[海外] オランダ/日本の幼児虐待とオランダのケアシステム
──ユトレヒト大学研究員/小淵麻菜
深刻な日本の幼児虐待
日本では、今年の年頭から子供の餓死事件が立て続けに報じられ、それを含めて幼児児童虐待を新聞で目にする機会が、あまりに多い。中でも、シングルマザーと内縁の夫の家庭でそれが多くみられる印象がある。
幼い子供を叱る親の行為は、「しつけ」という言葉で正当性を持つ場合もあるが、新聞記事を見ると、それらは親側の、「しつけだった」という自己弁護では到底説明することのできない事例ばかりである。それらは、確かな虐待であり、いじめである。しかも、それが次から次へと起こっている。
悲惨な虐待が少ないオランダ
ここで、オランダの社会事情を考えてみる。資料によると、オランダでは国民の人口の3分の1が、25歳以下の青少年。その85%は特に問題はないが、15%は何がしかの問題があり、その5%は重大な社会的、心理的な問題に瀕しているという。
児童虐待の報告、届け出を受け付けているARCANという組織では、2000年次において2万1350件の報告があった。しかし、アメリカにおける調査で、「届け出は実際の3分の1に留まる」という結果が出ており、これを考慮に入れると、実際にオランダでは、1年に5万件から8万件の虐待が起こっていると予測される。これは国中の子供の1.5%が日常的な虐待の被害に遭っていることになる、と出ている。
しかし、これは日本のような残虐な虐待事件には至っていないと思われる。そんなことが起これば、もちろんニュースになろうが、新聞でもネットでも、そのような記事は見ない。日本との違いは何だろうか。
子供と親を守る社会的システム
オランダでは、子供と親を守るシステムが徹底している。まず妊娠すると、地域のヘルスセンターの相談員が訪ねて来て、出産と出産前後の注意点などについて教えてくれる。出産後も一定期間相談員の家庭訪問が行われ、母乳や離乳食、衛生、成長などについて個人的・具体的に指導を受ける。
その後は、ヘルスセンターでの子供の身体測定や相談となる。もちろん子供の体はていねいにチェックされ、小さな傷や痣があれば、詳細を聞く。このシステムで私が感心したのは、全てが子供中心ではなく、新しく子供を持った親のための心身の健康がケアされることだった。
またこれとは別に、子供が生まれてから7日間、1日6〜7時間、ヘルパーが訪問する制度がある。生まれたばかりの子供を持つ親は、とにかく大変疲れる。しかし、ヘルパーが来て、新生児の世話の仕方を教えてくれるだけでなく、頼めば台所の片付けや掃除や簡単な昼食も作ってくれて、母親に短時間の睡眠を補償する。この上ない身体的心理的なサポートである。しかもこれは健康保険の基礎保険の一部なので、オランダの全家庭がこのサービスを享受できる。
このほど日本でも施行が始まった子供手当は、オランダでは1941年から始まっている。3ヶ月に一度支給され、支給額は現在、0〜5歳の子供1人につき195ユーロ(=約2万1500円)、6〜11歳が同じく237ユーロ(=2万6000円)、12〜15歳の子どもが同じく279ユーロ(=約3万600円)である。
公立小中学校に行けば、授業料はほとんど無料(1年に5000円位)。昼食は弁当で給食代はないから、手当は直接、食費や衣料費などに充てることができる(日本のような手の込んだ弁当ではなく、サンドイッチ。また子供の衣料は安価な店舗がある)。オランダの社会保障制度が行き届いていることを示す一端として、この子供手当は、親がオランダで働く移民の、母国にいる子供にまで支給されていることも、付け加えておきたい。
その他にも、働く親の労働時間の調整、学校時間外に子供を預ける施設の経費の一部負担など、企業も、子供とその家庭を守る制度を整備している。総じて、オランダでは、子供と、その親を守る基本姿勢が常識となっていることがわかってもらえるだろうか。