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▲オランダ自由党(PVV)党首・ヘルト・ウィルダース移民担当大臣だったリタ・フェルドンク女史。「誇りあるオランダ党」CF撮影中に卵を投げられたこともあった 移民の権利は市民権だ!」
更新日:2010/11/03(水)

[海外] オランダ/難しい他文化共存社会の構築 排外主義が台頭するオランダ
──ユトレヒト大学研究員/小淵麻菜

移民の栄誉を称えたドイツ

サッカーが国のスポーツとも言えるオランダでは、この夏行われたW杯サッカーは、大イベントだった。しかし、国民の期待に沿って勝ち進んだ母国チームは、結局、決勝戦でスペインに破れた。試合後はブブゼラも鳴らず、歓声も起こらず、うそのようにひっそりとしていた。

それはさておき、その数日前、ドイツが3位を決めた試合の後、ドイツのスポーツ相がインタビューでコメントしたのが印象的だった。「ドイツチームの約半数は移民の出。彼らはドイツ人として努力を惜しまず、多大な貢献をした。信念を持って一生懸命働く者を、ドイツは平等に受け入れ、彼らは力を発揮する機会を獲得できる」というコメントだ。

オランダチームにも移民家族出身の選手はいるし、全体的に移民の増加は顕著だ。しかし、オランダの政治家が、移民出身者の栄誉を称えるこのような発言をするかどうか? なにしろオランダでは今回の選挙で、右翼政党の一つ、PVV(自由党)が大幅に議会の座席数を延ばし、3位を占めるという結果になったところだ。ドイツのスポーツ相の発言も、実は例外的である感が強い。ヨーロッパ全体では、移民は栄誉を称えられるどころか、むしろ、居場所を狭められつつある状況にある。

右傾化と反移民政策

オランダの右傾化、排外感情は、かなり前から顕著である。2年程前に、フェルドンクという政治家がTON(オランダの誇り)という政党を立ち上げ、一部の国民に熱狂的に支持された。政界でも影響力を強め、極端な移民政策を打ち出し始めたため、失脚したが、彼女が与えたインパクトは、PVVに受け継がれている。

ウィルダーズが率いるPVVは、真正面から反移民政策を唱えている。特にイスラム文化の否定は、あからさまだ。

イスラム系学校の全面閉鎖。新しいモスク建設の禁止。コーラン、ブルカ(ムスリム女性の全覆衣)の禁止。イスラム女性の頭髪を隠すベールには課税の新設、など。そして、ポーランド人、ブルガリア人、ルーマニア人に対する労働ビザの発給停止。犯罪を犯した外国人の国外追放、オランダとの二重国籍の否認。難民受け入れは1000人まで、などとなっている。

つまり、新しい移民の受け入れは最小限に留め、現存するイスラム移民には居心地を悪くし、なるべく退去を促す、というような政策だ。

先頃フランスでは、ムスリム女性の、公共の場でのベール着用を禁止する法律が通過し、ベルギー、スペイン、イタリアなどもそれに追随する動きがある。また、国民の大半がムスリムであり、トルコのEU加盟手続きが難航したことも、記憶に新しい。

ヨーロッパ全体が排外主義、とりわけイスラム移民に対する閉め出しや抵抗を工作している。人種、異文化偏見の国家レベルの現象に他ならず、明らかな倫理改悪である。

オランダは、移民を受け入れ、オランダ人と同等の社会保障を彼らに提供する制度を率先して整備した。「オランダ人が外国人に対して寛容で、我慢強く器が大きいからだ」と、これまでオランダ人は自負自賛してきたのだ。しかしその態度は、移民の増加に伴って崩壊しつつある。

オランダ人個人レベルでの、外国人に対する表面下の偏見は無視できない。アジア人である私自身、そして明らかに東洋人の顔をした私の息子は、赤の他人のオランダ人に理由なく蔑視される状況に、これまで何度出くわしたことだろう。

そして、PVVなどの右翼勢力が幅を利かせ議会の座席を獲得した事実は、排外感情がもはや、無教養のオランダ人に限られた例外的な現象として片付けられない、ということを示唆しているのだ。

オランダはその昔、多数の移民を受け入れて労働力を確保したが、それは主に東ヨーロッパからの白人だった。だから、オランダ人は当時、彼らに対して教育水準とかの観点からの蔑視は多少したかもしれないが、移民はもともと労働者で、同じレベルの競争相手ではなかった。

そして、移民たちは、仕事が終われば自分の国に帰りたがった。だから、双方問題はなかったのだろう。

しかし、その段階で整備された社会保障制度が、現在はモロッコ人、トルコ人、そして東ヨーロッパからの新しい移民に利用されている。働いたら自国に帰る、というのではなく、自国に比べて社会制度が整っているから、自分の国を捨ててもオランダに来たがる人もいる。それに対する嫌悪感も存在する。

しかし、積極的に労働者移民を入れた当初から、イスラム系や黒人は、移民としてさえ受け入れられない「問題外」だったのではないだろうか。そこに伝統的な有色人種偏見があったのではないか、と私は勘ぐっている。

私がアメリカから来たから余計に感じるのかもしれないが、何と言っても、この国は黒人が少なすぎる。大学の新入生がぞろぞろ白人ばっかりで、胸が悪くなりそうだ。

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