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更新日:2010/09/27(月)

[社会] 遥矢当/必要なことを理解してない介護事業者

デイサービス事業の理想と現実

「望んでいた介護のコンセプトは、建物に反映できたと思う」―これからデイサービスを立ち上げるという会社の社長は、すっかり舞い上がっていた。

私は、デイサービスの立ち上げ担当として採用内定を受けていた。渋谷の小さなイベント企画運営会社が、「入浴サービスにこだわった」デイサービスに参入してきたのだ。

私は、真面目に着実に介護に取り組む事業所であれば、そこで再スタートを切りたいと思っていた。しかし、見せられた資料からは、具体的な計画が何も見えてこなかった。

社長が誇らしげに語る建物の図面は、「建築士志望の未熟な学生が書いたのか?」と疑うような粗末なものだった。「こんなずさんなデイサービスなど、誰も利用しない。事業所が潰れたら、利用者が路頭に迷う」─私は思いとどまるように訴えたが、社長には、根拠のない自信がみなぎっていた。

内定を受けた直後、私はデイサービスの建設現場に出向いた。現場は、自宅から自転車で通える所にあった。賃貸マンション1階のテナントで、隣には、学習塾が入っていた。

夕方の作業後だったので、入り口から中をのぞくことができた。すると、段差だらけで、動線(*注@)への配慮がなく、魅力に乏しい内装だった。おまけに浴槽は、小さな家庭用のユニットバスが2基備えてあるだけだ。

介護施設での入浴に対する期待は大きい。なのに、お風呂を「売り」にするデイサービスで、自宅と変わらない貧相な浴槽での入浴なら、「一度利用すれば、もうこりごり」となるだろう。介護に無知な人による立ち上げの怖さを思い知らされた。

「このデイサービスに、一体どんな高齢者が来るのだろう」。私は疑問を感じ、この施設で働くことへの不安が増大していった。

介護事業所を立ち上げたい人たちにとって、デイサービスは人気が高い。初期費用があまりかからず、場所さえ確保出来ればスタートできるからかもしれない。

ただし、一定以上の利用率を維持できなければ、他の介護事業所と違って一気に経営は悪化する。快適な介護サービス提供を志してデイサービスを立ち上げる人は多いが、志は純粋でも、社会の現実に疎い場合、すぐに経営は破綻する。2008年度の介護事業所の倒産件数は、過去最高を記録している(*注A)。

介護サービスは、最期を迎える高齢者の生活を支える、一縷の望みでもある。いつも高齢者は事業者に「今度こそは」と期待しながら、裏切られてしまうのだ。

この国の介護が杜撰なのは、「介護で利益を得たい」という、事業者たちの思惑に弄ばれているからなのだろうか? 私は、それだけではない気がする。やはり、介護について本当に必要なことを、介護事業者が理解出来ていない。そして、高齢者の生活がどれだけ苦しいかという現実が、社会や政治に届いていないことの証なのだと思う。

*注@…介護施設で必要な動線(建物の内外において、人や物が移動する軌跡や運動量・方向・時間変化などを表した線。居住性を評価する指標として利用される)は、安全面の確保が最優先されるが、高齢者へのリハビリの観点も重要で、必ずしも最短距離で作るのが良い訳ではない。

*注A…帝国データバンクによる最新の統計による(‘09年5月)。

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