[情報] 書評/『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る アフガンとの約束』
閉塞した日本で「世界を見よ」と若者を後押しする中村哲という存在
過酷なアフガン情勢下にあって、冒頭「人は愛すべきものであり、真心は信頼するに足る」と語る中村哲の言葉にホッとさせられる。
かつて30年程前、そこには美しい自然と、のどかな遊牧民の平和な生活があった。1979年、旧ソ連軍の侵攻とソ連撤退後続く内戦、大干ばつ、飢餓。
そして2001年、「アルカイダ殲滅」の名のもとに突如として行われた米軍の無差別爆撃、侵略。
アフガニスタンの悲惨な状況は、一見絶望的に見える。それでも人々は希望を失わず、この困苦に耐えて井戸を掘り、水路を作り生きていることを、中村哲は淡々と語る。
そして、自らのことをほとんど語ることがない中村哲の人となりを、聞き手である澤地久枝がたくみに引き出していく。生い立ちや家族のこと、人生観、我が子の死を通じた死生観などを何気なく問い語らせることで、中村哲という人間を浮き彫りにしていく。
その中村哲という存在は、「世界を見よ」と、この閉塞した日本の中にある青年たちの肩を押し、未来を切り開く道を照らし出しているかのようだ。
「多民族国家アフガン」「イスラム教」「タリバン」なるものが何なのか、アフガンがどんな歴史をたどり、このような戦乱の地となったのか、中村哲がなぜ「命の水路」に賭けるのか、読み進むうちに自然と頭に刷り込まれていく。
そしてタリバン、アルカイダをごっちゃにして、罪なき人々を無差別に殺戮してきた米軍の犯罪性も、淡々と暴露していく。米軍が10万の兵士を投入しようとも、したたかなアフガンの人々を支配することは決してできないことも、良く分かってくる。
また日本は、アメリカ軍のアフガン攻撃に加担したことで、「戦争をしない国日本」というイメージを台無しにしてしまい、日本人ボランティア伊藤和也さんの犠牲へとつながってしまったことも、現地感覚で語られる。
この澤地久枝と中村哲の自然体の対談に触れることで、複雑なアフガン問題が素直に理解でき、そしてまた中村哲とそれを支える人々の実像を知ることで、大きな希望や勇気がもらえる。
最後に、この本の印税はペシャワール会の活動費に充てられることも付記しておく。(評者 松永了)