[社会] 「防犯」名目に ICT監視システムの構築
ユビキタス 見えず、「何時でも、何処でも、誰でも」 監視の実験が始動
「詳細はこれからです。国からの交付金のため、今年度中に予算を消化する必要があるので、それまでには何とか」(箕面市総務部市民安全政策課課長補佐・高岡実氏)。
大阪府箕面市が、国からの交付金(総額9933万円)で、今年度中に「ユビキタスセキュリティネットワークによる地域防犯力強化事業」(以下、「ユビキタスネット」)を実施する。内容は、明治の森箕面国定公園(以下、箕面公園)に監視カメラ(予定では7台)を設置し、@不審者・迷子などに対応(防犯力強化)、A箕面駅前に設置するモニターで、箕面公園を訪れる観光客へ滝道・箕面大滝のリアルな映像を提供する(観光・PR)─というもの。年間266万人(2008年度)が訪れる箕面公園への防犯力(安心・安全)を高め、イメージアップでさらなる観光客増につなげたい、という。
「ユビキタスネット」の詳細は検討中だというが、事業内容も不確かなままに、国が1億円もの予算を交付するわけがない。「防犯」の名目の裏に見え隠れする、総務省の「ユビキタスタウン構想」の実験モデルとしての箕面「ユビキタスネット」の背景を追った。(編集部 一ノ瀬)
予算1億円の「ユビキタスネット」
「そもそも、このユビキタスネットは、1億円近い予算をかけるというのに、目的が明確ではないんです」と指摘するのは、箕面市議・中西とも子さんだ。設置根拠であるはずの不審者・迷子の実態について、箕面市は、「数字は出ていない」(箕面市総務部・高岡氏)というお粗末さ。「防犯」を理由に「ユビキタスネット」を導入するという説明には、無理がある。
同じく箕面市議の増田京子さんは、「監視カメラの映像を、『防犯』と『観光』という、異なった2つの目的に使えるわけがありません」と批判する。防犯目的のためには、個人の顔を特定する精密な映像が求められるが、厳格な運用規定がなければ、監視・プライバシーの侵害にしかならない。また、観光目的での滝のライブ映像や、公園の混み具合を示す映像なら、パソコンショップで売っている、数千円程度のカメラで十分だ。
さて、防犯カメラの映像は、高速無線回線で阪急箕面駅前にある観光案内所・箕面市役所に送られ、そこの防犯情報モニターで監視される。現在、観光案内所には市の職員2人(観光協会職員とアルバイト)が常駐している。しかし、案内所で通常の案内業務をこなしつつ、迷子・不審者を発見して関係者に連絡することができるのだろうか? 「不審者」は、どこで判断するのか? 迷子・不審者が出た時、責任持った対応が実際にできるのか?
「ユビキタスネット」以外にも、箕面市は、「ICタグ等を活用した子どもの安全・安心見守りシステム構築事業」他に対し、総務省から2億2300万円の交付金を受けている。これは、市内の小学生にICチップを使ったタグを持たせ、校門に設置したセンサーで登下校をチェックし、センサーによる学校侵入者監視・校門オートロックを行うシステムだ。
「子どもの安全・安心」をいうその一方で、箕面市は学校の門前に立つ守衛の廃止を検討している。「顔の見える、地域の人とひととのネットワークこそ、安心・安全の基本であり、地域の活力」(中西さん)なのに、箕面市のやり方は、IT機器を導入することを優先しており、本当に地域の安全を考えたものか、大いに疑問だ。