約200万円増加しました。
住民全体の窮乏化は限界に達している
── アル・アウダ病院は1985年に設立されましたが、25年間にどのような変化がありましたか?
ユーセフ氏…イスラエル占領軍の「鉛の棺」作戦(2008年12月のイスラエルのガザ回廊攻撃)によるガザ攻撃と、5年間にわたるガザ封鎖は、住民に絶望をもたらし、我々の医療活動の維持も非常に困難になっています。
「鉛の柩」作戦後、歴史的転換が起きました。イスラエルの「開発なし、繁栄なし、人道主義的危機なし」政策が始まったのです。
貧しく不安定な生活を強いられていたガザの人々は、さらに窮苦へと追い込まれました。イスラエルは、物資の流入を止め、人の出入りも止めました。
またイスラエルは、07年後半からガスや電気の供給を減らしました。今年トルコのガザ救援船「自由の船団」への攻撃で、国際世論から集中批判を浴びた後に、一旦は封鎖を少しだけ緩めましたが、基本的必需品欠乏や生活維持に必要なサービスが成立しないほどの締め付けは、今も続いています。
とりわけ、健康医療関係の危機は深刻です。公共医療機関からの患者受け入れのためにどんどん大きくなる負担、燃料費高騰、患者やその家族の貧困や失業などで、パレスチナのNGOや医療機関は崩壊寸前に追い詰められています。NGO経営の病院の極度の財政難、患者の生活窮乏化で、地域全体の保健・医療は瀬戸際に立っています。
── 医療スタッフへの給与支払いも滞っているそうですが、財政逼迫の実情は?
ユーセフ氏…昨年は、戦争と患者の費用負担能力低下で苦労しましたが、地域や国際社会からの寄付でなんとかしのいできました。しかし、今年の展望は非常に暗いと言わざるを得ません。特に苦しいのは、母親・新生児医療に関する部門です。貧困と失業世帯の激増、国境封鎖、繰り返されるイスラエル軍の攻撃という非常事態の継続のため、医療活動の必要性が大幅に高まっているのに、物資、薬品、器具、燃料が不足し、人の移動も制限されているのです。
昨年と比較して今年は、分娩件数が約20%増加し、内視鏡検査も約3倍増のため、火の車であった運営資金がいよいよ逼迫しています。
今年6月、アル・アウダ病院は、幼児死亡を減少させるために、総合的母子健康治療の充実と、地域の低所得層に良質な医療を提供するために、無料の新生児集中治療室(NICU)(6ベッド)を設置しました。このため、運転費用の負担が跳ね上がっています。今年度の活動予算は3億3000万円ですが、見込まれる収入総計は2億7000万円で、6000万円の不足です。
ガザの経済状況は悪く、世界銀行やUNDPによると、失業率45%で、72%の住民が1日2ドル以下という貧困ライン以下の生活です。
そういう状況であるからこそ、給料の停滞や遅配にもかかわらず、医療者やスタッフは献身的に働いています。